ルーブル②
ダニエルはガンメン蒼白になっている。昨日、あの2人がDGSEで大暴れしたことを思い出したからだ。
俺は、館長のところに歩いて行った。
『あのね、おじちゃん、ダニエルおじさんの言っていることは本当だよ。わたし、特別なのよ。ここでは、見せられないから、どこか広いところ、出来れば誰もいない公園みたいなところを案内して。』
『何だ。このガキは。私に命令するのか。まあいい、何を見せるのか知らないが、ご希望の場所に案内してやるよ。こっちに来い。』
館長は、怒っている。ダニエルは、怯えている。彩先生は、笑っている。かすみは、岩窟の聖母に集中している。レイちゃんは、お菓子を食べている。館長の後をついて行き、ピロティ、つまり中庭に着いた。
『ちひろ、ほどほどにね。』
了解だ。俺は宙を浮いて、旋回を始めた。すると、レイちゃんも同じように宙に浮き、旋回を始めた。レイちゃんは、遊んでいるのだ。館長の動きが止まった。俺は口から炎を吹き出し、そして大声で吠えた。
『バビブビベロビバ、バブー!』
2日連続の魔人バブーの登場だ。今日は天井がない。昨日より大きく変身した。ピロティに生えている樹木を抜き、グルングルン回して外に出放り投げた。次に、おそらく大理石で造られているだろう太い柱も抜いて、粉々にした。さらに、隅に置いてあった車を片手で持ち上げ、隣の建物の屋根に乗せた。レイちゃんは、長官の頭の上でダンスを踊っている。
『こ、こ、これは夢か。』
『館長、夢なんかではありません。昨日、DGSEは、この子1人にめちゃくちゃにされました。』
『なんてことだ。』
『館長さん、どう?信じてもらえたかしら。この子は特別な子なの。ダヴィンチの絵は、この子が、ある組織を助けたお礼で頂いたものなのです。ちひろ、戻りなさい。』
彩先生の号令で、俺はちひろに戻り、館長の横に降りた。
『ね、おじちゃん、あたし凄いでしょ。』
俺は館長に微笑んだ。
『さて、今度は私の番ね。』
彩先生は、そう言うと瞬間移動した。すぐに戻ってきたが、誰か連れている。アメリカ大統領だ。また、瞬間移動した。今度は朴正恩を連れてきた。さらに、繰り返し、フランス大統領、そして最後にローマ法王サンフランシスコを連れてきた。
『これが私の力よ。ここで、サミットでも開催しようかしら。』
彩先生、やり過ぎです。国際問題になりますよ。
『分かった、分かった。もう勘弁してくれ。』
それを聞いて、彩先生は、首脳たちを元に戻しに行った。
『話しはついたようなので、もう一度、岩窟の聖母を見に行きましょう。』
彩先生の機嫌が戻った。館長が先導し、俺とレイちゃんは、館長の頭上を飛びながら、他の人は、その光景を見ながら後をついて行った。
『館長さん、先ほど渡した絵をもう一度広げていただける?』
『はい、承知致しました。』
館長には、もう反抗する力は残っていない。二つの絵を見比べることにした。まるで、間違い探しをするような感じである。そう、二つの絵の相違点を探すのだ。最初に気がついたのは、館長であった。さすがは、専門家。
『右側の男の人の顔つきが、少し違うような感じがしますね。』
うーん、俺にはよく分からない。
すると、かすみが話し始めた。
『確か、右の人は大天使ガブリエルと言われてますよね。でも、変ね。私には、どうしても女性に見えてしまうわ。』
言われてみると確かに。ルーブルの絵と比べると、俺が持ってきた絵の方が、優しい顔つきをしている。中央の聖母はレイちゃんを、右手の子供は救世主、つまり、これから生まれるであろうレイちゃんの子供。左の子供は、俺を暗示している。ならば、右手の大天使は誰を暗示しているのか。他の3人の例から見て、ガブリエルではなく、誰かを示しているはずだ。先入観から男性だと思い込んでいたが、かすみの言う通り、女性かもしれない。俺とレイちゃんに関わる女性といえば、かすみと彩先生だが、絵を見る限り、断定は出来ない。答えは、キリストが俺に宛てた手紙の中にあるはずだ。優しい目をしたこの絵の本人は、敵ではないだろう。瞳の先は、どこを見つめているのだろうか。謎は深まるばかりだ。
さて、そろそろ帰ることになるかな、と思っていたが、そうなるはずなかった。これも当たり前だ。ここはルーブル美術館。宝の山なのだ。かすみも、レイちゃんも目がキラキラしている。彩先生も、すぐに察知したようだ。
『ダニエル。パリに泊まることにするわ。どこかホテルを用意して。館長さん、もうちょっと見学させて下さいね。』
『分かりました。』
ダニエルと館長が同時に返事した。それから数時間、館内をくまなく見て回った。俺も、ゆっくりと見学するのは初めてだったので、とても満足した。かすみは、一つ一つの作品を丁寧に見ていく。レイちゃんは、全ての作品を吸収しているような感じであった。
この日は、ダニエルが用意したパリのホテルに宿泊した。館長については、記憶の操作をして帰らせた。
何だかこの日も、長い一日であった。ホテルに到着すると、ホテル内のレストランで軽く食事をとり、各自、思いのままに、あっという間に眠りについた。
翌日、せっかく、パリに来たのだから、ということで、パリ観光をすることになった。ダニエルは、よほど彩先生が怖いのか、ほとんど奴隷のように命令を聞いている。おかげで、観光の手配は完璧であった。一日で、パリ市内の主だった観光地を全て見ることが出来た。予定が大幅に延びたが、かすみもレイちゃんも喜んでいた。明日は、バチカンに戻り、例の古文書の件を片付けよう。




