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不老不死の魔女-Kamelie-(2026年9月21日完結予定)  作者: ariya
赤い川の狼

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7 狼の子


 それは何年も昔、ロートバッハで起きた事件である。


 エーデルシュタイン家の令嬢が森の中で行方不明になった。


 彼女は菜園が趣味で、森の奥にもこっそりと小さな菜園を作っていた。

 乗馬が得意の活発な令嬢で、家の中で閉じこもる性格ではない。


「いいのですか? 折角、公爵家の御曹司と縁談が決まったのでしょう?」


 領民も温かい目で彼女を見守っていた。


「あら、この程度で相手が嫌がるなら私の婿になんてなれないわよ」


 令嬢は勝気に笑った。それに領民は目を細めた。


「そんなことを言って……伯爵様が倒れちゃいますよ」


 いつもの軽い調子のたわいない会話をして彼女は森へと入った。

 

 彼女の趣味は菜園で、家族の目の届かない森の奥にこっそりと菜園を作っていた。

 森の奥まで行っていたことがばれればエーデルシュタイン伯爵は彼女を閉じ込めてでも止めていただろう。

 だから、彼女は隠していた。

 

 そんなある日、彼女は行方不明になってしまった。

 

 同時に、領民の変死体が見つかることが増えた。特に猟師の被害が甚大だった。


 変死体を調べて、人々は恐怖を覚えた。

 死体に残された噛み跡は、明らかに通常の獣のものではなかった。

 

 【人狼】が現れた。

 

 すぐにエーデルシュタイン家は【銀十字】に正式に依頼した。

 

 【銀十字】地方部署に勤めていた若きアルフレート・ベルンハルト――令嬢の婚約者でもある彼は、既に寝る間も惜しんで森の探索をし続けていた。


 【人狼】と判明して、本部から協力者を招聘依頼した。 

 丁度外国から訪問していたクラウディオ・ベルモンドである。彼は国内外の異端者の知識に詳しい。

 

 森の奥は【人狼】の縄張りとなり、簡単には人は入れない。

 入れるのは異形退治に特化した団体【銀十字】くらいだ。

 

 人狼は警戒深くなかなか姿を現してくれない。

 

 奥へ辿り着くのに、10か月も要してしまった。


 【銀十字】は、ようやく人狼の巣にたどり着けた。

 襲いかかってくる巨大な【人狼】――アルフレートとクラウディオは苦戦しながらも、退治することができた。


 巣の中へ入り、中の様子をみてアルフレートは声を失った。


 そこに、探していた令嬢の姿があった。

 令嬢は眠る赤ん坊の姿を抱きしめて訪れた【銀十字】に警戒した。


 救出してくれる【銀十字】に恐怖の表情を浮かべていた。

 

 長らく【人狼】の番として、洞窟の中で過ごしていた令嬢はアルフレートを認識できなくなっていた。

 ただ生まれたばかりの乳飲子を必死に守る姿勢をみせる。


 アルフレートは変わり果てた彼女を見て何も言えずにた。

 この事実を受け入れづらかった。

 

 銀色の髪を持つその赤ん坊は令嬢と【人狼】の子供だった。

 

 保護した後、どうしたものだとエーデルシュタイン家と話し合いを設けた。


 当主の長子であったアルベルト――令嬢の弟もそこにいた。


「こんな子は表に出してはいけない!」

 

 当主は一族から異形を生んだ娘を隠蔽しようとした。

 はじめから存在しなかったかのように。


「娘も、赤ん坊も、処分してくれ」


 当主から出される冷たい要望にアルフレートは拒絶した。


「そのような非人道なことは許されない」


 アルフレートはしばらくエーデルシュタイン家と口論になった。


 長く良好の関係を築いていたが壊れる寸前までそれが続いた。


「このままでは埒が開かない」


 そこを止めたのがクラウディオであった。


「この子を人間の子として養育しよう」


 それこそ夢物語である。

 

 当主は鼻で笑った。


「狼の本能を持った子供をどうできるのだ」


「僕はあらゆる魔法、知識を持っている。聖女ヴィヴィアナが残された秘術も……それをうまく使えば、子供の【人狼】としての本能を封じ込められる」


 信じられない話である。

 だが、クラウディオの出自を聞いて当主は黙った。

 クラウディオは聖女ヴィヴィアナの系譜――聖女の弟子の、さらなる弟子の流れを汲むユリアンの魔法使いだった。


 聖女の名を出されて、無意識に当主はすがった。

 娘の変わり果てた姿に狼狽したが、内心でも娘と赤ん坊の命を失うことは恐怖であった。


 実際、ベッドで寝息をたてる赤ん坊は可愛らしくて仕方ない。憎い【人狼】の子であるが、可愛い娘の子でもあった。


「時間が欲しい……短くても5年。それでもうまくいかなければ、子供は【銀十字】の隔離施設に入れよう」


 クラウディオの提案に当主も、アルフレートも異議を唱えなかった。


「わかった。もし、成功すれば……赤ん坊は私の子として正式に迎え入れよう」


 当主はクラウディオに秘術の場を設けた。

 長く使われていなかった離れを急ぎ改装して、令嬢と赤ん坊をそこへ入れた。

 

 それがこの離れの、鉄格子に囲われた部屋であった。

 

 クラウディオは赤ん坊に術式を施し、薬湯を飲ませ続けた。


「坊や、落ち着いて……大丈夫だから」

 

 時には暴れることがあったが、それは母親である令嬢が抑えつけてくれた。

 

 令嬢は必死であった。

 恐ろしい【人狼】に孕まされたとはいえ、生まれた我が子は人の形をしている。

 狼との生活の中で彼女の拠り所は赤ん坊であった。


 赤ん坊を失っては令嬢は生きていけない。

 

 赤ん坊を生かす為に、令嬢は必死に協力をした。

 かつての婚約者――アルフレートのことを思い出すこともなく。


 アルフレートは毎日、母子の元へ訪れて複雑な表情で様子を伺った。

 

 日に日に弱っていく令嬢、同時に人間らしくなっていく赤ん坊をみて誰もが複雑であった。


 そして約束の時、子供は人として迎えられエーデルシュタイン家の子ヴィルヘルムという名を与えられた。


 【人狼】の子とばれないように出生年を誤魔化して――


 


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