トレジャーハンター②
夜、彩先生と今日の出来事について話をした。
『これが、聖杯です。キリストの手紙の中に書かれていた「手紙とともに私の気持ちを贈ります」の私の気持ちとは、聖杯のことだったのです。そうではないかと疑ってはいたのですが、確証がつかめませんでした。しかし、今日の交通事故で、やむを得なく使用し、幸いにもレイちゃんの命は救われました。間違いなく聖杯です。』
『これが、あの聖杯。私も使おうしら。不老不死になれるのですよね。』
『それは、危険です。私利私欲の為に使用とすれば、逆の効果になるはずです。つまり、不老不死どころか、たちまちに死がやってくるのです。』
『あら、残念。もっと美しくなりたかったのに。で、ちひろも飲んでないのね。』
『俺、いや、私は飲んでしまいました。このグラスを見た翌日に、何の疑いもせずに、ミルクをガブガブ飲んだのです。頭の中、空っぽでしたから大丈夫でした。』
『それでは、不老不死になったということね。』
『でも、もともと死なない体質だから、何の変化もありません。』
『レイちゃんも不老不死になったのかしら。』
『それも分かりません。試すことも出来ません。』
『これは、厳重に管理しないといけませんわね。しかし、なぜだか、貴方のところに、世界中の宝物が集まって来ますわね。ダヴィンチの絵といい、キリストの手紙といい、さらに今度は聖杯でしょう。ちひろは、トレジャーハンターでもやればいいわ。世界中の宝物を集めるのよ。』
『偶然が続いただけです。探そうと思っても見つからなかったと思います。』
『貴方の自分探しの旅も同じかもね。無欲の方が案外、早く見つかるかもしれないわ。』
『はい。そう思います。私、調べたんです。トランプ教団のことを。トランプは4種類のマークがあり、ハートはある物を表しているのです。ハートは、「心」だと勝手に思い込んでいたのですが、違うのです。ハートのマークは「聖杯」表していたのです。トランプ教団のハート軍が守っていたのは、聖杯だったのです。いつか、ジョーカーが現れるまで、その日まで、代々と受け継がれてきたと思います。』
『その説明、説得力あるわ。それなら、同じように三種の神器も誰かに託されているのかも知れないわ。』
何やら、新たなキーワードが飛び出してきた。
『三種の神器?それって、天皇家に伝わる宝物のこと?』
『そっちも三種の神器ですけど、私が言っているのは、古代ユダヤの三種の神器のことよ。知らないの?』
『うーん。知らないです。』
『アロンの杖。マナの金の壺。そして、十戒の石版。この3つが三種の神器と言われてるの。レイダース失われたアークという映画見たことない。あの映画で出てくる箱のことをアーク(聖櫃)と呼ぶんだけど、その箱の中に三種の神器の十戒の石版が入っていると言われてるのよ。』
『喪われたアークなら、知ってます。映画では、ナチスが探し求めていたけど、最後はアメリカのどこかの倉庫に納めてラストになったはずです。アロンの杖とマナの壺は、全く知らないです。』
『これも映画になったことあるけど、古い映画だから知らないかな。モーゼの十戒。』
『そらなら、昔、テレビで見たことあります。確か、海が2つに割れるやつ。』
『そう。そのモーゼが持っていた杖が、アロンの杖。他の物体に変化することが出来る魔法の杖なの。そして、モーゼが神と交わした約束事がモーゼの十戒。それが書かれているのが十戒の石版。マナの金の壺は、壺の中から無限大に食料が出てくる不思議な壺のこと。』
『彩先生、さすが物知りです。なんか興味が湧いて来ました。』
『ちひろや、ヒロ君にとって、本当に必要ならば、きっと巡り会えるかもね。』
偶然ではなくて、必然で、巡り会えるということなのか。何気なく、彩先生の話を聞いていたけど、もしも必然なら、どこを探せば見つかるのかのヒントが分かったかも知れない。
全てが必然というのであれば、何気無い毎日の中にこそ、ヒントがある。レイちゃんは、その辺のところのアンテナが強力で、小さなことでも見逃さない。そんなレイちゃんを見ていて、俺自身も洞察力が高まっている。
伐折羅大将が、「謎は日本国内にある」と述べていた。彩先生は、三種の神器を探せと安易に言っている。これが必然ならば、三種の神器は日本国内にあるはずだ。まさか、そんな単純に事が運ぶなんて、偶然にも程があると思われるだろう。だから、偶然ではなくて、必然だと思えるのだ。誰かの大きな意志が働いていると思えば、素直に考えられる。間違いない。ユダヤの三種の神器は、日本にある。
キリストの手紙を見たとき、ヘブライ語と日本語が似ているという話をした。そのとき、君が代は、ヘブライ語で書かれている説を話したと思う。ユダヤと日本には、なぜか共通点が多いのである。日ユ同祖論を唱える人もいたりする。日本人とユダヤ人の祖先は同じだという説である。もちろん、異論や反論をする人もいるが、共通点が多いのは、確かに不思議ではある。
あてもなく、日本国内を捜しても、見つかるようなものではない。しかも、自分探しの旅には行かないと宣言しておいて、「宝探しに行きます」などとは決して言えない。
まずは、どこに行くのかを考えないといけない。日本の歴史を紐解いていく。資料を探そうと思うが、手っ取り早く学びたい。ならば、ヨーロッパのバチカンに当たるようなところで、資料集めをするのが早い。ここは、顔の広い彩先生のアドバイスを聞くのが良さそうだ。皇室関係なら、色々と秘密なる資料があるかも知れない。
『彩先生、私、ユダヤの三種の神器を探してみようと思います。なんか見つけられるような気がするので。それで、日本の秘密が隠されているところで思いつくところ、ありませんか。』
『ちひろは、自信過剰なところがあるから、気をつけないとダメよ。でも、ポジティブなところは褒めてあげるわ。そうねえ、古い資料が保管されているところと考えたら、神社仏閣よね。最初に思いつくのは、正倉院。それから、伊勢神宮。出雲大社。法隆寺、東大寺。そんなところかな。』
どこも警備が厳しいところだ。
『あの〜、彩先生の力で、どこか資料を見せてもらえるところはないですか。』
『なるほど、コネを借りたいということなのね。ちひろ、私の権力を侮ってはいけませんよ。私に不可能は無くてよ。』
『という事は、どこでもOKということですね。』
『そうよ。でも、一人では行かせないわよ。私も旅行したいし、家族一緒の方が楽しいでしょ。一人にしたら、悪さするかも知れないから、見張らないとね。』
さっきは、「自由」と言っていたのに、結局、束縛されてしまうのか。でも、確かに、みんなと一緒なのは、素直に嬉しい。
トレジャーハンターというより、国内旅行として、日本の歴史を巡るツアーと考えるとワクワクする。さて、最初にどこに行こうか。いずれにせよ、下調べをしておこう。
『ねえ、ゆかすみさん、見て見て。』
『あらあ、可愛いわね。早速、着せて見ましょうか。』
かすみと彩先生が、何やら楽しげに話ししている。キャッキャ、キャッキャと笑い声が聞こえる。俺は、ひたすら本を読んでいた。
『レイちゃん、ちひろ、こっちにおいで。いい物、見せてあげるわよ。』
彩先生は、ご機嫌だ。レイちゃんは走って、俺は、トコトコと近づいていった。リビングの絨毯の家に、白い物が置かれている。
『わーい。これ、レイの?』
『そうよ。こっちが、レイので、そっちが、ちひろちゃんの。』
レイちゃんが服を脱ぎ始めた。下着姿になると、今度は青い服を着はじめた。
『あっ!』
俺は少し離れたところで立ち止まった。そして、レイちゃんの姿を見た。青いレオタードに、白いタイツ、そして、白いバレエシューズ。バレエの練習着だ。確か、俺のもあるようなことを言っていたはずだ。俺は向きを変えて、逃げようとした。しかし、それは無駄だ抵抗であった。彩先生にすぐに、捕まってしまったのだ。
『こら、ちひろ!逃げても無駄よ。貴方が自分で決めたことでしょう。』
そう言いながら、俺の服を無理やり取り去り、そして、バレエの練習着を着せ始めた。俺のは、よりによってピンクのレオタードだ。サイズはピッタリ。こういうところは、抜け目がないのが彩先生である。水着よりも、さらに恥ずかしい。
『はい、はい!こっちに来て、並んで〜。』
かすみが呼んでいる。俺は条件反射で、ゆかすみに近づいていった。
レイちゃんと二人、並んで立っていると、パシャリ!スマホで、写真を撮られた。
『二人とも可愛いわあ。早くレッスンに行きたいよね〜。』
そう言いながら、彩先生が取り出したのは、バレエ教室のパンフレットであった。
『ここに決めたのよ。田中理恵バレエ教室。一流のバレエ教室なの。来月から、週一回のレッスンで申し込んだからね。』
レイちゃんは、バンザイをして喜んでいる。そして、見よう見まねに、ダンスを踊り始めた。
『ちひろちゃんも、ダンスしてえ。』
かすみに言われたので、適当にジャンプしたり、回ったりしてみた。
『あらっ、ちひろ。嫌なふりして、本当は嬉しいんじゃないの。ダンス、お上手よ。』
彩先生がニコニコしている。俺は、嬉しいわけではない。恥ずかしさを紛らわせるために、体を動かしているのだ。
『二人とも、可愛いわ。来月から、ちゃんとレッスンを受けてね。半年後には、初めての発表会があるからね。楽しみだわ。発表会の衣装は、どんなのかしら。ワクワクしちゃうね。』
彩先生のご機嫌だ。参ったなあ。発表会に出るなんて、恥ずかしすぎる。そもそも、バレエは、ヨーロッパのダンスであり、伝統芸能のはず。日本人なら、日本舞踊とかを習うべきではないのか。しかし、そんなことを言ったら、さらに日本舞踊も習うことになるから、言わない方が無難だ。そんなことを考えていたら、なぜか、頭にひっかかる物が浮かんできた。




