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不老不死の魔女-Kamelie-(2026年9月21日完結予定)  作者: ariya
赤い川の狼

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11 別れる決意


 クラウディオの魔術はヴィルヘルムの体にだいぶ馴染んだ。


 言われた通り薬湯を飲みながら、ヴィルヘルムは最近の自分の体を実感した。

 

 だいぶ思考が安定してきた。

 あの抑えつけれない衝動も今はない。

 

 暗い部屋の中でヴィルヘルムは昔を思い出した。


 確かに幼少期も衝動に耐え切れず暴れ続けたことがある。

 母がよく窘めてくれていた。

 

 母がいなくなる頃には、ヴィルヘルムはだいぶ人らしく過ごせるようになった。

 アルフレート、フローエ夫人、クラウディオがよくサポートしてくれたのもあるだろう。

 

 うまくいっていたのに何故このように。

 

 椿の血を飲んだせいか。

 

 ヴィルヘルムは首を横に振った。

 

 だが、彼女の血は間違いなく美味と感じた。

 喉に潤いがでて満たされた心地がした。

 

 脳裏に浮かぶのは血だらけで倒れた彼女。


 これはいつのことだっただろうか。

 ああ、はじめて出会った時のことだ。

 

 自分を庇い怪我を負い血だらけで倒れた彼女をみて、ヴィルヘルムは今もあれが忘れられない。

 

 あの時から自分は彼女の血に惹かれていた。

 

 ずっと抱いていたこの感情は彼女への食欲だったのか。

 

「違う」

 

 髪をかきむしりヴィルヘルムは否定した。

 だが、今も忘れられないあの血だらけの姿が脳裏から離れない。


 鉄格子の扉が動く音がした。

 

「おめでとう。ようやく釈放だよ」

 

 クラウディオに牢屋が解放されヴィルヘルムは外へ出た。

 

「もういいのか?」

 

「だいぶ安定したしね。いつまでもこの中にいても精神的によくないだろう」

 

 人を傷つけるおそれがある間、入ってもらったにすぎない。

 だいぶ理性も戻ってきていて、問題ないだろうとクラウディオはヴィルヘルムの身だしなみを整えた。


「今から行くのはアルベルトの元だ。いいよね」

 

 クラウディオに促されるままヴィルヘルムは兄の部屋へと向かった。

 いや、叔父の部屋だ。

 

「元に戻ってくれてよかった」

 

 アルベルトは恐る恐るであるが、安堵した様子でヴィルヘルムの肩を抱いた。

 

 幼少期から面倒をみてくれた男であり、ヴィルヘルムに愛着がないわけではない。

 彼が厳しく言うのはヴィルヘルムを弟として甥として気にかけてくれているからだ。


 ソファに腰をかけて、いくつか会話を重ねていく。

 

「さて……改めて。あの時の話の続きをしてもいいだろうか」


 アルベルトのいう話は、椿との婚約と、ヴィルヘルムが家を出ることである。

 

「もし叶うのであれば、俺をエーデルシュタイン家から出してくれ」


 意識がはっきりしてから何度も考えたことだ。

 それを聞いてアルベルトは困ったようにため息をついた。

 

「それは椿さんと一緒になるためかい?」

 

 アルベルトからの問いに、ヴィルヘルムは首を横に振った。

 あの時は椿と一緒になる為の選択だった。

 今は違う。

 

「あなたやマリアに迷惑が及ばない為だ」

 

 異形の血を持つ男を一家の一員とするのは、いずれはマリアの負担になるだろう。

 アルベルトには感謝している。

 姉が産んだ人外の子を、弟として受け入れることは容易ではなかっただろう。

 

「そんなことを考える必要はない」


「だが……」

 

 ヴィルヘルムの言葉に、アルベルトは首を横に振った。

 

「お前を家に迎える時に覚悟はできていた。お前は姉の大事な忘れ形見なのだから」


 それを聞いてヴィルヘルムは胸が苦しくなった。

 

 異形の血を持っていても、姉が残した子供だから、家族として接する。


 アルベルトの言葉は嬉しい。感謝すべきだ。

 

 だが、苦しい。


 いっそ一族の汚点として放ってくれればいいのに。


 せめて鎖でつなぎとめて、隔離してくれたらいいのに。

 

「椿さんについては」


 ようやく話が戻る。

 ヴィルヘルムは自身の声が震えるのを痛いほど感じた。

 

「俺は……あの子を諦めます」

 

 その言葉にクラウディオはぴくりと眉を揺らせた。

 アルベルトは少し驚いている様子であった。


 

「いいのかい?」


 あれだけ言い争いをしていたというのに。

 質問を重ねるアルベルトにヴィルヘルムは頷いた。

 

「ええ……」

 

「これからあの子をどうするのだい?」


「フローエ夫人にお願いしようと思います。兄上からも一筆書いていただきたい」


 彼女であれば快く引き受けてくれるとは思うが、それでもヴィルヘルムだけでなくアルベルトからも頼み込んだ方がいい。


 シェートンが戻ってきたら以前言っていた通りの大眞国を経由して帰国させてもいい。

 

「そっかぁ。それなら僕もフローエ夫人の家で厄介になろうかなぁ」

 

 クラウディオの言葉に、ヴィルヘルムはため息をついた。


「好きにすればいい……」


 椿が側にいないのなら、もうどうでも良かった。


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