② 3年B組
池内が担任する教室は、中校舎二階の、西から二番目に在った。
階段が近く、イザという時に、一階の職員室とのアクセスが便利だから、助かっている。
もう既に、朝の予鈴は鳴った後だから、廊下に人影は無かった。いや、コレが一般的な状況の筈なのだ。しかし、この学校では、これまで10名近くの生徒が、廊下をフラフラしている事が、ザラに有った。
大方、誰かが、転入生徒の事を察知して、皆に広めたのだろう。教室内では、元気な男子どもが、今か今かと、手ぐすね引いて、待ち構えて居るのに違いない。そう言えばさっき、応接室前の廊下に、何名か居た気がする。
そんな事を思い出しながら、池内は少し深呼吸して、B組の前のドアを開けた。
すると次の瞬間、パン、パーン!という破裂音と共に、クラッカーが鳴らされ、ノートの紙を千切って作ったらしい、即席の紙吹雪がバラ撒かれた。
「オマエら、一体何処に、そんなモノを隠し持っていたんだ!?……いや、むしろ、常備しているのか?」
朝の挨拶も抜きにして、池内は思わず尋ねた。
「勿論、このオレ様が常備しているのさ……いつ何時、パーティーが始まってもイイようにね!」
一番右の列の、前から2番目に座っている、高瀬という名の、男子生徒がそう言って笑った。
ソフトリーゼントの髪型で、短ランを着たヤツだ。
いつも腹から、赤いTシャツをチラチラ覗かせている。
「そんな事より、池ちゃん、早くその子を紹介してよ?」
そう言ったのは、一番左の列の、先頭に座った男子生徒だ。彼の名は名塚。チリチリ頭で、目の細い、体重100kg以上の巨漢だ。首が太過ぎるせいで、学ランの第一ボタンを外している事を、特別に許されている。
さっきも書いた通り、我が校は、お世辞にも、品行方正とは言い難い校風だ。パッと見て、直ぐソレと分かる、服装違反の者は、クラスのメンバーの、凡そ三分の一程度。浮動票が三分の一。真面目にやっている者が三分の一。そんな具合だった。
今も、後の荷物ロッカーの上、係が明日の予定を書くための、小さい黒板の前で、"ウンコ座り"を決め込んでいる女子が2名居た。二人とも、髪はチャパツのソバージュ。制服のスカートは、足首まで完全に隠す長さだった。
「おい、田辺、住田、そこから降りなさい。みんなも、朝の挨拶をするぞ」
その状況に、すっかり慣れっ子になってしまった池内は、軽く受け流し、日直に早速号令を掛けさせた。
彼は漸く「おはようございます」の挨拶まで、漕ぎ着けたのである。




