トレジャーハンター①
夕方、彩先生が呑気に帰ってきた。今日の出来事を、かすみから聞かされて、顔が青ざめていた。
『ちひろ、こっちにおいで。』
俺は、怒られるものと思っていたが、予感は外れた。
『かすみさんから聞いたわよ。レイちゃんの窮地を救ったのね。あなたは、もう一人前ね。かすみさんと同様、私も、束縛はしないわよ。あなたは、あなたの進むべき道に進みなさい。』
あまりにも意外な言葉だったので、俺はビックリしてしまった。そして、みんなの優しさに、嬉しくなった。俺は自分の気持ちを告げる為、ヒロの姿に戻った。
『かすみ、彩先生、そしてレイちゃん。俺、離れないよ。ずっとここにいるから。ずっと一緒にいたいから。なぜなら、みんなが好きだから。ただ、どうしてもやらなければならないことがある。自分が何者なのかを探さなければならない。答えがどこにあるのかも分からない。雲を掴むようなものかもしれない。いつまでかかるのか分からない。見つからないかもしれない。そう、自分探しの旅に出たいと思っている。』
一気に、気持ちを話した。かすみと彩先生は、納得しているようで、頷いていた。しかし、レイちゃんの反応は違った。
『レイ、やだよ。』
顔が膨れている。怒っているのか。そう思っていたら、今度は大声で泣き始めた。
『やだよ。やだよ。ぼんちゃんも、ちひろちゃんも、どっか行っちゃうのは、やだよ。』
レイちゃんが俺に抱きついてきた。俺は心が揺れた。
『レイ、ヒロ君を困らせてはいけませんよ。明るく、笑顔で気持ちよく送り出しましょう。』
かすみが、レイちゃんを諭した。俺は、どうすればいいのだろう。
俺は、レイちゃんを放って旅に出ることは出来ない。かすみの「気持ちよく送り出す」の気持ちは嬉しくてたまらない。彩先生の突然の優しさにも感謝している。だが、レイちゃんの気持ちも大切にしたい。何故だろう。この3人の女性たちだけは、どうしても、放っておけない。迷っていると思っていたが、俺の中で、すでに結論は出ていることが分かった。今、一人で旅に出ることは出来ない。自分探しの旅と、レイちゃんの気持ちを天秤にかければ、答えは至って簡単である。
『レイちゃん、俺、旅には行かないよ。さっきの話は、まだ先のこと。レイちゃんとちひろちゃんが大人になってからのことだよ。』
俺は、そう言いながら、レイちゃんの頭を撫でた。これでいい。
『ヒロ君、結局、いつも優しいね。本当は、私もレイと同じ気持ちなのよ。』
『ああ、分かってるよ。かすみが無理していることは、分かるよ。でも、さっきの言葉、嬉しかった。』
俺は、かすみを抱きしめた。この感触、俺には棄てることなど出来ない。
『まあ、私の目の前で抱き合って、お恥ずかしくないの。お二人さん。』
そう言ってはいるが、彩先生は笑っている。
俺の判断は正しかった。結局、レイちゃんの言葉が、俺を正解に導いてくれたのだ。ハッピーエンドとなると思ったが、そうとはならなかった。
『ヒロ君の自由は無しということで決定ね。そうと決まったら、さっさと、ちひろに戻りなさい。』
いつもの彩先生に戻っている。
ドサッ❗️
『いっぱあ集めてきたわよ。バレエ教室のパンフレット。どこにしようかしら。かすみさん、一緒に決めましょう。』
しまったあ。バレエのことなど、すっかり忘れていた。やっぱり、旅に出ればよかった。




