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不老不死の魔女-Kamelie-(2026年9月21日完結予定)  作者: ariya
赤い川の里帰り

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10 巨大猫のたわむれ


 猫の行き先を歩いていると、少しずつあたりが明るくなったように思える。

 もう少しで外に出られるだろう。

 

「あと少しです」


 励ますように椿が声をかけると、マリアはこくりとうなずいた。


 2人の足音と声しかない静寂な木々の中、突然銃声が切り裂いた。

 

 思わず椿は同時に止まってしまった。

 咄嗟にマリアを木の陰へ押し込み、自らが盾になるように前へ立った。

 

 今の音は銃声であった。

 

「マリア様、お怪我は」

 

 周囲の様子を伺いながら、ようやく椿が口を開いた。


「ないわ。音に驚いただけ……」 


 背中越しマリアが反応した。

 

 今の銃声は彼女にはあたっていない。

 確認できた椿は安堵した。

 

 後ろの木々から男がが現れた。

 全部で10名――椿を廃屋の地下へ閉じ込めた男もいる。


「あの2人、私を屋敷から連れ出した誘拐犯よ!」


 マリアは耳元で囁いた。指差した男2人は無表情でこちらの様子を伺っている。

 まるで人形のように不気味であった。


 男たちの位置関係から、椿を地下へ閉じ込めた男がリーダー格のようだ。

 リーダーは呆れた様子で口を開いた。

 

「全く困ったお嬢様方だ。ほんの少し待つことができなかったのでしょうか」

 

 部下の男たちが、椿たちの方へ近づく。

 椿はマリアを下ろした。

 彼女を庇う形を崩さず、椿は言い放った。


「マリア様だけは助けてください」

 

 そういうと奥の男が盛大に笑った。

 

「さすがエーデルシュタイン家が購入した奴隷だ。主人に忠実だ」

 

 あまりの言い方に椿は怒りを覚えた。


「私は奴隷ではありません」

 

 はっきりという椿の姿に男は肩を揺らして笑い続けた。

 

「これは失礼。あなたのを高く買いたがる方がいてついつい先走ってしまいました」


「私を……」


 椿はぞっとした。

 奴隷の商品として品定めされていたようだ。

 元から彼らの狙いは自分なのだ。

 

「あなたはまだ覚えているでしょう。奴隷として運ばれてきた日のことを……」

 

 その言葉に椿は顔を強張らせた。

 忘れたくても忘れられない屈辱の日々、船に揺られながら船員に嬲られてきた。

 ヴィルヘルムに助けられなければいつまでもあの日々が続いていただろう。

 

「そうだ。取引だ。ここでマリア嬢のみ解放させます。ただし、あなたは私たちとともに来ていただきたい」


 動悸がして眩暈を覚えた。

 

 それでも、今ここにいるのは自分であり、マリアを守れるのは自分だ。

 

 椿は自身に言い聞かせて倒れまいと踏ん張った。

 

「私に……奴隷になれと」

 

「そうです。あなたの意志次第でマリア嬢は親の元へ帰して差し上げます」


 椿は男たちの動作を確認した。

 主格である男は一切動く気配はない。

 左右に控える男たちが問題である。


 主格の男が指示を出せば椿もマリアも捕らえられるだろう。

 

 ここで抵抗してもよくない。

 だがその為には椿が身を差し出す必要がある。


「およしなさい」

 

 マリアは椿の手を握り言った。

 

「私が招いた災いです。あなたが犠牲になる必要なんてありません」

 

「これは意外です。東海の奴隷などいなくなってしまえばいいと言ったのはあなたでしょう」

 

 そういいマリアは悲し気に眉をひそめた。

 先日までの自分の言動に後悔しているのだ。

 

「そうよ。この人なんていなくなればいい。ヴィルお兄様を誑かして、クラウディオ様までたらしこめたひどい女なんて……」


 マリアの口から出る言葉はわかっていても悲しいものがある。

 だが、はじめて出会った時とは言い方が違うと椿は感じた。


「だけど、あなたたちが捕まえた奴隷たちをみて私は知ったわ……。自分が願ったことが、どれだけ残酷だったかを」


 マリアは少し前のことを思い出した。

 

 あの地下牢にはマリアのみしかいなかったが、椿が訪れる少し前までは別の奴隷がいた。

 

 マリアは彼女がどのような目に遭っているかを牢屋越しで見て、あまりの残酷さに恐怖を覚えた。

 

 すでにこの国には奴隷制度は廃止されている。

 

 エーデルシュタイン家は下男、下女に対しては非道な行いはしない。

 マリアは惨い行為というものを知らなかった。

 

 ただ主人の言い分に頷き、かしずく存在だとしか思っていなかった。


 椿にこのような目に遭わせるなど願っていない。

 

「この方は私を助けようとしてくれました。この方を奴隷と呼び、非道を行うのはエーデルシュタイン家の後継として許しません」


 自分がしてきたことがどれだけの非道だったか噛み締めながら、マリアは宣言した。

 リーダーの男は眉間にしわをよせて忌々し気にマリアを睨んだ。

 

「これだから深窓の令嬢というものは……」

 

 リーダーはひどく苛立ち、男二人に命じた。


「あの奴隷を捕えなさい」

 

「マリア様は逃げて」


 奴らの狙いが自分であれば、マリアは逃げられるはずだ。

 椿は叫んだ。

 

「だめです。逃げるならあなたと逃げます」

 

 決して置いていかないとマリアは椿の手を握った。


「に゙ゃーーー!」


 白い猫が目の前に現れて、男たちに襲い掛かった。

 

 猫――確かに猫の姿であるが妙に大きい。

 

 白い獣は低く唸り、鋭い牙を剥いた。

 

 男たちは逃げ出そうとするが、猫は太い手で押さえつけた。もふっという音が聞こえてきそうだ。

 

「椿、マリア……こっちだ」

 

 後ろから引っ張られて、椿とマリアはヴィルヘルムに保護された。

 

「お兄様っ」

 

 マリアは涙を流しヴィルヘルムを呼んだ。

 ヴィルヘルムはマリアを抱き上げた。

 

「全く、……クラウディオ」

 

 ヴィルヘルムはクラウディオにマリアを預けた。

 

「え、ちょっと……クラウディオ様」

 

「しょうがないでしょう。マリア嬢の足がまめだらけでうまく走れないだろうし……」


 クラウディオは猫を通じて情報を入手していたようだ。

 マリアを抱き抱えながら椿の方へと視線を移す。


「椿は大丈夫かな」


 クラウディオが尋ねると椿は頷いた。

 

「はい」

 

 椿は誘拐犯たちをみつめた。今は白い獣に遊ばれている。

 

「あの、獣は」

 

「ああ、ずっと君と一緒だった僕の相棒さ。名前はビアンカという」

 

 例の白い猫だといわれて椿は驚いた。

 

「普段は愛くるしい愛猫の姿だけど、戦闘隊形になると獰猛な獣の姿になるのさ。巻き込まれたら大変だからああいうときは黙って避難がいいよ」

 

 クラウディオは二人を馬車がある方へと案内させた。

 

「ヴィル様は?」

 

「ヴィルはお仕事さ」

 

 仕事というと、つまり【銀十字】関係の仕事ということになる。


 椿は後ろを振り返りながら、ヴィルの安全を願った。

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