ルーブル①
約束通り、DGSEのダニエル長官が迎えにやってきた。ダニエルの案内で、ホテルの屋上に向かった。屋上には、ヘリポートがあり、フランス空軍のヘリコプターが待機していた。俺ら4人とダニエルがヘリコプターに乗り込むと、すぐに空に舞い上がった。天気が良く、眺めも良かった。かすみも、レイちゃんもヘリコプターは初めてだったようで、異様に興奮している。2人の笑顔が見られて、俺は嬉しかった。
ヘリコプターは、10分ほどの遊覧飛行をし、ローマ空港に到着した。ヘリコプターの降りた場所から、そう離れていないところに、特別機が用意されていた。コンコルドだ。フランスの音速旅客機。全席がファーストクラスのVIP御用達の飛行機だ。今度は、俺も興奮してきた。これなら、パリまで1時間で到着できる。コンコルドに乗り込んだ。機内はパーディーさながらの、料理や飲み物が用意されていた。綺麗なCAも数人乗っている。しかし、俺はダニエルの隣に座り、食事を食べさせてもらった。ダニエルは、ロリコンのようだ。こいつの気分を上げといてやれば、間違いなく最高の接待を受けられると思った。俺の思った通り、約1時間でパリに到着した。空港にはリムジンが用意されており、ルーブル美術館まで、白バイ先導のもと直行した。
ルーブル美術館に到着すると、館長が出迎えてくれた。
『お待ちしておりました。先ほど、ローマ法王から連絡を頂いております。岩窟の聖母に、ご興味があるということですね。早速、ご覧いただきましょう。こちらへどうぞ。』
おそらく、彩先生が法王にルーブルに行くことを伝えたのであろう。館長自ら出迎えたのは、そういう理由からだと思った。そして、館長の発言に一番驚いていたのは、ダニエルだ。我々がローマ法王の知人ということに驚きを隠せないでいた。館長の後を歩き、美術館の中に入った。
ルーブル美術館は広い。全てを鑑賞するには、一日では無理である。館長が最初に案内したのは、世界一有名な絵画であった。個室になっており、絵画は一枚のみ展示している。「モナリザ」だ。俺に美術的才能はゼロである。それでも、他の絵とは違う魅力を感じる。かすみとレイちゃんは、絵を食い入るように見ている。
『この絵って、ちひろちゃんが持っていた絵と、同じ描き方してるね。』
レイちゃん、凄すぎる。一目で、同じ作者であることを見抜いた。この絵を描いたダヴィンチが、俺のことを予言している絵を描いたと思うと、不思議以外の言葉が見つからない。
『皆様、いかがですか。普段は、最も混雑している場所なのですよ。では、岩窟の聖母に、ご案内しますね。』
館長は声高らかに話した。モナリザとは、別のフロアに岩窟の聖母は展示してあった。
『こちらが、岩窟の聖母です。』
『ママ、凄いよ。ちひろちゃんが持っていた絵と同じだね。名前も書いてあるしね。」
えっ!この絵にも、名前が刻まれているというのか。彩先生が、鞄から鏡を出して、絵にかざした。レイちゃんの言っていることは本当であった。左の子供の傍に『Chihiro』の名前が鏡文字で、隠されている。俺がハート軍から譲ってもらった絵は、間違いなくダヴィンチの絵であると証明された。
『ちょっと質問していいですか。』
館長が何か聞きたいらしい。
『どうぞ。なんでございます。』
『先ほどから、そこの小さな女の子が、ちひろちゃんの持っている絵と同じだねと、仰っていますが、レプリカか何かをお持ちなのですか。』
彩先生がニヤリとした。
『館長、違いますわ。この子ではなくて、そっちの子が、岩窟の聖母の本物を持っているのよ。』
館長とダニエルが驚いている。しかし、館長は驚いたが信じていないようだ。ダニエルは、昨日からの奇跡を目の当たりにしているので、「またかあ」という顔をしている。
『まさか、レオナルドダヴィンチの絵ですよ。そんな小さな子が持ってるとは思えませんが、どこかで偽物をつかまされたのではないですか。ここでも、ときどきあるのですよ。鑑定してほしいと依頼してくることが。でも、99パーセント偽物です。』
『か、か、館長。この方々に失礼のないよう、お願いしますよ。この方々は、嘘はつきません。私が保証します。』
ダニエルが怯えながら、館長をたしなめた。こんなところで、魔人が出現して暴れ出したら、そりゃあ大騒ぎになる。世界の宝の倉庫なのだ。ダニエルが慌てるのも無理ない。ダニエルは暴れさせまいと、俺を捕まえ、抱っこした。
『ちひろ、大人しくしてなさい。館長、5分待っててもらえる?絵を取って来ますから。』
館長は、何を言われているのか分からない様子である。困った顔をしていたとき、彩先生は、部屋を出て行った。
『おじちゃんたち、大丈夫でちゅよ。彩姉ちゃんは、すぐに戻ってくるから。』
俺は、館長とダニエルにそう言った。
本当に5分ちょうどで、彩先生は戻ってきた。
『お待たせ。持って来ましたわ。』
『あの〜、どちらに行ってらしたのですか?』
ダニエルが恐る恐る質問した。
『バチカンよ。ローマ法王に会ってきたの。貸していた絵を取りにね。はい、これが先ほど説明した、ちひろが持っていた絵よ。』
『あの〜、ローマ法王をご存知なのですか?』
『昔からの友人というか、まあ、簡単にいうと舎弟ね。はい、これ。』
おいおい、法王を子分呼ばわりしたぞ。全く恐れ多い。ローマ法王と聞いて、館長もダニエルも、慄いている。
彩先生は、筒ごと、ダニエルに手渡した。ダニエルは、厄介ごとを嫌うタイプらしい。その筒を開けることなく、館長に手渡した。
『館長、あなたも鑑定の能力があるのですよね。ならば、その絵をよく見てごらんなさい。私たちの言っている意味が理解できるはずよ。』
館長は、未だ信じていないようだ。おそらく、彼が言うように何度と偽物を見せられてきたのであろう。渋々、筒の中から、絵を取り出した。丸められた絵を両手で伸ばし、絵を見始めた。徐々に館長の顔が赤くなってきた。興奮している。
『ちょっと待ってくれ。メガネ、メガネ。』
そう言いながら、メガネをかけ、もう一度、絵を見る。
『ちょっと待ってくれ、何だ、えっ。ちょっと待って。こ、こ、これは、ダヴィンチの絵に間違いない。いや、まさか。そんなはずない。しかし、いやいや待て。』
我を忘れているとは、こういうことを指す。
『どうかしら。信じてもらえたかしら。』
『うーん。私の目には、本物としか映らない。本物かどうかは、正式な鑑定をしないとならないですが。しかし、どこで、これを手に入れたのですか。』
『詳細は言えませんが、場所はスペインね。ちなみに、バチカンに行っていたのは、この絵を法王に見せたことと、これに付随していた古文書の翻訳の依頼をするため。』
『そうですか。スペインですか。』
館長は怪訝そうな顔をしている。
『しかし、何故、小さな女の子がこんな貴重な絵を手に入れたのですか。私は、どうしても納得出来ません。』
館長には、理解できる範疇を超えているのだ。館長の質問にダニエルが割って入ってきた。
『館長、お願いです。その子を刺激しないでください。その子は特別なのです。』
『長官、何を怯えているのだ。さっきから変だぞ。それより、この方々は、何なのだ。たかだか日本人、しかも女性4人に、どうしてこんな待遇をしているのだ。さっきの行動も怪しい。5分間でバチカンを、往復して、ローマ法王に会い、そして、絵を取ってきた。これを信じろと言うのか。私は騙されんぞ。長官、場合によっては、これは責任問題になりますぞ。』
『館長、貴方には理解出来ないことを、私は何度も目撃しているのです。この4人は、普通ではないのです。我々の常識外の方々なのです。』
『長官、目を覚ませ。DGSEの長官ともあろうものが、こんなペテン師に騙されるとは、恥ずかしくないのか。先ほどの鑑定は撤回させてもらう。この絵は、偽物だ。どうせ、高く売りさばこうと思ってるんだろう。馬鹿馬鹿しい。』
ああ、俺は知らないぞ。彩先生の怒りが爆発しても、知らないぞ〜。




