④ 田辺について
同じ理由で、池内自身が、この転入生徒の案内をする事も、はばかられる。田辺から、要らぬ勘ぐりを受けそうだからだ。所謂、ヤキモチである。
「"生まれ変わったら結婚しよう"なんて言ったクセに!」とか言いかねない。それでは、今日まで頑張って、穏やかに暮らして来た事が、水の泡になってしまう。
田辺は、クラスの女子を牛耳っているから、始末に悪い。彼女の機嫌を損ねた日には、女子全員を敵に回しかねない。そうなったら、厄介だ。学級経営に支障を来たす。
慎重に対応して行かなくては。池内はそう考えている。
女子たちは、暴力的な男子のヤンキーたちより、遥かに手強いのだ。
男子はイイ。すぐに腕力に訴えるヤカラばかりだが、性根は真っすぐだ。
様々な約束をする事は困難だが、或る程度こちらが譲歩して、一度させた約束は、ちゃんと守れるイイ奴らなのだ。
それに男子たちには、卒業したら、手に職を付けたいとか、進学したいとか、そう言った具体的な目標を持つ者が、意外と多いのだ。目標に向かって進む者は、何事に対しても前向きだ。二年生までに比べて、ルールも守れるようになって来た。だから関わるのもラクだった。
まあでも、あと10年もすれば、こんな苦労もしなくて済むようになるだろう。
ヤンキー少女に有り勝ちな、一過性の年上男性への憧れ。
今はまだ若いオレも、歳をとってしまえば、見向きもされなくなるだろう。
もう少しの辛抱だ。池内はそう思う事にした。
一方、委員長候補にされている清水は、昼食後の休憩時間になると、早速律儀に、ジャンヌを連れて、校内の案内に出かけた。
だが、男女の組み合わせだからと言って、ソレを見て冷やかすような者は、校内には一人も居ない。何故なら誰もが、清水の事を、人徳者だと認めているからだ。
因みに、清水の見た目は、所謂"真面目くん"だ。
身長は170cm程度。体型は細マッチョ。髪は短く7:3分け。銀縁眼鏡をかけて、如何にも堅い印象だ。
それで居て人当たりは良い。男女の分け隔てなく、誰とでも気さくに、話をする事が出来る。例えヤンキー生徒相手でも、それは変わりがない。だから色々な派閥の生徒間での、橋渡し役もお手の物だ。
それ故、池内も、ついつい頼ってしまうのだった。
「……これで一通り、校舎の特別教室は案内し終わったけど、後、他には知りたい事は無いかな?真田さん」
優しいテノールの声で、ジャンヌに尋ねる清水。
「ジャンヌでよろしくてよ。清水君」
「えっ……じゃ、じゃあ、僕も健次郎で」
「ケンジロー……イイ響きの名前ね」
「……あ、ありがとう」
人たらしの清水も、金髪碧眼の美人の前では、ドギマギしてしまうようだった。




