観光①
翌朝、法王とカメルレンゴ、そして僧侶らに見送られて、バチカンを出国した。出国といっても、イタリアに入るのに、税関はない。せっかく、イタリアに来ているのだ。かすみとレイちゃんの為に、観光をすることにした。2日間かけて、ローマ市内の観光を行なった。コロッセオ、真実の口、トレビの泉、パンテオン、スペイン広場なとなどの名所を満喫した。その間、歩きながら、ジェラードを食べたり、ランチでピザを食べたり、楽しかったあ。俺は心からそう思った。この3人といると、どこに行っても楽しい。3人の笑顔を見られると、幸せを感じるのだ。見るもの全てを吸収していくレイちゃん。美しいものに心を動かし、嬉しさを体全体で伝えるかすみ。その二人を温かい目で見ている彩先生。皆、素敵な女性だ。その美しい3人が、俺のことを守ってくれる。俺は3歳の女児の姿だから。
『ちひろちゃん、歩くの疲れててない?休憩しようか?』
レイちゃんは、優しい。俺は、そんなレイちゃんを尊敬している。
『大丈夫よ。レイ姉ちゃん。』
『ちひろちゃん、そのワンピース、可愛いね。』
俺が今日、来ているのは、以前、バチカンに来た時に、法王からプレゼントされたピンクのワンピースだ。俺は、恥ずかしくて、顔を赤くした。
『ねえ、ママあ。ちひろちゃんが恥ずかしがってるよ。可愛いね。』
『まあ、本当ね。ちひろちゃんは、スカートが慣れてないから、恥ずかしいのね。』
かすみに言われて、ますます恥ずかしくなり、もう、居たたまれなくなって、かすみに抱っこを求めてしまった。
『ママ、抱っこ。』
『あらあら、ちひろちゃんは、甘えん坊さんね。おいで。』
俺は、かすみの腕の中に体を預けた。ここが世界で一番嬉しい場所だ。
俺が、かすみに抱っこされた時、レイちゃんが一言、呟いた。
『ねえ、彩姉ちゃん。この前の絵と同じのは、どこにあるの?見に行かないの?』
ダヴィンチの「岩窟の聖母」のことを言っているのだ。
『レイ、本物の岩窟の聖母を見てみたい?』
彩先生が、笑顔で答えた。
『レイちゃんは、好奇心が旺盛で偉いわ。でも、岩窟の聖母は、この国にはないのよ。フランスのパリに展示してあるの。明日、見に行きましょうか。』
『本当。やったあ。彩姉ちゃん、ありがとう。』
それを聞いた直後、彩先生は、どこかに電話をし始めた。どうやら、フランスにも大きなコネがありそうだ。何とも頼りになる姐御である。
この日は、ローマのホテルで休んだ。もちろん、スイートルームである。一日中、歩き回ったので、皆、直ぐに眠りについた。
翌朝、部屋の電話で起こされた。
女性陣は、コールを無視して眠りについたままだ。俺が電話に出た。
『ボンジュール。』
『ボンジュール。マドマゼール、Sou Ayasei?』
『She is my sister.She is sleeping now.』
そう、言うと、電話が切れた。何やら嫌な予感がする。俺は不測の事態に備えて、分身仏を3体出し、女性3人の警護を依頼した。
5分ほどした時、ドアをノックする音がした。俺はちひろの姿のまま、身構えた。
ドアのチェーンをかけたまま、ドアを開けた。ドアの隙間から男2人の顔が見えた。目つきが鋭い。一目で一般人ではないと分かる。危ない訪問者と分かる。
『宗彩聖は、いるか?』
ターゲットは、彩先生なのか。俺は3歳女児の技で、分からないふりをした。
『おじちゃん、誰?何の用?』
男は、引きつった笑顔で答えた。
『おじちゃんは、宗彩聖さんに用事があるんだ。お嬢さん、このドアを開けてくれるかな。』
そんなこと言われて、「はい、分かりました」と開ける馬鹿がどこにいるか。開けたら最後、間違いなく部屋に押し入り、彩先生に襲いかかるはずだ。しかし、どこの組織の命令でやってきたのかを知る必要がある。早朝から暴れたかはないが、生け捕りにするしか方法はないと決断した。
『分かったから、待っててね。今、鍵開けるから。』
俺は、そう言って、ドアチェーンを外した。男は「しめた」という顔をして、ドアを大きく開けた。俺は、オーラを男2人に向けて照射し、一瞬で気絶させた。男が倒れる音で、彩先生が起きてきた。
『朝っぱらから何の騒ぎ?』
睡眠を妨害されたことに、怒っているようだ。機嫌がすこぶる悪い。
『怪しい男2人が彩先生を訪ねてきました。こんな朝早くに訪問するのは、明らかに不自然です。部屋に押し入ろうとしたので、取り敢えず気を失わせました。』
彩先生は俺の説明を受け、納得したようだ。そして、倒れている男の持ち物の確認を始めた。
『この2人、プロだわ。私の名前以外に何か言ってなかった?』
『ボンジュールとか、マドマゼールとか言ってましたが、それ以外は話ししてません。彩先生のことを宗彩聖さんと呼んでました。』
『フランス人ね。おそらくDGSEよ。』
『DGSEって、まさかフランスの情報機関が動いているということですか。』
『間違いないわ。なぜなら、昨日、CIAに電話して、フランス入国の手配を取るように命令したのよ。ルーブルに行くためにね。CIAの動きを察知したDGSEが、私たちを調べにやって来たってことね。』
俺は重要なことを忘れていた。彩先生はCIAに所属している現役の諜報部員であることを。
『この2人、どうしますか?』
『そうねえ。仕方ないわね。身から出た錆。あとは私に任せて。』
彩先生は、再び、どこかに電話を始めた。
いったいどこに電話しているのだろう。早口の英語なので、何を話しているか分からないが、怒っているのは分かる。
『ちひろ、行くわよ。』
『行くって、どこに?』
『頭悪いわね。フランスに決まってるでしょ。DGSEに乗り込むわよ。』
『でも、この2人を放って置くわけにはいかないでしょ。』
『あなた、本当に馬鹿ね。少しは頭を使いなさい。分身仏を2人出して、かすみさんとレイちゃんに付き添わせなさい。2人で不安なら10にんでも、20人でもいいわ。とにかく、完璧に守れるようにして。』
『は、はあ。』
『何なの。文句あるの?すぐにCIAが来るから、この2人を引き渡し、そしたら出発よ。』
『分かりました。』
彩先生が電話していたのは、CIAだったようだ。
5分ほどすると、ドアを叩く音がした。再び目つきの悪い男が2人やって来た。CIAのようだ。彩先生は、倒れている男を引き渡した。
『さて、行くわよ。場所はDGSEの本部。私について来なさい。』
そう言い残し、彩先生は瞬間移動した。




