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俺の弱点①

 翌日、政府専用機で羽田に戻ってきた。すっかり忘れていたが、今回の旅行は、パスポートなしの強行だったのだ。彩先生の恐るべきコネクションには、頭が下がる。羽田空港からは、リムジンで大宮まだ送ってもらい、マンションに戻った。これから、普通の生活。日常が始まるのだ。ここには平和な暮らしがある。この日常を壊してはならない。

 俺は、ほぼ全ての謎を解き明かすことができた。まず、もう一人のジョーカーの件だが、答えは、「もう一人も俺だ」、未来の俺のことを指しているのだと分かった。もう一人のジョーカーとは、あのダヴィンチの大天使のことだ。つまり覚醒した俺のことだ。

 キリストの手紙の最後の文章の謎も分かった。だが、これは確かめようがない。そして確かめることは、すなわち危険に繋がる。もし、俺の考えが間違いなら、取り返しがつかなくなる。キリストの言う「いつか」を待つしかないと思った。

『ねえ、ちひろちゃん、赤ちゃんに戻って。レイがお世話してあげるから。』

この子が救世主の母。守るべき者だ。俺はこの子には逆らえない。何故だか、素直になれる。俺は、女児からベビーに姿を変えた。オムツを当てがわれ、ベビー服を着せられ、よだれかけにおしゃぶり、完全に赤ちゃんに戻った。レイちゃんが母になるとき、救世主はこんな感じにお世話されるのだろうか。そう考えれば、大切な予行練習になる。レイちゃんの日常に無駄はない。

『あら、レイちゃん、ちひろちゃんの面倒をみてあげてるの?偉いわね〜。』

かすみがやってきた。いつ見ても綺麗だ。そして、かすみにだけは恥ずかしさを感じてしまう。

俺の弱点。それは、やはり、かすみだ。


 かすみとレイちゃんにあやされ、優しくされ、心が満たされていく。そして、毎度のことだが、この体だと体力が持たない。すぐに眠くなってしまう。睡魔と戦ったが勝てなかった。俺は眠りについた。

 俺はよく夢を見る。大抵は、どうでもいい内容の夢だが、ときどき、夢の中で新たな発見をしたり、謎を解いたり、予言をしたりする。今日も変な夢を見た。ベビーな俺が誰かに抱かれている。誰なのかは分からない。顔が隠れて見えないからだ。見えるのは二人の顔。法王と彩先生だ。俺がバチカンで法王から彩先生に預けられた場面のようである。そこに、もう一人いたのだ。その人が俺を抱いている。この夢が本当なら、法王も彩先生も俺に何かを隠していることになる。何故だ。俺を抱いていたのは何者だ。俺の母親か、父親か。それとも第三者か。考え始めたところで、目が覚めた。

 一度、疑問が生じると、ずっとその事が頭から離れない。執着心が強すぎる。俺の長所であり、弱点でもある。

 俺の強さは、2000年前から保証されていた。あのキリストも認めている。俺自身の感覚としても、もはや対等に戦える人はいないと思える。伐折羅大将、阿修羅大王など俺より強いと思う者はいるが、もはや人ではない。しかし、すぐに自信過剰になってしまうのが、俺の弱点である。身を引き締めないといけない。

 夕食の時、彩先生に聞いてみた。

『彩先生、わたしの弱点って何ですか?』

『何々。そんな簡単な質問に答えないといけないの。弱点なんていっぱいありますわ。まず、顔が不細工。それから、頭が悪いこと。すけべなこと。キリがないわあ。』

ただ、悪口を並べただけではないか。

『そうじゃなくて、悪と戦う上で、何か弱点とかあるのかなあと思ったの。もし、弱点があるなら、克服したいと考えたの。』

『ちひろにしては、前向きな発言ね。正直に話すと、まあ、戦うことに関しては、特に大きな弱点はないと思うわ。』

珍しく、彩先生が褒めてくれた。

『レイ、ちひろちゃんの弱点を見つけたよ。ちひろちゃんの時も、ぼんちゃんの時でも、弱点を知ってれば勝てるよ。』

俺は動揺した。他の人が言ったとしたら無視できるのだが、レイちゃんの発言は、何かしら確証があるはずだ。

『レイ姉ちゃん、わたしの弱点を教えて下さい。』

『教えないよ。だって、教えたら、ちひろちゃんが悪いことした時、やっつけられなくなるから。』

秘密にされると、余計気になる。そもそも、弱点を克服したいのは、レイちゃんの為なんだけど。

『そしたら、私に教えて下さる?』

『いいよ。彩姉ちゃんなら教える。あのね、、、』

『ちょっと待って。ここで、こそこそ話したら、ちひろちゃんに聞かれちゃうわ。ちひろちゃん、耳がいあから。あっちで教えて。』

そう言うと、レイちゃんと彩先生は部屋を出て行った。

 俺は常にレイちゃんの元に分身仏を配置している。ウイルスサイズなので、見つかることはない。もちろん護衛のためだが、今回はスパイになってもらう。レイちゃんと彩先生の会話を聞いて、報告させるのだ。他の人であれば、会話など聞かずに、心を読み取れば済むのだが、前にも説明した通り、レイちゃんの心は純粋が故に、透き通っていて読むことが出来ないのだ。一方、彩先生の方は心を読み取られないように防御を張っている。そこで、分身仏の登場ということなのだ。

 しばらくして、分身仏から連絡が入った。二人の会話が理解出来ないと。二人はイタリア語で話しているらしい。全く用心深い二人である。驚くべきはレイちゃんの頭脳である。たかが一週間程度のイタリア、バチカンの旅行で、イタリア語をマスターしてしまうとは。とても、3歳の子供とは思えない。まさに天才である。この策略は彩先生の提案だろう。しかし、彩先生は見誤っている。俺の頭脳も相当高いということを忘れているのだ。レイちゃんと同様、俺も一週間でイタリア語をマスターしているのだ。今、送り込んでいる分身仏は、イタリアに行く前から警護に当てていたものだ。俺は別の分身仏を送った。この分身仏はイタリア語を理解できる。しかし、時すでに遅し。二人の会話は終わっていた。

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