14 尋問
シェートンの店は、国内各所に点在していた。
東海の品は密かな人気があり、フローエ夫人の助けもあり店舗を拡大できていた。
ロートバッハ支店、奥の方に小さな部屋があった。
ここで尋問を行うという。
周りをみると窓も何もない。
外に声がもれないように設計されているようだとヴィルヘルムは壁を叩き確認した。
部屋にたどり着いたらシェートンは二人の部下に命じて、奴隷商人の男に質疑していた。
「お前が活動していた場所は複数カ所、東金、大眞国、天楽……お前たちのお得意先、アルブシルヴィウスの民は最悪な感性も持ち主だ。食用、愛玩具として東海の民を求めている」
「ああ、そうだ。お前も高く売れただろう」
強く鈍い音が響いた。
シェートンが男の鳩尾に蹴りを入れたのだ。
ごぼっと売人の口から吐物が零れ落ちた。
穢らわしいものをみるようにシェートンは静かに見下ろした。
「お前は私の質問に答えるだけでいい」
シェートンはなおも続けた。男の髪を無造作に掴みあげ、上の方へあげさせる。
「10年以上前。お前たちは大眞国に旅芸人の一家の娘を誘拐しただろう。メイリンという美しい娘だった」
男は首を傾げた。
「さて……あちこちと奴隷を狩ってきたのであまり覚えていませんな」
「アルブシルヴィウスの民に売っただろう。ダヴィードという【吸血鬼】に」
「そこまで調べがついているのであれば私なんぞ尋問する必要がないのではないか」
「私が知っている情報はここまで……私が知りたいのは、アルブシルヴィウスの村に行く方法だ。どうすればあの民と接触できる」
「なんだ? 商売でもしたいのか?」
シェートンは鋭い眼光で男を見下ろしていた。
ほしい情報以外は口にするなと言わんばかりである。
「アルブシルヴィウスの民はめったに村の外を出ない。たまに変わり者が外に出て騒動を起こしているようだが、俺たちと取引しているのは【眷属】――【吸血鬼】の召使たちだ。何度も取引をしてようやくお得意先を得られる」
「お前のお得意先の名前は?」
「それは言えない。だが、奴らが今、強い興味を抱いているのが東海の【不老不死の魔女】だ。奴らは莫大な報酬を約束してくれたよ」
だから奴隷商人たちは椿を探り何としてでも手に入れようとした。
静かに奴隷商人の話を聞きながら、ヴィルヘルムは拳を握りしめた。
奴らは東海で静かに暮らしていた椿にどれだけの屈辱を与えただろうか。
そのうえでこいつらはアルブシルヴィウスに売り渡そうとしていた。
よりにもよって【吸血鬼】に。
【銀十字】でも手を焼いている、凶悪な異端者一族に。
知らず知らずのうちに表情がこわばっていくのを感じた。
時間をかけて、尋問をして時には暴力を繰り返してようやく取引に利用している場所を確認できた。
暴力による尋問はダメだというが、ヴィルヘルムはとても止める気分にはなれなかった。
(こんな俺をみて椿は、怖がるかな)
こんな時も彼の頭には、愛する女性の姿があった。
欲しい情報を得られたシェートンは男をヴィルヘルムに預けた。
「取引場所に行くのか」
「ああ……少しでも奴に近づきたい」
残念なことだが、シェートンが求めている【吸血鬼】ではなかったようだ。
だが、それでも同じ村の【吸血鬼】と繋がりをもてそうな場所だ。
外国――マジェンダであり、しばらくはシェートンと顔を合わせることはないだろう。
国内各所に店舗を構えるシェートンの情報網は裏社会にも繋がり、何かと便利だったのだが。
今回の誘拐事件も彼に助けられた。
「言っておくが、その場所は俺たち西海人のみの場所で東海人は奴隷としかみなされないぞ」
頬が腫れた売人はせせら笑っていた。
そう言われてもシェートンの決意は固いようだ。
「バルス卿の助力を得る」
ヴィルヘルムは旧友の名を聞いて思い出した。
そういえばシェートンはマジェンタ国の貴族アーロン・バルスとも繋がりを持っていた。
彼と一緒であれば少しは動きやすくなるだろう。




