ルーツ②
ちひろのやつ、こそこそと何をしているのだ。彩は、イライラしていた。
『ちひろ、何をしているの。』
『あっ、彩先生。トレジャーハンターの勉強ですよ。闇雲に探しても見つからないのは分かってるから、とりあえず、基本情報を習得しようと思って、本を読みまくってるところです。』
『あなた、本気になってるのね。』
『はい。私は、三種の神器は日本国内にあるのではないかと推測しています。それを、まずは推測から確信に変えてから、見つけに出かけようと考えています。その時は、一緒に出かけてくれませんか。』
『もちろん、構わないわ。ちひろ、いや、ヒロ君。あなた、立派になりましたね。世界最強の暗殺者として恐れられていた男が、人として大きくなり、神に近づいているように見えるわよ。暗殺者のときは、確かに強かったわ。でも、これだけは、はっきり言える。今の方が強いです。そして、心も強く、優しいです。』
『私も、何となく、そう思ってます。暗殺者のときと何が違うのか。私には分かってます。仲間がいることです。仲間が私を強くするのです。』
『なるほど。納得したわ。でもね、バレエは、しっかりとやってもらうからね。田中理恵バレエ教室は、とても厳しい指導をするところよ。覚悟してね。』
バレエは、恥ずかしいよ。でも、レイちゃんが望んでいることだから、そして、みんなが喜んでくれるなら、仕方ないや。ポジティブに考えよう。
翌日、再びDGSEに飛んだ。
『約束通り、来たよ。』
ダニエルは、待ちわびていたようだ。お菓子とか、ケーキとか、ジュースも用意されている。
『はーい。ちひろ様。待ってましたよ。昨日は、突然の訪問でしたから、何もお構いしませんでした。今日は、スイーツを用意したから、好きなだけ食べていいですよ。』
この男、案外いい奴かもしれない。なんたって、俺の大好きなプリンも用意されているし。迷うことなく、プリンを手に取り、食べることにした。
『美味しい。とても、美味しいよ。ダニエルおじちゃん、ありがとう。』
ダニエルは、満面の笑顔をしている。
『ちひろ様。まもなく、依頼されていた鑑定結果が届く予定です。しばらく、ここでお待ちください。』
今度はショートケーキを手に取り、食べた。おそらく、どこかの有名スイーツ店が、あるいはパティシエを頼んだのだろう。どれも、凄く美味い。レイちゃんも連れて来てあげればよかった。
あれは間違いなく聖杯である。保管状態も万全のようなので、キリストの血液が残っている可能性は高いと思う。上手く、DNAが採取出来ればいいのだが。聖杯そのものが世紀の大発見であるが、DNAが採取されれば、それを上回る大発見になることになると思う。そして、これは最高機密事項に指定されるであろう。さらには、鑑定結果を抹消するべく、ある組織が動き出す可能性もある。危険が近づく可能性があるのだ。だからこそ、秘密を知るものは俺だけの方が都合がいい。
俺は、最後にアイスを食べた。口の周りが、クリームやらチョコやらで汚れている。ダニエルは、自分のハンカチで、綺麗に拭き取ってくれた。そろそろ、結果が届く頃だろう。聖杯の警護に当たっている分身仏から、まもなく戻ると連絡が来たからだ。ドキドキする。
ドアを叩く音がした。秘書らしき女性が部屋に入って来た。聖杯が入っている箱と、数枚の紙が収められているファイルを持っている。秘書は、それらをダニエルに渡した。
『お待たせ致しました、ちひろ様。こちらが、お預かりした器、そしてこのファイルの中に鑑定結果が入っております。どうぞ、お確かめください。』
分身仏によると、聖杯を入れ替えたり、傷つけたりはしていないそうだ。本物を返してくれた。まずは、一安心。さて、ファイルの中を見てみよう。ファイルは、数ページから構成されている。まず、聖杯からDNAが取り出せたかどうかがポイントだ。当然ながら、鑑定結果はフランス語で書かれている。俺は既にフランス語はマスターしているので、問題はない。
鑑定書の初めのページに器に付着している血液のDNA鑑定が書かれていた。よし!聖杯から、血液が採取出来たのだ。これだけで、大満足である。残りは失敗したとしても、再鑑定は可能だ。聖杯のDNAについては、細かく一覧表にされている。染色体の数から、人間であることは間違いない。まずは、キリストが人間であることが、証明された。
『ダニエルおじちゃん、ありがとう。これで論文が書けるんだあ。』
『ちひろ様、一つ質問してもよろしいでしょうか。』
『なあに?』
『先ほどの器は、何なのですか。』
『それは、ヒ、ミ、ツ。でも、ダニエルおじちゃんには、ちょっとだけ教えてあげる。その器からね、ちひろのルーツが分かるの。じゃあ、また来るね。バイバイ。』
俺は大宮に瞬間移動した。




