⑨ 黄色いビートル
「さあどうぞ、乗って」
村田京子に案内され、清水とジャンヌは、クルマの後部座席に、仲良く並んで収まった。車種は、昔懐かしいデザインの、黄色いフォルクスワーゲンビートルだった。
クラシックなクルマが、趣味なのかな?それに、京子のワンピースと同じ色だ。余程黄色が好きなのだろうか?清水はつい、余計な事を考えてしまう。
しかし、2枚しか無いドアが閉じられた瞬間、車内は無音になった。とんでもない静粛性だ。この年代のクルマには、まるでそぐわない……?そこそこクルマに詳しい彼は、訝しく思った。
そして前席の、センターコンソールパネルを垣間見た彼は、更に驚いた。これまでに見た事も無い、不思議な計器類が並んでいる……いや、見た事なら有る。
アレは確か、映画館で……?そこまで清水が考えた時、クルマは学校の西門から出て、一路北へと走り出した。そちらは家がまばらで、殆ど田畑ばかりが広がる地域だった。
「この辺りなら、大丈夫そうね?」
京子は呟いた。そして彼女は、ビートルに光学迷彩を掛け、垂直上昇させたのである。
「……!?」
清水はビビってしまった。
突然クルマが空を飛んだのだ。無理も無い事だ。
「貴方、偉いわね?空飛ぶコレに初めて乗って、悲鳴を上げなかったのは、褒められてイイ事なのよ」
と京子。
「京子さん、あまり彼をイジメないで下さい」
とジャンヌ。
「だって、上からの方が、学区全体を見やすいでしょ?」
「ソレは確かにそうですけど……ねえ?」
ジャンヌは、隣に座る清水を見る。
清水は「あははは……」と力無く愛想笑いするのが、精一杯だった。どうやら彼女たちが、時空調査員だと言う話も、信じざるを得なくなって来た。
「冗談はさて置き、貴方、現地で私たちの活動を、サポートしてくれるそうね?」
真面目な顔になった京子が、後をチラリと見ながら、そう言って来た。
「ええ、既にもう、乗りかかった船です。僕に出来る事は、協力しますよ。」
平常心を取り戻した清水は、直ぐにそう答えた。日頃の鍛錬の賜物である。
「それはやっぱり……ジャンヌが美人だから?」
「……京子さん、ふざけないで下さい!」
ジャンヌが直ぐに、ピンク色の頬を膨らませた。
ソレはソレで可愛い。
「いや、そうじゃなくて……そうなのかな?」
清水の心は混乱していた。
正直に白状するなら、彼は幼少期から、ジャンヌ・ダルクの伝説に親しんでいた。フランス国王を救った聖戦士である、彼女に憧れた事が元で、剣道を始めたようなモノだったのだ。
だから、彼女の正体を知った時には、半信半疑ながらも、半ば狂喜乱舞の気持ちだったのだ。よって、彼女に協力しない選択肢など、あり得なかった。彼女は彼の人生で、最も大切な"推し"なのである。




