⑱ 乱戦
その時、突然、その"国木田"の様子がおかしくなった。
何と、清水の首元に、鋭い"突き"を入れて来たのである。
前述のように、当時の中学校のルールでは、"突き"は禁止されていた。
だからこの段階で、国木田の反則負けとなる筈だったのである。
更におかしいのは、既に清水は場外に出されているのに、国木田の攻撃が止まないのだ。
次々に狂ったように竹刀を打ち込んでくる。清水はそれをしのぎながら、あっと言う間に体育館の外まで出されていた。
「ちょっ、待っ……て!?」
思わず叫ぶ清水。
国木田は漸く、竹刀を握る手を止めた。
そして、こんな事を呟いたのだ。
「せっかく物理的なカラダを手に入れたのに、こんな竹竿で殴りあっても、つまらんなあ?……オマエも、そう思っているんじゃないか?"清水"」
「キ、キミは一体何を?」
「ああ、そうか?まだソイツのカラダを、完全に乗っ取り切れていないんだな?そうだ、このオレが手伝ってやろうか?」
もうここは、体育館裏の、薄暗い木の茂みの中だった。
他の誰かに見られる心配は無い。
"清水"は、自分の正体を晒す事にした――――――。
暫くして、顧問の池内と、南洋東中の先生方が、そこにやって来た。その後に、ジャンヌと京子の顔も見えた。
清水は面を外して、芝生の上に座り込んでおり、国木田は、竹刀を持ったまま、うつ伏せに倒れていた。
「清水、大丈夫か?」
池内が駆け寄り、清水を助け起こす。
「彼が……急に発作を起こしたようになって……済みません。細かい事は、僕にもよく分からないんです。ちょっとその辺で休ませて下さい」
清水はそう言った。
すぐ隣では、南洋東中の先生たちが、国木田を担架に乗せ、保健室に連れて行くところだった。彼は完全に気を失っているようだった。
(多分、次に目を覚ましたら、全部忘れているだろう)
清水には、そういう確信があった。
「大丈夫なの?」
彼が出入口横で座り込むと、直ぐにジャンヌがそばに来て囁いた。
「ああ、何とか。彼の中に、例の悪魔が、入っていたみたいだよ。何とかこちらからも、突きを入れて気を失わせたけど、黒いモヤモヤは、逃げてしまったかもしれないなあ」
清水は彼女に、そんな答え方をした。
その説明の、半分は本当で、半分はウソだった。
果たしてジャンヌは、ソレをどう受け取ったのだろうか?
「ふ〜ん、そう……」と言ったきり、彼女は黙り込んでしまったのだった。




