⑬ 東京ディズニーランド
平成元年。
つまり西暦1989年の6月9日金曜日。
南洋中学校の三年生は、修学旅行の三日目の日程を迎えていた。
一日目は、国会議事堂などの、お堅い場所の見学。二日目は、クラスごとに、都内各所に分かれ、様々な体験型学習。そしてやっと、生徒が楽しみにしていた、東京ディズニーランドにやって来たのだ。
だがお天気は生憎の雨模様。
それでも小雨だから、生徒たちが見学するには、さほど支障は無く、むしろ全てのアトラクションに、ほぼ並ばずに乗れたのである。引率の池内など、これが初めてのTDL訪問であったので、或る意味、ラッキーだったと言える。
それに小雨なら、お互いの目が合ったとかで始まるような、生徒間のトラブルも起こりにくい。我が校としては、他校とのケンカ騒ぎが、一番の心配のタネなのだから……などと、池内は思っていたが、それは甘かったようだった。
彼のクラスの、例のオンナヤンキー両巨頭、田辺と住田が、地元千葉の、女子高生たちに絡まれたのだ……いや、絡んで行ったのかな?
相手は三人だった。それは、ちょうど雨をしのげる、シンデレラ城下の通路での、出会い頭の事故のようなモノだった。そもそもの原因は、「なにガン飛ばしてるんだ」「オマエが先に睨んで来たんだろう」などと言う、いつものアレだった。
コレは、由々しき事態だった。
乱闘騒ぎにでもなれば、園内を秘密裏に監視している警備室から、係が駆けつけて来る。そしてその当事者を、何処かに連れ去ると言う都市伝説が、昔から、マコトしやかに囁かれていたのだ。
さらに、そのトラブルに関わった学校は、永久にTDLを出禁になる、と言われているのだった。
しかし、このピンチに、池内ら教師たちよりも、いち早く気がつき、現場に駆けつけた者が在った。
それは……真田ジャンヌである。
彼女は、田辺と住田の間から、前に進み出ると、その千葉の女子高生に、面と向かって言ったのである。
「あらどうしたの。何かトラブルかしら?」
「何だ、テメェは?関係ねぇだろうが!」
と言う女子高生の、当然のリアクション。
しかしその三人は、よくよく真田の顔を見ると、ナニかに気がついたようだった。
「……あ、あんた、まさか、あの!?」
「そうよ。"その"真田ジャンヌだけれど、ソレで貴女たち、どうなさるおつもりかしら?」
「ち、畜生、覚えてろよ?」
最後には、そんな捨て台詞を残して、三人はそそくさと逃げるように、その場を去って行ったのである。




