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キリストの手紙②

『ちひろ、起きなさい。』

彩先生の声で目が覚めた。いつの間にか眠っていたようだ。

『法王がお呼びよ。行きましょう。』

そう告げると、彩先生は瞬間移動した。俺も、すぐに後を追いかけた。

場所は法王の執務室である。法王とカルメレンゴが待っていた。

『お待ちしておりました。どうぞ、お掛けください。』

法王は、微笑んでいた。心の大きな方である。それにひきかえ、俺はドキドキと、ワクワクで胸が一杯である。

『彩様、ご依頼の翻訳が出来ましたので、ご確認ください。古代ヘブライ語をイタリア語に翻訳しました。勝手ながら、それをさらに日本語に訳しております。』

法王がカルメレンゴに資料を渡した。カルメレンゴが彩先生と俺に、その資料を配ってくれた。資料は2通。イタリア語と日本語の2通だ。俺は迷うことなく、日本語の資料を手に取り、それを読んだ。一文字ずつ、しっかりと読んだ。



『 Dear Chihiro

この手紙を貴方様に送ります。

私の願いが届くことを望みます。

私は、人々が平穏に暮らせること、

争いごとがないこと、

そんな社会を望んでいます。

残念ながら、人々の心は安らかではなく、些細なことで争いを繰り返しています。

私のことを救世主と呼ぶ者がいますが、それは違います。

私は預言者です。

私の死後、一時的に平和が訪れます。

それは一瞬のこと。

宗教の違い、人種の違い、ただそれだけで、これより2000年あまり

平和な世界は望めません。

しかし、私には分かります。

真の救世主が生まれることを。

それは美しい女性の遺伝子を受け継ぐ真の勇者です。彼により、人々の心は解放されるでしょう。

ちひろ様、

貴方様には不思議な力が宿っております。

その力は、大きく、無限の可能性を秘めているでしょう。

おそらく、この手紙を受け取った時には、まだ覚醒していないでしょう。

目覚めるのです。

そして、その力を人々のために使いなさい。

この世界の為だけではなく、

あらゆるものを助けることに使いなさい。

そして、その偉大なる力を貸して頂きたい。

貴方様に救世主の母親を守って頂きたい。

そして、生まれた救世主を育てて頂きたい。

それが私の望みであります。

この手紙は私の弟子たちによって受け継がれ、2000年の時を隔て、無事にちひろ様に届くことでしょう。

手紙とともに私の気持ちを送ります。

受け取って頂きたい。

いつか役立つ時が来るはずです。

Jesus Christ 』


 預言者キリスト。これはまさに、2000年前に、現在のことを予言したものだ。

『どうですか。ちひろ様、いやヒロ様。』

『不思議な感覚。それが正直な感想です。この手紙を読むと、2000年前に、俺の誕生、俺の特殊能力、そして、かすみ、レイちゃん、さらにはレイちゃんから生まれるだろう救世主を予言している。この手紙で、俺の推測が確信に変わりました。手紙とともに預かったダヴィンチの岩窟の聖母の絵。左側の子供はちひろ、つまり俺の今の姿。そして、右側の大天使、それは将来の俺の姿です。キリストの予言に書かれている「覚醒」に目覚めた俺が、レイちゃんと救世主を見守っている姿だと確信しました。』

俺は淡々と感想を述べた。本当は興奮しているのだが、自分の使命の重要さに緊張していたからだ。

『ヒロ様の力は十分に理解しています。手紙に書かれている主様のお考えですと、今の力は、まだ未熟であると思えます。私はこう思います。今の貴方の力は、外面的なもの。物を破壊したり、人を殺めたり、あるいは敵からの攻撃を防御したり、いずれも外面的なこと。主様の言っている「覚醒」に目覚めるとは、さらに一段上のレベルの力ではないでしょうか。その覚醒に期待を込めているものと思われます。貴方は、さらなる修行をしなければならないと思います。』

さすがは、法王。手紙の意図を見抜いている。心の修行をしなければならない。今の俺の力で、かすみやレイちゃんを守ることは出来るであろう。しかし、生まれて来るであろう救世主を育てるのは、難しい。子育ては、母であるレイちゃんと、将来の伴侶が行えば間違いない。キリストが言う『育てる』と言うのは、救世主としての心を鍛えると言うことだと思う。ならば、それに見合う精神を俺自身が身につけなければならない。キリストの予言、法王の助言。いずれも当たっている。俺の脳みそは幼い。ただの甘えん坊であると自覚している。さて、この甘えん坊の心をどうすれば変えられるのか。レイちゃんの年齢を考えると、タイムリミットは、早くて20年後か。それまでに何とかしなければ。


『ちひろ、何を迷ってるの。貴方の心が未熟なことは、みんなが知ってることよ。今さら、ジタバタする必要などなくてよ。甘えたい時は、かすみさんに素直に甘えればいいの。心の修行は、すぐ近くに見本がいるじゃない。ちひろのお姉ちゃんよ。レイちゃんの心を学びなさい。その他の事は、私が今まで以上に厳しく躾けますから、安心しなさい。』

俺はコクリと頷いた。大切なことを忘れていた。俺には素晴らしき仲間がいることを。普通の生活を真面目に送って行くことで、多くのことが学べる。そうだ。それでいい。

『彩先生、俺、素直さに欠けていました。もっと素直になります。』

『こらっ!「俺」じゃないでしょ!ちひろ、女の子らしくしないといけませんよ。』

『はい、彩先生。』

『法王、一つ質問をしていいかしら。』

彩先生が法皇に語りかけた。

『この手紙の最後の部分が、ちょっと分かりずらいのですが。』

『さすがは彩様です。私も同じ疑問を持っていました。「手紙とともに私の気持ちを送ります。受け取って頂きたい。いつか役立つ時が来るはずです。」この文のことですね。』

『はい、そこの部分です。どんな意味だとお考えですか。』

『私にも意味が分かりません。「私の気持ちを送ります」私の気持ちというのは、主様の気持ちのことなのか。あるいは何かを例えているのか。受け取るとは、文字通り気持ちなのか。それとも物質的なものなのか。いつか役立つの「いつか」とは、どんな時のことを指しているのか。この文章は、どんな風にも読み取れてしまいます。』

『そうよね〜。難解だわ。』

法王も彩先生も悩んでいる。カルメレンゴが呟いた。

『ちひろ様に当てた手紙なのですから、解読できるのは、ちひろ様だけかもしれません。』

『なるほど。そうかもしないな。ちひろ様は、どう思われます?』

『こらっ、ちひろ、黙ってないで答えなさい。』

カルメレンゴの言っている事は当たっている。俺には心当たりがあった。心当たりが本当なら大変なことになる。だが、不確実なことなので、今は黙っておこうと思った。

『よく、分からないです。もう少し考えないと、分からないのかも。』

適当に答えて誤魔化した。


 有意義な旅行であった。旅行前の疑問がかなり解けたこともそうだが、何より、かすみとレイちゃんが楽しんでくれたのが嬉しい。2人の笑顔は、俺に勇気と活力を与えてくれる。

『法王、この2枚の絵、それと手紙をバチカンに寄贈します。ただし、手紙については、公開を控えた欲しいです。私の存在、レイちゃんの存在が明らかにされるのが怖いからです。ただし、ダヴィンチの絵については、タイミングを見て公開して頂いても、いいと思います。これは私たちの手には余ります。全人類の宝だと思います。』

『ちひろ様の心、素直にお受けいたします。ここは、貴方様の故郷です。いつでも、お越しになっていただいて構いません。もちろん、かすみさん、レイちゃんも歓迎します。』

法王は、笑顔で我々を送り出してくれた。

 さあ、日本に帰ろう。法王はバチカンが故郷と言われたが、やはり、俺にとっては、日本が故郷だ。新宿が懐かしい。

 俺の中で、謎は全て解けた。あとは、前進するのみ。未来に向けて。



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