⑰ 練習試合
「……なあ、ジャンヌ」
「なあに?ケンジロー」
二人は今、隣の学区の、南洋東中学校の体育館に居る。
今日は、同じ地域の学校が集まって、練習試合をする事になっていた。その会場は持ち回りで、担当が決められており、今回は、ここ南洋東中になったと言う訳だ。
床に正座して、防具を着けながら、尚も囁き声でコソコソ話をする二人。
「例の件、担任の池内には、相談しなくてもイイのかな?」
「ああ、彼なら大丈夫よ。多分、説明しなくても、本能で解っているから」
「それって、つまり……?」
「そうよ。彼も一応、四次元人。但し、無害な方のね」
「ふ〜ん……って、ええっ!?」
「しっ、声が大きいわよ」
「正しくは、四次元人の記憶を持ったまま、生まれ変わった三次元人なの。たまに、そう言うケースも在るのよ」
「へ、へえ〜」
清水はもう、そう言うのが精一杯だった。
「それに……」
彼女が尚も何か言いかけた時、試合の順番がやって来た。
「この話は、また後で。ちょっと行って来るわね?」
彼女の試合は、本当に"ちょっと"で終了した。
もちろん、相手を瞬殺するような勝利を納めたのだ。
相手の女の子も、有段者だったろうに……気の毒な事だ。
清水は同情した。彼女が大将だったから、女子の試合はそれで終了となった。
次は、先鋒の清水から始まる男子の試合だ。
「ケンジロー、頑張ってね」
ジャンヌはそう言うと、休憩がてら、風の良く通る出入口の前に移動した。
するとそこで、さも応援に来た保護者のような顔をした、京子が待っていた。
「まったく、アナタって人は……少しは手を抜きなさいよ。相手は有段者とは言え、タダのニンゲンの中学生なのよ?」
「全力でお相手するのが、剣士としての礼儀と心得ていますので……」
「相変わらず、生真面目ねえ。まあ、いいわ。それで……誰か怪しいヤツは見つかった?」
「まだ何も……もう少しだけ、探ってみますね?」
「頼むわね。でも、あまり無理はしないで。辻本仁の例も有るから。剣道の有段者で正気を失った相手は、厄介よ?」
「……はい」
ジャンヌはいつだって素直だ。だがその素直さが、危うさを感じさせる。
京子はふと、そう思ったのだった。
一方、清水は、些か苦戦していた。相手の南洋東の先鋒が、思いの外、技巧者なのだ。防具の大垂れに着けた名札には、"国木田"と書いてある。清水の記憶には無い名だ。1年生か?或いはジャンヌのような……。
彼がそんな事を考えている間にも、相手は次々に、鋭い打突を入れて来る。
ふと気がつくと、清水は何時の間にか、境界線ギリギリに追い詰められていた。不味いぞ。打突をやり過ごしても、こんな調子で、二度も場外に出されたら、一本にされてしまう……。




