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Day.19 Girls Battle

緩やかな動きで上へとあがっていくゴンドラが、時折吹く風で小さく揺れている。

窓が広く作られたそのゴンドラは、眼下に段々と街を広く、遠く山々の丘陵の緑を鮮やかに見せていた。

だが不思議なことにその景色はやや傾き、どちらかといえば空の方を多く映している。

爽やかな青空は近いような遠いような、そんな曖昧な境界線の向こうで、真夏の強烈な太陽を湛え雄大に広がっていた。

まぁ端的に言うのであれば、体重が片側に寄りすぎているのが原因だろう。

そのせいで折角のいい景色は半分ほど窓の縁に削り取られ、僅かに開いた窓から風が吹き込んでいるにも拘わらず、ほとんど蒸し風呂のような暑さになっている。

直射日光を遮るはずの屋根部分はまるで意味を成さず、肌を焼く熱光線が乱暴なまでにゴンドラを通り抜けていた。

額に浮いた汗が一滴、頬を伝って鎖骨へと降りていく。

………そろそろ限界だ。


「莉乃姉、暑くないか?」

「暑いさ、夏だからな。」

「だったらさ、離れないか?」

「嫌だ。」

「………。」


まぁ判っていた、どんな答えが返ってくるかなんて。

予想を裏切らない絶望的な答えに溜め息を吐きながら、俺は隣にぴったりと寄り添って座る莉乃姉に目を向けた。

俺の腕をしっかりと抱いた莉乃姉は、嬉しそうな笑顔で暑さを無視している。

それはもう絶対に離れないという意思表示のように、もはや関節をキメるが如く。

加えて莉乃姉から漂う甘い香りが、俺の思考をぼかしていく。

更に首筋を伝う汗がその豊満な胸の谷間に降りて、反則的な色っぽさを俺に見せつけていた。

わざとだ、この色仕掛けは確実にわざとだ。

嫌がらせにも程がある、俺にどうしろと?

これまでだってこういう攻め方は何度もあったのに、最近の俺はどうにも弱い。

というより、莉乃姉の色気が妙に増したように感じるのは気のせいだろうか。

俺に迫ってくるやり方は変わってないように思う、でも些細な仕草や表情が異様に俺をドキドキさせる。

わけが解らないが、どうにかして対策を講じないと俺の理性が…。


「なぁ真也。」

「え、な、何だ?」

「いや、何でそんなに驚いてるんだ?」


訝しむように俺を覗き込んできた莉乃姉。

…やっぱり、絶対に変わったのは莉乃姉だ。

整った造形の顔は相変わらずとてつもない美人だし、漂ってくる安心する甘い匂いも変わらない。

だけどこんなにもドキドキと俺が乱されるのは、やっぱり莉乃姉が変わったとしか思えない。

だってそうじゃなかったら、何だって言うんだよ。


「どうしたんだ真也、具合でも悪いのか?」

「いや、何でもない、気にするな。」


俺を心配しながら顔を近づけてきた莉乃姉から視線を逸らす。

そうだな、雰囲気が悪い、こんな二人っきりで観覧車なんておあつらえ向きな状況が悪い。

考えるなよ俺、喧嘩している時の気持ちを思い出せ、無になるんだ、余計な思考は排除しろ。

そんな馬鹿みたいな考えが巡っていると、莉乃姉が外の景色に顔を向けながら呟いた。


「なぁ真也、皆のことをどう思ってるんだ?」

「は?皆のことって?」

「冴塚や逢坂、それに御奈坂のことだ。どう思った?」

「どうもこうも、大切な友達だが?」

「そうじゃない、あたしが峰岸の名前を省いた理由を考えてくれ。」

「………あぁ、そうだな。」


こちらに視線を向けないままの莉乃姉を見て、俺は今日を思い返す。

恵恋は俺が怪我して動けなくなっていた際に出会った、莉乃姉に次いで付き合いの長い友達だ。

恋愛の気配なんて感じなくて、気心が知れた友達のような感覚だった。

そんな恵恋が、その想いを打ち明けてくれたんだ。

俺のことが好きだと言って、莉乃姉にまで宣戦布告した。

真っ直ぐに、正面から。

正直、凄く嬉しかった。

長く一緒にいて、恵恋はずっと素っ気ない態度だったけど、それでもそこに他の奴には向けない親愛のような気持ちを感じていたから。

夏音の時も親身になってくれたし、いつも俺を心配してくれていた。

最近じゃ恵との仲も良くなってきて、笑顔も増えてきたよな。

きっと恵恋と付き合ったら、何だかんだと言い合いながら、それでも強い絆で結ばれた関係になれると思う。

それに今日の恵恋はいつになく可愛らしかったな。

姫と王子みたいなシチュエーション、やっぱり恵恋でも憧れなんだってわかって、ちょっと安心した。

ちゃんと女の子として、俺に願いを告げてくれることが嬉しい。

それに恵恋が隣にいてくれると、凄く安心するんだよな。

それに姫百合。

付き合いは一番短いものの、この夏休みで一気に距離が縮まった女の子だ。

緋結華を傷つけた敵として喧嘩から始まり、友達になって、一緒にいることが多くなった。

そしてこの夏休み、女の子だと知り、その問題を巡る話に深く関わった。

その逢坂邸での夜、月の綺麗な縁側でされたキスと告白。

濃密な数ヵ月だった、一番特殊な時間を過ごしたな。

凄く信頼されてるのがわかるし、これからが一番気になっている。

今日も色んな新しいことに興味津々だったな、元気一杯で今を一番楽しんでるかもしれない。

純粋に、隣にいて楽しい。

二人とも凄く大切な女の子で、やっぱりまだどちらか一方を選べと言われても難しい。

それに緋結華も気になる。

今日の雰囲気から察するに何かを抱えてる感じなんだけど、本人から話してくれない限りは動きようがない。

本当に、難しいな、答えなんてあるんだろうか。

誰も傷つけずに済む一線は、とっくに踏み越えてしまっている。

恵恋も姫百合も、その覚悟でもって莉乃姉に対峙したんだから。

だから俺も、応えはどうあれ覚悟しなきゃならない。

俺が選んだ人以外を、傷つけるという覚悟を。


「ちゃんと考えてあげろよ真也。」

「あぁ、考えてるよ。俺が鈍くて気づいてやれないことも多いけど、ちゃんと考えてる。」

「それなら良いんだ。」


そう言って微笑んだ莉乃姉に、俺は小さく首を傾げる。

莉乃姉はどうして、自分にとって不利になることを受け入れている?

それどころか、俺にきちんと考えろなんて、敵に塩を送るようなものだ。

それなのにどうして?


「………気になるか?」

「え?」

「あたしが何故、自分にとって不利になることを真也にさせるのかって。」

「…あぁ、どうしてなんだ?」


俺がそう言うと、莉乃姉は俺から離れて立ち上がり、反対側に座った。

傾いていたゴンドラが水平に戻って、射し込んでいた直射日光が屋根で遮られる。

影は僅かな涼しさを生み出して、俺は手の甲で額の汗を拭った。

莉乃姉は静かに外の景色に目をやって、そっと目を閉じる。


「あたしはさ、真也が好きだよ。」

「………あぁ。」

「だからこそだ、その気持ちと同じものを抱えた皆を牽制こそすれ、排除しようとは思わないさ。その想いが届かないことがどれだけ苦しいのか、あたしには解るから。」

「…そっか。」

「真剣な想いは、やっぱり届いてほしいって思うからな。それにさ、あたしがもし徹底してあたし以外の女の子を遠ざけてしまったら、真也の選択肢さえも潰してしまうだろ?そんなの、あたしも嫌だから。」


そう言って、莉乃姉はいつもの笑顔で俺を見た。

少しの後悔も雑念もなく、純粋に俺と皆のことを思ってくれている顔だ。

俺は改めて莉乃姉の凄さを実感した。

もしも莉乃姉と逆の立場だったとしたら、俺も同じようにできるだろうか。

自分が欲するものを失う可能性は、少しでも遠ざけるはずだ。

本当に、今更ながら不思議だな。

こんなに凄い人が、俺のことを好きだと想ってくれているなんて。


「ほら真也、頂上だぞ。」

「ん?…へぇ、結構高いんだな。」


周りを見渡せば、俺たちが育ったこの街が360°。

流石は他の町からもわざわざやって来る人がいるほどの観覧車だ、いい眺めだな。


「真也。」

「なんだ?ん!?」


不意討ちだった、咄嗟に回避することさえできないほど俺は無防備だった。

外の景色に目を奪われて、再び俺の方へ移動してきた莉乃姉に意識を向けていなかったんだ。

振り向いたとき、そこには一瞬顔を真っ赤にした莉乃姉の顔が見えて、次の瞬間には柔らかな感触で唇を塞がれていた。

甘く、解け合うような優しいキス。

首筋に回された莉乃姉の腕が、愛おしむようにそっと力を込める。

密着する莉乃姉の身体が熱くて、その感触は破壊的な色っぽさを含んでいた。

俺の身体まで熱くなって、腕は行き場を失ったように宙をさ迷う。

そっと離れる唇。

間近で見上げてきた莉乃姉の瞳は潤んでいて、俺の鼓動は否応なしに早まっていく。

その大きな瞳も、柔らかな唇も、健康的な白い肌も、俺の自制心を揺さぶってくる。


「………抱き締めて、くれないのか?」

「っ!?」


上目遣いでそう言った莉乃姉は、目を閉じて顎を上げる。

ねだるように、甘い吐息を俺に近づけて。

さ迷っていた腕が、無意識に莉乃姉の背中に回る。

ゆっくりと、俺に身を委ねた莉乃姉に顔を近づけて…。


ピリリリリリリリ!


「わっ!?」

「な、あたしの携帯?」


向かいの席に置いてあった莉乃姉の鞄から、バイブレーションの震動音と一緒に、着信を告げる高音が鳴り響く。

二人の意識がそちらに向いて、そして気づいた。

片方に寄って座っているせいで傾いた俺たちのゴンドラ。

下降を始めた観覧車の中でその傾きは、後続のゴンドラに俺たちの姿をはっきりと晒す状態になっていた。

そして何故か後続のゴンドラも俺たちと同じように、三人もの人間が片方に寄って、俺たちのゴンドラを見ていたのだ。

恵恋と緋結華と姫百合の三人が。

そして恵恋の手には、緋結華の物と思われる携帯が握られていた。

物凄く不機嫌な表情と共に。

………まさか。


「莉乃姉、もしかして見られて…んんっ!?」

「あたしはそれでもいい、真也ー!」


状況を無視して再びキスしてきた莉乃姉に、視界の端で恵恋が携帯を落とした。

あぁ、何か色々と終わったのがわかる、下に着いたら脇目も振らずに逃げてもいいだろうか?

もう甘いムードもへったくれもなく、それからゴンドラが下に着くまでの間、俺は半ばやけくそになった莉乃姉から逃げるので精一杯だった。

恵恋は怒りを通り越した平淡な瞳で終始こちらを見続けていたし、緋結華は恥ずかしかったのか早々に視界から消え、姫百合は興味と不満が入り交じったような目をしていたように思う。

途中で覗きに来た峰岸は、恵恋の裏拳によって容赦なく退場させられていた。

そして漸く下に着いて、諦めて恵恋たちが降りてくるのを待った最初に浴びせられた言葉はこうだ。


「最低ですね。」

「小湊先輩と真也先輩が……ズルいよ!」

「ドキドキしました、キスってあんなにも…。」

「桐生、お前の自制心でもダメだったか。」


恵恋に殴られた鼻っ柱を押さえながら苦笑した峰岸が唯一の味方に見えた。

莉乃姉はもう完全に開き直りモードで、降りてからずっと俺の腕を抱きっぱなしだ。

そんな莉乃姉を冷たい視線で射抜く恵恋は、つかつかと俺の方へ歩み寄ってきた。

流石にその威圧感に怖くなったのか、莉乃姉がそっと俺から離れていく。

背中に冷たい汗が流れるのと、恵恋の糾弾が始まるのは同時だった。


「真也さん、何か弁明があるなら聞きますけど?」

「いやその………ホントすみません。」

「観覧車はそういうことをする場所ではない、真也さんが解っていなかったなんてことはありませんよね?」

「はい、それはもう深く反省しています。」

「随分と甘い表情で小湊さんを見つめていましたね?わたしもそれなりに長い付き合いですけど、一度もそんな表情を見せてくれたことないですよね?」

「あれはその、莉乃姉の雰囲気に不覚にも負けてしまったというか…。」

「雰囲気ですか?小湊さんの大きな胸の感触とか、柔らかな唇とか、スタイル抜群な身体の温かさに官能を刺激されたのでは決してないと?」

「そ、それはだな…。」

「あっはっは、そんなに褒めるな冴塚。」


空気が一瞬で凍結した。

この状況でそんな朗らかに笑えるなんて、一体どういう神経してるんだよ莉乃姉!


「ちょっ、マジで今は黙ってて下さい姉御!」

「莉乃さん、ちょっと私とお話ししましょう、二人は大事な話の途中ですから!」

「小湊先輩!ボクにそのスタイルの秘訣を教えてほしいな!」


しかし流石は緋結華たち。

素早く話題を逸らして莉乃姉の向きを変えると、少しだけ距離を空けた。

冷や汗を流しながら首だけ振り向いた三人は、無言で俺に親指を立ててみせる。

あぁ、感謝してもしきれない、あとで何か奢らせてくれ。

英雄の機転でどうにか爆弾は除去できたが、状況としてはかなりよろしくない。

恵恋は静かに怒っているのがわかるし、自制心を欠いた俺が悪いのも解る。

さてどうやって謝れば納得するだろうと俺が思考を巡らせていると、これまで張りつめていた空気が弛み、恵恋が溜め息を吐いた。


「はぁ、まったく侮れない人ですね、小湊さんは。」

「え?」


俺がその急な変化に戸惑っていると、恵恋は自分の胸に手を当てて呟く。


「真也さんの自制心さえ崩すほどのスタイルが、わたしにはありません。それにもしわたしが同じ状況にあったとしても、あそこまでできたとは思えません。」

「うん?」

「わたしは並んだと思っていた、でも甘かった、まだまだ小湊さんを侮っていた。あの人は恐れない、あらゆるものを真也さんのために捨てる覚悟があった。わたしはそれさえも負けていた。だからこれはわたしの中にある壁を壊す第一歩。」

「おい恵恋、さっきから何を言ってんだ?」

「いいからしゃがみなさい、これじゃ届きません。」

「ん?」


さっきまで怒ってたのに、今度は小声で独り言言い始めるし、何なのだろう。

俺は恵恋と視線が合うくらいまで身を屈めると、恵恋に訊いた。


「どうしたんだよ恵恋、具合でも悪いのか?」

「そうですね、胸はかなり苦しいです。ですが気にしないで下さい。」


確かに恵恋は胸をぎゅっと押さえて、潤んだ瞳で俺を見ている。

顔も赤いし、もしかして日射病か?


「ホントに大丈夫なのか?辛いなら言えよ?」

「そうですね…じゃあ真也さんは目を閉じてるのと開けているの、どちらがお好みですか?」

「は?目がどうしたって?」

「因みにわたしは閉じている方がムードがあっていいと思います。」

「いや、何のこと言ってんのか解らないんだが。」

「こういうことですよ、この鈍感。」


そう言って目を閉じた恵恋が、そっと唇を寄せてきた。

優しく啄むような、僅かに触れるだけのキス。

風が吹いて恵恋の綺麗な黒髪がふわりと揺れると、女の子独特の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

いつまでも感じていたいと思える温もりに満たされて、しかし状況がそれを許さない。

なにしろここは公衆のど真ん中で、向こうで様子を伺っていた三人が目を見開いて固まっているんだから。

その三人の異変に気づいた莉乃姉が振り返って、笑顔のまま停止する。


「ねぇ、あの二人こんなところでキスしてるよ?」

「お母さん、あの人達なにしてるの~?」

「リア充だ、駆逐すべきリア充だ。」

「妬ましい、羨ましい。」


そんな囁きさえ聞こえてくるのに、恵恋はいまだに唇を離そうとしない。

長い長い、俺の短い人生の中でも最長タイムのキスだ。

俺自身も状況についていけなくて、息をすることすら忘れてしまっていた。

どれくらい長かったのか判らないくらいのキス。

恵恋は顔を真っ赤に染めながらも満足そうに俺から離れると、ふっと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

その表情は凄く蠱惑的で、色っぽくて、まさに小悪魔だった。


「ふふっ、ご馳走さまでした真也さん。とても甘美で、胸の苦しさも解けていきましたよ。」

「恵恋、何てことを…。」

「ここまで恥ずかしい思いをしたんです、もうわたしに怖いものなんてなくなりました。………責任、取ってくれますよね?」


少しだけ離れた恵恋はそう言って、細く白い指を自分の唇に当てた。


「真也さんになら、どんなことだってしてあげられます。わたしの恥ずかしさも喜びも、全部真也さんのものにしていいんですよ?」

「うぐ…。」


小悪魔だと思ったが撤回しよう。

だって今の恵恋は、十分すぎるほど妖艶だ。

莉乃姉ほどの魅力がないだなんて冗談じゃない、莉乃姉だってここまでの雰囲気は持ってない。

今にも操られてしまいそうなほど艶やかに光るその瞳に、俺は完全に動けなくなっているんだから。


「冴塚、こんなところであたしの真也を!」


莉乃姉のそんな叫びにも、恵恋は小さく微笑んでみせた。


「あら、それはおかしなことを言うのですね小湊さん。観覧車の中で欲望のままに真也さんを襲っていた人の台詞とは思えませんね。」

「うぐ…。」

「それともあれは、真也さんが小湊さんの色香に当てられて起きたことだと、そう責任転嫁するおつもりですか?」

「ぐぬぬ…。」


なんてことだ、恵恋があの莉乃姉を圧倒している。

恵恋は怯んだ莉乃姉を見るとすかさず俺の腕を取り、顔を寄せてきて言った。


「わたしだってただ静観しているわけじゃありません。わたしのこの想いで、真也さんの気持ちを振り向かせてみせます!」

『おぉー! !』


そんな恵恋の宣言を聞いた周囲のギャラリーから、驚嘆の拍手が沸く。

莉乃姉は形勢の不利を悟ったのか、何かを堪えるように握りしめた拳を緩め、腰に手を当てて恵恋を力強く指差した。


「真也はあたしのだ、絶対に渡すものか!最後に幸せを手にするのはこのあたしだ!あーっはっはっは!」

「ふふっ、その余裕、必ずや崩してみせます、覚悟してください。」

「望むところだ!あたしは絶対に負けないぞ!」


完全に二人だけの世界を形成し、ギャラリーさえも巻き込んでの女の戦いはそうしてひとまずの終わりをみせた。

というより俺たちが流石に恥ずかしさの限界を越えて、強制的に終幕させたってのが正しい。

まだ何か言いたげな二人を引き離し、間に入った俺たち四人が周囲に頭を下げながら、逃げるようにその場を後にした。

でもこの二人のやり取りを見ていて、俺は実感させられたんだ。

本当に大変なのは、これからなんだってことを。

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