⑤ 清水健次郎
「じゃあ最後に、格技場を見せて下さるかしら?」
「格技場……あの、柔道とか剣道をやる?」
「そうよ。私、とても興味が有るの」
「ココから、少し離れているけど、イイかな?」
「よろしくてよ」
そんな訳で、二人は格技場にやって来た。
3年B組の教室が入る、中校舎の北に在る……北校舎の更に北側。正門と西門に挟まれた場所に、ソレは立地していた。だから、ココで何かモンダイが起きると、職員室から遠く、ヤバイのである。
5限目の体育の、準備のためなのだろう。
昼休みの時間なのに、もう鍵は開いていた。
清水が率先して、重い金属の引き戸を開くと、広い空間が現れた。天井高はそれ程高くはないが、面積は、普通教室の8倍程は有ろうか?
「基本の仕様は、向こう半分は柔道場。こちら半分が剣道場なんだけど、ウチは今、柔道部が無いから、畳を積み上げて、全面を剣道場として、使用しているんだ」
清水は、少し自慢げに、ジャンヌにそう言った。
「あら、その口振りだと、貴方も剣道部なの?」
「ああ、実はそうなんたよ。僕は10月までは、一応、主将……キャプテンという事になっている」
「道理で。実はさっきから、貴方が座っても歩いても、姿勢がキレイだと思っていたの。それにこの無駄の無い筋肉……」
ジャンヌはそう言うと、さり気なく、学ランの上から、彼の左腕に触れた。
その瞬間、清水は、自分のカラダに、電流が流れるような感覚を覚えた。しかしソレは決して、初恋の予感めいたモノでは無く、むしろ、試合で立ち合った相手から感じる、強者のプレッシャーに似ていた。
(この子は一体……何者なんだ?)
彼は初めて、ジャンヌに対して、得体の知れない疑問を感じた。この感覚は、長年道場で鍛えて来た末に会得した、確かなモノだった。
「私ね、剣道部に入ろうと思っているのよ」
彼女は笑顔で、意外な事を呟いた。
いや、今の感覚からすれば、むしろ当然か?
「……でも、ほら、3年生は、10月には引退だし、受験勉強も大変じゃあ?」
つい慌てて、そんな事を言う清水。
「……ダメなの?」
蠱惑的に小首を傾げて、尋ねるジャンヌ。
「ま、まあ、顧問の先生が、イイって言うなら……」
「因みに、顧問はどなたかしら?」
「池内先生だよ、担任の。」
「あら、それは好都合ね。今から職員室に行って、早速頼んでみましょう」
彼女がそう言った時だった。
剣道部の部室を兼ねている、男子更衣室の中から、突然ガタン!という音がしたのだ。




