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不老不死の魔女-Kamelie-(2026年9月21日完結予定)  作者: ariya
赤い川の狼

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4 空腹感



 変だな。妙に腹が減る。


 屋敷に戻ってからヴィルヘルムは空腹感に困惑していた。


 もう少ししたら夕食だからだろう。



「ヴィル、どうした?」



 兄のアルベルトがヴィルヘルムの様子を伺っていた。



「いえ」


 ヴィルヘルムは思い出す。

 今自分がいるのは兄の執務室だということに。


 話している内容は、先日から揉めていることだ。


 椿との結婚をするかどうか。


 アルベルトは一貫として認めようとしなかった。


「兄上の考えはわかります。椿を家門に入れたくないのも……だから俺は家を出ます」


「考え直しなさい。お前はまだ若い……家門から外れた貴族がどんな目で見られるか想像してみろ」


 勿論わかっている。

 エーデルシュタイン家に連なり、縁をもつ貴族からも見放される。

 追い詰められた貴族をこの目で何度も見てきた。


 平民として生きるか、他国でゼロからやり直した方がましだろう。


 ヴィルヘルムはそれでもいいと思っている。

 貴族社会から離れて、椿と2人で旅をするのも悪くない。


 他国の【銀十字】の【狩人】見習いから始めても構わなかった。


 ヴィルヘルムの計画を聞いてアルベルトは眉間に皺を寄せる。


「お前をそんな風にする為に育てた訳ではない」


 父から放置されたヴィルヘルムにとって親代わりはアルベルトとベルンハルト公爵だった。

 できれば恩を返したいと、官僚と【銀の騎士】の二重生活に耐えてきた。


 だが、それ以上の存在に出会った。


 椿が好きだ。

 椿と一緒にいたい。

 椿が欲しい。


 ごくん


 喉の奥が鳴り、強い空腹感に襲われる。


 おかしいな。


 今日はヤケに腹が減る。


「全く……こんなこと、君の母親が見たら悲しむだろう」


 アルベルトの言葉にヴィルヘルムは血の気が引くのを感じた。


 脳裏に張り付いた女性の声がした。


 ――ごめんね、ヴィル。お前を守れなくてごめんね。


 心が弱く、部屋から出られなかった母の姿がちらついた。


 母をあんな部屋に閉じ込めた奴が何を言っているのだ。


 強い苛立ちを覚えた。


「とにかく椿さんは諦めなさい。お前には、もっと相応しい貴族令嬢が……」


「いやだ」


 ヴィルヘルムは呟いた。

 その声があまりに異質に感じて、アルベルトは口を閉ざした。

 ヴィルヘルムをじっと見つめる。


 椿を諦められない。


 椿が好き、椿が欲しい。――何故この男は邪魔をするのだ。


「ヴィルヘルム様」


 そばに控えていた執事がヴィルヘルムに声をかける。


 鬱陶しい。煩わしい。


 いっそ、消してしまおう。


 ◆◆◆


「これは酷い」

 

 執務室の様子をみてクラウディオはため息をついた。

 文書や本はあちこちに散らばり、筆記道具も散乱している。


 奥の方をみるとヴィルヘルムの姿があり、その下にアルベルトが下敷きになっている。

 アルベルトが持っている杖で、ヴィルヘルムの攻撃を受けて耐えている。

 杖にあたり、拳に血が滲んでいるが、ヴィルヘルムは構わずアルベルトを殴り続けた。

 

「ヴィル」

 

 クラウディオは指をくゆらせながらヴィルヘルムへと近づいた。

 

「ぜぇぜぇ」

 

 息を切らし、彼はおもむろに立ち上がる。

 新しく無防備な男の方へ近づき、口を大きく開けた。


 そこから覗く尖った歯をみてクラウディオは観念したように平静とした。

 先ほどまでの慌てようが嘘のようである。

 

 ヴィルヘルムが襲い掛かるが、クラウディオはくるりとかわし彼の懐に入った。


 鳩尾に鈍い衝撃と共に、クラウディオは体重をかけた。

 その隙にクラウディオは詠唱を唱えるとヴィルヘルムは次第におとなしくなっていった。


 倒れ込むヴィルヘルムをクラウディオが支えた。

 

「昔使っていた部屋まだあったよね。使えるようにしておいてくれ」

 

 使用人にそういいヴィルヘルムを抱え上げる。

 

「ベルモンド……」


 よろよろとアルベルトは起き上がった。杖で攻撃を防いだが、いくらか打撃は受けておりぼろぼろだった。

 

「うまくいったと思ったけど、また戻ってしまったね」


 アルベルトにクラウディオは優しく微笑んだ。

 

「ヴィルを……頼む」

 

「もちろんさ。可能な限り手をつくそう」

 

 そういいクラウディオは屋敷の外へ出た。

 屋敷から離れた建物がある。


 厳重に鍵がかけられていたが、それが今開かれる。


 三階の部屋へとヴィルヘルムを運んだ。

 使用人が鍵を開けて重い扉が開かれた。

 

「はじめて出会った頃と全く変わらないね」

 

 部屋の中には格子が張り巡らされて、部屋の中にひとつの牢屋があるような作りである。


 窓も外にも内にも格子がつけられている。


 牢屋の中はごくふつうの部屋で、ベッドもあるしソファも机もある。

 長く使用されていないが、簡単な掃除がなされていた。


 まだ端々に埃がたっている。

 真新しいシーツにかえられたベッドにヴィルヘルムを横にさせる。

 眉間に皺をよせて通常通り眠りについている。

 

 しばらくすると彼は目を開けた。

 今度は襲い掛かることはなかった。

 

「やぁ、ヴィル。先ほどのことは覚えているかい?」

 

「兄上と話をしていたが……」


 ヴィルヘルムは頭を抑えながら記憶を辿った。


「そうだ、椿を頑として認めず、俺が家を出ることも許さず……そこから覚えていない」

 

「倒れてしまったんだ。疲労だよ。最近休暇をとったといっても仕事続きで疲れていたんだよ」

 

「そう、か……」

 

「椿も心配している。でも、今の君を見せたら泣いてしまいそうだ。早く元気になって会ってあげないと」

 

「そうだな。明日には戻らなければ」

 

 そう呟きながらヴィルヘルムは寝息をたて眠りについた。


 

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