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不老不死の魔女-Kamelie-(2026年9月21日完結予定)  作者: ariya
赤い川の里帰り

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12 協力者



 巨大な土の人形を前に、ヴィルヘルムは拳銃を鳴らした。

 弾は化け物にあたるが、そのまま奥へと沈んでいく。

 化け物は全く動揺も示さず、大きな体をゆらゆらと動かしていた。

 

「くそっ!」

 

 わかっていたが、拳銃では全く歯が立たない。

 もっと強力な武器が必要になる。


「……散弾銃。いや、だめだ」


 武器を置いている馬車には椿たちがいる。

 取りに向かえば、土の人形はそちらへ動くだろう。

 椿たちが危なくなる。


(売人はこういう異端者も、手足として扱っていたのか)


 今の奴隷商人の口ぶりではアルブシルヴィウスの民が準備したような言い方だった。

 あれは【吸血鬼】の【魔法使い】の作品ということになる。



(捕まえていろいろと調べる必要があるな)


 ヴィルヘルムは懐から紙を取り出した。

 それは先程の奴隷商人が持っていた【スクロール】と同じ巻物だった。


 【銀十字】にも一応【魔法使い】は存在する。

 ヴィルヘルムはそれを破り呪文を唱えた。

 スクロールから火花が散り、頭上、天高く舞い上がった。

 近くにいる【銀十字】への応援要請である。


 彼らが来る前に持ち堪える必要があるが、その間に奴隷商人が姿を消したり、椿に手を出す可能性があった。


  

「せっかくの里帰りなのに、また仕事か」

 

 軽口をたたきながら、化け物の拳から身を翻し逃げる。

 地面は深くまでめりこんでいた。

 衝撃を受ければ無事では済まないだろう。



「ヴィル、化け物の注意を向けて」


  

 クラウディオは後ろから声をかけた。

 ヴィルヘルムはこくりとうなずいた。

 

 何か手があるのだろう。

 

 こういったものはクラウディオの方が強いのかもしれない。

 

 ヴィルヘルムと巨大猫は巨体の注意を誘導した。

 なるべく二体を引き離す。


 一体がクラウディオの元へと誘導されてくる。

  

「……よし、久々にと」

 

 クラウディオは自身の足に触れた。

 瞬間、早口で言葉を発した。

 

 それはこの国の言葉ではない。

 

 言葉とともにクラウディオの足は光り輝き、動きが迅速になった。

 

 クラウディオは一体の化け物の後ろへ回り、ぐるりと向きを変えて飛んだ。

 

 音もなく、軽やかにクラウディオは巨人の背中にあがり、もう一度飛び上がる。

 巨人の首筋まで届いてクラウディオは笑った。

 

「うん、思った通りだ」

 

 巨体の首筋には文字が刻まれていた。

 

 ――【EMETH】と。

 

「ちょっとデザインが古いな。アルブシルヴィウスの民のことだから改良していると思ったけど」


 ぶつぶつと独り言を呟きながら、文字のひとつ【E】を消した。


「……まぁ、楽でいいけど」

 

 文字が消されると巨体は体が動かなくなった。

 しばらくふるふると震えて、体からどろが落ちていく。

 形は崩れていき、土くれとなり果てた。

 

「よし、次ぃ」

 

 クラウディオは再び自分の足を叩きながら、言葉を発する。


 今度はヴィルヘルムが相手している巨体の方へ向かう。

 同じように首筋にある文字をひとつ消せば、先ほどと同様に巨体は土くれへと変貌した。


 ◆◆◆


 戦いの結末を眺めて奴隷商人はため息をついた。


「……ユリアンの【魔法使い】か。これは失敗した。土の人形を無駄にしてしまった」


 残念そうに呟き、後ろへと足を向ける。

 静かに立ち去ろうとするが、目の前に見知らぬ男が現れた。

 

 黒髪の東海の男――シェートンだった。

 彼は男の道を阻む。

 

「あなたは?」

 

「ちょっとした同業ですよ、旦那」

 

 同業と言えば、奴隷商人という意味だろうか。

 

「では、交渉を。今はここを立ち去ることが先決ですが、珍しい【不老不死の魔女】を一緒に確保できませんか?」


 ただ逃げるのも癪である。今は馬車には椿とマリアの2人がいる。

 ヴィルヘルムとクラウディオの注意を散らせれば椿を連れ去ることはできるかもしれない。


 交渉内容を言う前にシェートンは呟く。

 

「そりゃ残念ですね」

 

 シェートンは笑いながら、男に近づいた。

 思いの他、速く近づいてきて商人の男は驚いた。


「げぼっ!」

 

 警戒する間もなく、鳩尾に拳が入った。

 

「私はすでにあちらの旦那に取引をしているので」

 

 シェートンは笑って、崩れ落ちた男の襟を掴んだ。

 

「身柄確保、感謝する」

 

 ヴィルヘルムはシェートンに近づいて礼を述べた。

 

「いえいえ、私も今回は感謝してますよ。こういう商人に会いたかったので」

 

「代金は後で払おう」


 ヴィルヘルムの言葉にシェートンは首を横に振った。

 

「いえ、お代は結構。ただし、【銀十字】の手に渡る前に確認とらせていただけませんかね」

 

「何?」

 

「こいつは東海に奴隷狩りをしていた団体……なんで確認したいのですよ。アルブシルヴィウスの民とも繋がっているようですし」


 シェートンの頼みにヴィルヘルムは表情を険しくした。

 

「民間人の尋問は許可できない」

 

「そこをお願いしますよ。今回犯人確保したお手柄に免じて」

 

 ヴィルヘルムは眉間に皺を寄せた。

 

「わかった。ただし、俺も同席する」

 

「うーん、あんたみたいな真面目なお坊ちゃんが傍にいるとやりづらいのですが、まぁいいでしょ」

 

 シェートンは感謝を述べ男を引きずり馬車へ放り込んだ。椿たちが乗っているのとは違う別の馬車である。

 

 中にはシェートンの部下と思われる東海人がおり、商人の男を縄で拘束していった。

 他の場所へ逃げた仲間たちもシェートンの配下たちが捕らえていることだろう。

 

「じゃ、どうぞ。旦那」

 

 シェートンは馬車の中へヴィルヘルムを案内した。

 

「クラウディオ、椿とマリアを屋敷へ送ってくれ」

 

「わかっているよ」

 

 クラウディオの笑顔をみて、終わったと実感できた。

 

 ヴィルヘルムは馬車の方をみた。

 できれば、椿に声をかけたいが気が緩んでしまう。

 

 ヴィルヘルムはシェートンの馬車へと乗り込んだ。

 

「あとでお坊ちゃんは送りますので」

 

「いや、言ってくれれば僕が迎えにいく。もうすぐ来る【銀十字】にあたりを捜索させて、五時間後には犯人の受け渡しできるようにしてもらうよ」


 クラウディオの手配にシェートンは不服げであった。

 

「えー、五時間……せめて1日は欲しいところ。いや、わかりましたよ。政府を敵にまわしたくないからね」

 

 仕方ないとシェートンはうなずいた。


 ヴィルヘルムが別の馬車へ乗っていくのを椿は悲し気に見つめた。

 先程の化け物の光景を思い出すと動悸が止まらない。

 クラウディオがいなければどうなっていたかと思うと椿は不安で仕方なかった。


「ヴィルお兄様は無事だったのよ」


 小さな温かな手が触れた。

 椿は、ようやく無事に帰れるのだと実感した。

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