観光③
『それで、彩様、私に何か説明を求めにいらっしゃったということですが、何を説明すればいいのでしょう。』
俺がニコニコしているので、長官は安心したようだ。
『私は、私の特別な友人にルーブル美術館を見学させたいと思い、その手配をCIAに依頼したの。そしたら、いきなりローマで宿泊していたホテルに、貴方の手下が乗り込んできて、危ない目にあったって訳なの。私の友人を危険な目に合わせるとは、どういう事なのかを説明して欲しいと思ったの。どんな経緯かを教えて下さる。』
長官は困惑した様子である。
『申し訳ございませんでした。ただ、私の耳には全く入っていない事案でしたので、即刻、調べるよう命令を出します。』
長官は嘘をついてはいまい。この男、悪い人間ではない。そして、彩先生のことを恐れてはいるが、信頼もしているようだ。
『それなら待たせてもらうわ。どこか寛げるところに案内なさって。』
長官は秘書らしき男を呼び、何やら伝達している。
『分りました、長官。早速、調べさせます。』
『とにかく、最優先事項で頼む。』
その間、俺をずっと抱っこしたままだ。
『彩様、こちらへどうぞ。』
今度は秘書らしき女性が登場し、別室へ案内してくれた。VIPルームのようだ。俺は、ちょっと疲れたので、長官の腕から降りて、ソファーで横になった。
『まあ、可愛い女の子。お眠なのね。』
女性秘書が、毛布をかけてくれた。俺は眠りについた。
俺は夢を見た。かすみとデートをしている夢だ。和食の店でディナーを取り、新宿の街を腕を組み歩いた。この幸せな感じ、永遠に続いて欲しいと思った。
夢から覚めて思った。そういえば、最近、かすみと二人っきりでデートをしていない。忙しさを言い訳にして、放っておいた俺が悪い。今度、食事に誘うと心に誓った。
コツコツ‼️
ドアがノックされた。ダニエル長官と、もう一人の男が入ってきた。
『彩様、お待たせいたしました。詳細を説明致します。この男は、国際情報局の局長でアンドレと言います。国外からの情報をまとめる仕事の部署の責任者です。アンドレの方から説明します。』
『この度は、申し訳ありませんでした。調査したところ、おっしゃる通りCIAより、こちらに問い合わせがあったようです。「うちに所属している宗彩聖とその一行が、ルーブル美術館を見学したいと言っている。我が国にとって最重要人物がである。国賓級で接待願いたい。手配の方を宜しく頼む。」という内容だったらしいです。それで、ルーブル美術館の手配をすると同時に、宗彩聖様についての調査に入ったというのが事実です。私どもの仕事は、ご存知の通り、国の安全に関わる職務であります。若い職員が、彩様の身辺を調査するというのは、ごく自然なこと。調査過程で、彩様の経歴が極めて優秀で、というよりも、優秀過ぎると言ったほうがいいかもしれません。そんなお方が、ルーブル美術館見学など、わざわざCIAを通すなどあり得ないと判断したようなのです。最近の世界情勢は、不安定この上ないのです。いつ、どこで、テロが起きてもおかしくない状況です。我々の組織の最終判断は、彩様の名を語り、CIAとDGSEを隠れ蓑に本国に入国し、テロを企てている危険人物。そう考えてしまったのが真実です。組織の上の者であれば、宗彩聖、あるいは赤崎彩の名前を聞けば、ああ、あの方かと分かるのですが、今回の件は、上層部まで情報が回らずに、通常業務として処理されてしまったのが原因です。大変、申し訳ございませんでした。』
いかにも官僚的な言い訳に、彩先生がイラついているのが分かった。
『それで、ローマまでやってきて、私たちをテロリストとして、逮捕あるいは抹殺しようとしたということなのね。まあ、いいわ。今回の件は、CIAにも責任があるわね。CIAについては、こちらで責任を取らせますが、DGSEもきちんと責任を取りなさい。いいわね。それと、テロリスト呼ばわりしましたけど、本気になれば、私とこの子の2人だけで、この国など簡単に潰せますわよ。いいこと教えてあげる。ミスは一度だけ。2度目はないことを覚えておきなさい。』
俺は、ソファーから立ち上がり、アンドレのところまで歩き、3mほど手前で止まった。挨拶がわりに、アンドレの顔にめがけて、口から火を吹いてやった。脅しだ。アンドレは驚き、腰を抜かした。
俺は、次にダニエルの方に歩いて行った。そして、またもや抱っこのポーズを取った。ダニエルは苦笑いをしながら、俺を抱っこした。
『おじさん、優しいから好き。』
俺は心にもないことを囁いた。ダニエルは嬉しそうな笑みを浮かべた。
『ダニエル、私たちはローマに戻ります。明日の朝10時に、紳士を迎えに来させなさい。日帰りでルーブル美術館に行けるよう手配もして。国賓級の扱いでね。先ほども言いましたが、ミスに2度目はないですからね。』
『はい、承知いたしました。明日、私がお迎えに参ります。』
『ちひろ、いらっしゃい。帰るわよ。』
俺は、ダニエルから降りて、彩先生のところに行った。彩先生は、俺の耳元で囁いた。
『ちひろ、あんた随分と女の子らしくなったわね。女の武器を身につけたようだわ。ダニエルは、あなたにメロメロみたいよ。さあ、帰るわよ。』
俺と彩先生は、瞬間移動でローマのホテルに戻った。




