㉓ 二人のカンケイ
その翌日、保護者の急な転勤で早々に転出するという話を聞き、担任の池内は、真田ジャンヌの書類を急ピッチで作成していた。
教員の仕事の中で、こういうイレギュラーな事が、地味にストレスになるのだ。しかしまあ、剣道部でも活躍してくれた、他ならぬ彼女のためだ。別にイヤでは無かった。
すると職員室に、その真田がやって来た。池内が作業の手を止めて、入り口で対応すると、「お忙しいところ、申し訳ありませんが、昼休みの時間に、格技場に来て欲しいのです」と言われた。
頼まれた通りに、彼が必要な書類を持って、格技場に行くと、そこで真田ジャンヌと、保護者の村田京子が待っていた。
池内が、転出用の書類を京子に渡すと、彼女は「クルマで待っているから……」と真田に言い、格技場を出て行った。だから池内は、その場で真田と二人きりになってしまった。
すると、おもむろに、真田が喋り始めた。
「池内先生。今から私がする事は、恐らく余計なお節介になるかと……でも、こうして知り合ったのも、何かの御縁ですから」
「真田さん、改まって……何かな?」
「事実を知った上で、無視は出来ないので……結論から申し上げます。先生、田辺さんが卒業したら、結婚してあげて下さい」
「はっ!?キ、キミは一体何を……?」
すると、女子更衣室のドアが開き、中から田辺が出て来た。ただ、パッと見て、ソレが彼女だと気づかない程、見た目が変化していたのだ。
髪色は黒く染められ、一つにまとめて結ばれており、スカートの丈も、膝下程度になっていた。そしてもちろん、顔にも、化粧の痕跡が一切無くなっていた。つまり彼女は、普通の女生徒のルックスになっていたのである。
「田辺まで……どうしたんだ、ソレは?」
「先生、私、変……かしら?」
「いやいや、変じゃないよ。可愛いよ……いや、違う、そうじゃなくて……」
池内の心は、いよいよ混乱して来た。
そんな彼に対して、突然、真田が爆弾発言をした。
「池内先生。貴方とこの田辺さんは、前世で恋人同士でした……」
「……な、何を、そんなバカな?」焦る池内。
尚も追い討ちを掛ける真田。
「貴方はすっかり忘れているのです。いいえ、もしかしたら、忘れたフリをしているのかしら?」
そこで田辺は言った。
「アタシは……覚えているわ、貴方の事を」
(そうとも。俺は覚えている。大正時代の、燃えるようなあの恋の事を。忘れた事など有るものか!)
池内は、漸く確信した。彼自身、その記憶の影響で、田辺に対して、確かに好意を持っていたのだ。




