⑧ 村田京子
その後、辻本は、酒に酔っていたか、シンナー遊びでもしていたか……という先生方の判断により、警察には引き渡さず、迎えに来た保護者に返されたようだった。
不名誉な事だが、こういう事は、我が校とその周辺の地域には、よく有るのである。先生方も保護者も、どこか慣れっこになって居たのかも知れない。
その後ナニ食わぬ顔で、二人は、午後の授業を受け、やがて下校時刻になった。しかしながら、ついさっきあんな事が有ったので、ジャンヌは、保護者が迎えに来る事になった。
「池内先生」
職員室に戻りかけた池内を、ジャンヌが廊下で呼び止めた。
「何だい?真田さん」
池内は何となく、彼女の事を、呼び捨てに出来ない。ナニか他の生徒と違う、違和感のようなモノを、彼女から本能的に感じるのだ。それは彼自身が、剣道の有段者である事と、無関係ではあるまい。
「下校する時に、ついでに、こちらのケンジロー君に、地域の案内をして頂きたいのですが……ウチのクルマに乗っていただいても、よろしいでしょうか?」
彼女は、直ぐ近くに居た清水を指差して、そう言った。
「あ、ああ、清水さえ都合が良ければ、構わないぞ。清水、どうだ?」
「……ええ、もちろん、僕で良ければ喜んで。」
清水は即答した。
今日はまだ、部活動開始の日ではなかった筈だ。
確か、最初のミーティングは明日だ。
それに、目の前の顧問が、許可しているのだ。
間違えようがない。
そんな訳で、彼は下駄箱で靴を履き替えると、ジャンヌの後について、駐車場に向かった。そこには既に、村田京子と言う名の、彼女の保護者が待っていた。
「貴方が清水君ね?こんにちは。私が村田京子よ」
黄色いワンピースを着た、彼女の方から挨拶された。
ボブカットの髪型。切れ長の瞳から感じる、鋭い眼光。またジャンヌとは別の、修羅場をくぐり抜けて来た、猛者感が有る。
今日の事情については、既にジャンヌから、この京子さんに、連絡済みらしい。
成る程。見た目は、30歳前後の女性だ。母親にしては、若すぎる。だから、保護者と言う設定なのだろう。清水は一人で納得した。
「こんにちは、清水健次郎と申します。本日は、どうぞよろしくお願い致します」
緊張の余り、挨拶が固くなる清水。無理も無い。彼の勘が囁くのだ。気をつけろ。目の前の二人ともが、自分より格上の戦士であると。
「あらあら、貴方、それじゃあ、まるで、お見合いの挨拶みたいよ?もっとリラックスして」
京子は笑顔で、彼にそう言ったのである。




