③ 自己紹介
「では、改めて、朝のホームルームを始める前に、今日からこのクラスの仲間になる、転入生を紹介する。キミ、自己紹介できるかい?」
池内は、後ろについて来た少女の方に振り返る。
彼女はもう、チョークを握って、黒板に向かっていた。
"真田ジャンヌ"
それは、縦書きで堂々とした文字だった。
先程は、応接室で、「ジャンヌ真田」と自己紹介したのに、板書ではちゃんと苗字を先に書いている。中々気が利いているではないか。
「皆様、ごきげんよう。私の名前は真田ジャンヌです。この度は父の仕事の都合で、フランスからやって来ました。日本語は話せますが、書くのは苦手です。どうぞ色々教えて下さいね?」
彼女はよく通るソプラノの声で、立派な挨拶をした。
クラスの三分の一を占める、所謂ヤンキー生徒たちが、彼女の雰囲気に呑まれるのが、見て取れた。
何だろう?とても上品な挨拶なのに、隙が無く、妙な迫力が有る。まるで数々の修羅場をくぐって来た、戦士のような……?
池内がそんな事を連想して、ぼんやりしていると、当のジャンヌから声を掛けられた。
「……先生、池内先生?」
「えっ、ああ、何だい?」
「私の席は……何処に座ればよろしいのでしょうか?」
「ああ、済まん。そうだな……真ん中の列の後ろ、清水の隣が空いているから、そこに座ってくれ」
「解りました」
彼女はそう言うと、スタスタ歩いて行き、隣の清水に軽く会釈をして、席に着いた。清水はクラスの三分の一を占める、真面目な男子生徒の内の一人だ。1,2年生時に、クラスの委員長を務めた事も、何度かあった。多分、上手くヤルだろう。
「清水、休み時間になったら、真田さんに、校内の事を色々教えてやってくれ。頼むぞ?」
「解りました。先生」
うん、いい返事だ。今年の委員長も、彼で決まりだな。
池内はホッとした。
ここで「何で女子にやらせないんですか?」などと言わないところが、彼のいいところだ。聞き分けがイイから、つい便利に使ってしまって済まない。彼は心の中で、清水に向かって手を合わせた。
女子に、真田の案内をさせられないのには、訳が有った。
それは、つい先日の、クラスのヤンキー女子、例の田辺との、ちょっとしたトラブルが主な原因だった。
何と池内は、田辺に「付き合ってくれ」と言い寄られたのだ。
「ソレは犯罪になるから出来ない」
「犯罪になるような事をしなければ、イイじゃない?」
「いや先生と生徒でソレは無理。俺はクビになってしまう」
「クビになったら……もう会えないかもねえ」
そういう言葉の遣り取りをしたきり、彼女は今でも、だんまりを通している。不気味だ。




