奇跡③
しばらくして、カメルレンゴが書類の束を持ってきた。一目で古い書類だと分かる。
『何分にも古い書類なので、滅多に見ることはないものです。しかし、我々バチカンに古くから伝わる書類です。』
『自分には、この文章は難し過ぎます。トランプ教団について、要点を教えてもらえませんか。』
『カメルレンゴ君、君から説明してもらえるかい。』
『はい、承知いたしました、法王様。トランプ教団は、世界の秩序を守るために結成された秘密結社と言われています。大きく四つの組織に所属分かれており、まさにトランプの如く、スペード、ハート、ダイヤ、クラブがその組織名と言われています。スペードは王族や貴族を、ハートは我々のような僧侶を、ダイヤは商人を、クラブは農民を見守り、平和に貢献しているということらしいです。。そして、トランプ教団の上には四人の女神がいるそうで、トランプ教団自体の逸脱を監視しているそうです。すべて、資料に書かれているだけで、誰も見たことはないのです。』
『なるほど。そうであれば、やはり私が会ったのはトランプ教団で間違いありません。トランプ教団のスペード、ハート、ダイヤ、クラブ、それぞれのキングにお会いしています。今回、譲り受けたダヴィンチの絵などは、ハートのキングより受け取りました。』
『そうでしたか。私たちバチカンは、トランプ教団の監視下にあるものと思っています。しかし、なぜ、ヒロ様はトランプ教団に会われたのですか。』
『トランプ教団のハートのキングが悪魔に操られていたのです。四つの組織のバランスが崩れたことを危惧し、先ほど言われた4人の女神、彼女たちは精霊と呼ばれてましたが、その4人が、俺に助けを求めてきたのです。それで、ハートのキングを悪魔から助けたわけです。ダヴィンチの絵は、そのお礼だと思っています。』
『この古い書物によれば、トランプ教団が乱れた時は、ジョーカーと呼ばれるものが現れ、事態を収拾すると書かれておりますか、ジョーカーにも会われたのですか。』
『トランプ教団の4人のキングに優劣はなく、ひとたび乱れると、事態を収拾することは困難。そこに現れるのがジョーカー。ジョーカーは、3人の神を従えて現れ、圧倒的な強さで、制圧をする。法王、筒の中に、もう一枚の古い絵があります。それが、ジョーカーと3人の神です。』
法王は、筒から絵を取り出した。
古い絵には4人が描かれている。法王とカメルレンゴが絵を凝視している。俺はスマホを取り出し、写真を探した。スペインで記念に撮った自撮りだ。
『これを見ていただけると一目瞭然です。』
スマホの写真を2人に見せた。写っているのは、鬼のような大男、顔が三面ある男、キラキラの剣で覆われ手が何本もある男。そして中央に俺が写っている。
『この写真はトランプ教団の城で、俺が撮ったものです。その絵と見比べてください。』
今度は写真を凝視している。
『この絵はトランプ教団のクローバー軍のキングから頂いたものです。古くからトランプ教団に伝わるジョーカーの予言書だそうです。絵に描かれているのは、ジョーカーと3人の神です。写真と見比べてくだい。』
『まさか、ヒロ様がジョーカーということですか。』
『俺自身もジョーカーの存在が気になり、どんな男なのか会ってみたいと思っていました。そんな時に、この絵を見せてもらい、気づいたのです。俺がジョーカーだということを。悪魔に操られているハートのキングにそれを知らしめるために、3人の神を呼び出し、そして、ハートのキングを助けたのです。ちなみに、3人の神を俺に引き合わせたのが、レイちゃんです。3人ともレイちゃんの純粋な心に打たれ、俺の仲間に加わってくれたのです。奇妙な連中ですが、心強い味方です。』
『そうでしたか。ヒロ様がジョーカーとして、トランプ教団を救ってくださったのですね。』
『結果からすると、そうなります。それで、今回、バチカンに来た理由は、残りの一枚の書にあります。ご覧になって頂くと分けると思いますが、このままでは全く読むことが出来ません。この書を読むためのヒントがダヴィンチの絵に隠されていました。ダヴィンチの絵の中に文字が隠れているのです。ダヴィンチが好んだ鏡文字で。』
俺は手鏡をダヴィンチの絵に置いて、文字が分かるようにした。
『どうですか?四人の人物に名前が記されています。中央が聖母マリア、右の子供がイエス、その隣が大天使ガブリエル、聖母の左側に書かれている子供が「ちひろ」です。つまり、この俺です。』
法王とカメルレンゴは、呆気にとられていた。
『この絵に、そんな文字が書かれていたとは、全く気が付きませんでした。』
『実は、俺も全く分かりませんでした。ところが、レイちゃんが見て直ぐに気がついて教えてくれたのです。さらに、古い書についても、レイちゃんがいち早く、あることに気がつきました。この書も鏡文字になっているのですが、さらに上下も反転しているのです。このままでは、読みづらいと思いますので、上下、左右を反転させて印刷し直したものを用意してあります。こちらをご覧下さい。』
俺は、コピーした用紙をテーブルの上に置いた。
こうして改めて見てみると、なんとも不思議な書である。
『これは、手紙だと思っています。一番上に書かれているのが、宛名だと思われます。そして、最後が差出人。これに気づいた時、俺は鳥肌が立ちました。』
俺がそう説明すると、法王が文字を読み上げた。
『宛名は、「Chihiro」。差出人は「Gesu Cristo」。こ、こ、これは、主イエスがヒロ様に宛てた手紙ということですか。』
『そうと思わざるを得ません。宛名と差出人は、イタリア語なので、何とか読めたのですが、本文がまるでダメ。おそらくは、ヘブライ語。イエスが俺に何を伝えたかってのか知りたいと思い、それで、ここに来たのです。秘密裏に内容を知りたいと思い、最も信頼できるここに来たって訳です。』
『なるほど。確かに、こんな歴史的、そして予言書と思われる手紙を、そこら辺の通訳に渡すことは出来ませんね。ヒロ様の思い、理解いたしました。この手紙は責任持って、機密書類として、翻訳致します。3日ほど、お待ちになって頂けますか。』
『法王におかれましては、お忙しいところを申し訳ありません。そして、俺のわがままを聞いていただき、ありがとうございます。今夜はこれにて失礼致します。』
俺は瞬間移動で、部屋を後にした。




