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不老不死の魔女-Kamelie-(2026年9月21日完結予定)  作者: ariya
赤い川の里帰り

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8 長い道のり


 地下からあがるとぼろぼろの内装の館だった。

 あたりを調べる暇などなく、椿はマリアを連れて足早に移動した。

 

 猫が案内するのは洗濯所として使用されていた部屋のようだ。

 そこから難なく外へと出られた。


 外は日が落ちて随分と時間が経過していた。

 真っ暗闇で、足元がおぼつかない。月明かりになれてようやく椿はマリアの手を引いて木々の中――森へと入って行った。

 

「案外セキュリティが甘かったのね」

 

 見張りを用意していると思っていたが、館のいたる場所に配置させるほど人数は確保できていないようだ。

 牢屋の外に誰もいないとは思いもしなかった。

 

「マリア様が誘拐したのは何人程でした」

 

「二人よ。無口な男が二人……馬車で運ばれて」

 

 マリアは眉間に皺を寄せて、ぶるりと震えた。

 まだ誘拐された時の恐怖がある。

 

「彼らは奴隷商人よ。何度かうちにやってきてお父様に奴隷なんて必要ないと追い返されていたの」


 この国では奴隷売買は規制されている。

 だが、まだまだ奴隷を隠し持つ貴族は存在しており、奴隷商人が各地に潜んでいた。


「あいつらに接触して、あなたを売人に売り渡そうとしたの」

 

 マリアの手が震えていた。

 

「こんな怖いなんて思わなかった……」

 

 捕らえられて一人あの牢屋に放り込まれて怖くて仕方なかった。

 それなのに椿はマリアの為にここまで来てくれた。


 商人たちの要求など跳ねつければよかったのに。

 

 椿には、自分を奴隷売買に引き渡そうとした娘の為に動く義理などない。

 

 なのに彼女はここまで来てくれた。

 一言も責めることなくマリアを抱きしめてくれた。

 

 マリアは不安な表情で、椿を見つめた。

 

 許されないことだと理解していた。

 それなのに一言謝ることが、口から出ない。

 

 ここで椿に見捨てられるかもしれない。

 

 だが、マリアは自分の罪を隠したまま彼女に助けてもらうことは許せなかった。


「その話は、帰ってからにしましょう」

 

 椿は微笑んで、マリアの手を握り直した。

 マリアは俯いて涙をこらえた。

 

 館の外は手入れされておらず、無造作に草木が生い茂っていた。


 森といった方がいい。


「……狼」


 遠くから狼の遠吠えが聞こえた。椿の手がわずかに震えた。


「大丈夫よ。クラウディオ様の猫がついているのよ」


 マリアは椿を落ち着かせるように言った。

 しばらくして椿はこくりと頷いた。


(何よ……とんでもなく怖がりじゃない)


 椿の様子を観察してマリアは理解できなかった。

 どうして自分を助けてくれたのか。


 森の中、椿は猫の後をひたすら歩き回った。

 

「マリア様?」

 

 少し歩きが遅くなっているマリアに、椿は首を傾げた。


「何でもないわ」


 マリアは首をふるふる震えた。歩く度に顔が歪んでおり、椿はあたりを見渡した。


「あちらへ」


 ちょうど座れる場所で腰をかけさせた。

 椿はマリアの足元に膝をついてマリアの足に触れた。


「失礼します」

 

 靴を脱がしてみると、マリアの足にマメができていた。

 ずいぶんと痛そうで、少しでも触れるとマリアは顔をしかめた。

 

「歩くのは辛いでしょう」


 椿の言葉にマリアは首を横に振った。

 

「でも、歩かないと。もう逃げてるのばれているでしょうし」

 

「そうですね」


 椿は膝をたてたままくるりとマリアに背中を向けた。

 何をしているのだとマリアは首を傾げた。

 

「私が背負います」

 

「でも……」


 マリアは躊躇した。

 こうなってしまったのは自分のせいである。

 ならば自分の足で歩くくらいはしないといけない。

 

「急がないとダメでしょう」

 

 椿の言葉に、マリアはこくりと頷いた。

 自身を彼女の背中に預けた。


 にゃー……にゃー

 

 猫の鳴き声を目印に椿は歩き始めた。

 自分よりも小さな少女であるが、マリアの体重はずしりと背中にかかってくる。


(ドレスの下にズボンを履いておけばよかったわ)


 こうなるとは思わず、椿は準備不足を悔いた。


 しかし、後悔しても時間は無駄にすぎるだけである。


 できる限り移動を、ヴィルヘルムたちがいる場所へと動く必要があった。


 椿は何度か体勢を整えながらマリアを背負って森の中を歩いた。


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