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不老不死の魔女-Kamelie-  作者: ariya
赤い川の里帰り

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6 誘拐犯からの要求


 夜間にクラウディオはヴィルヘルムの部屋を訪れて、事情を話した。


 一通り話を聞き終えたヴィルヘルムは深くため息をついた。


「……とにかく兄上にお伝えする」

 

 ヴィルヘルムはまずは兄の部屋へ向かう。

 

 椿もついていこうと思った。


「椿、お前はクラウディオとここで待ってくれ」

 

「ですが……」


 不安げに呟く彼女にヴィルヘルムは頬を撫でた。


「頼む」


 椿は頷きヴィルヘルムの部屋で待機することにした。

 

 家主の部屋で、ヴィルヘルムから話を聞いたアルベルトは頭を抱えた。

 急ぎ使用人にマリアを探させたが、どこにも見つからない。

 

「マリアは本当に攫われてしまったのだな」

 

 ようやく話を受け入れることになった。

 だが、ひとつだけ受け入れられないのはマリアが椿を陥れようとしていたことだ。

 

「マリアが椿を人さらいに攫わせようとするなど考えづらい」

 

「ですが、この夜間に椿を誘導するなどおかしい」


「ヴィル、マリアは君の姪だろう? マリアを疑うのかい?」


 アルバートは不服そうにヴィルヘルムを睨んだ。

 いくら弟が相手でも娘を陥れた言い方は許し難かった。


「マリアがそのような非情なことはしないはずだ」


 それはヴィルヘルムも同様に思いたい。少なくとも数日前までの自分であればそうだった。

 

 しかし、マリアは椿を蔑む言葉を発した。

 メイドと誤解するまではまだいい。奴隷という発言まで使用したことは許せなかった。

 怒りを抑えるのにどれだけ苦労したことか。

 

 今、ここで問答するとこではないとため息をついた。


「今はマリアを見つけ出すことが先決でしょう」

 

「そうだな」

 

 すぐに使用人たちに新しい指示を与えた。

 そしていつでも身代金を差し出せるように指定の金銭の準備をした。


「旦那様」


 使用人は新しい紙を発見したと主人のもとへと届けた。

 新しい指示のようである。金銭を鞄に詰め込み指定の時刻、場所へもっていくようにと書かれている。

 その内容をみてアルベルトは微妙な表情を浮かべた。

 

「椿さんを呼んで欲しい」

 

 アルバートはヴィルヘルムに告げた。

 ヴィルヘルムは首を傾げて、紙の内容を確認する。

 紙には椿を金銭の鞄を運ぶ人間として指定していた。

 

「ダメです。認めません」


 ヴィルヘルムは強く拒絶した。

 いくら兄の頼みであろうと椿を危険な目に遭わせるわけにはいかない。


「だが、少しでも指示に反すればマリアの身は危ういと書いてあるだろう。お前はマリアが心配ではないのかっ!」

 

 アルベルトはヴィルヘルムの肩を掴み、頼むと懇願した。


「……わかりました」

 

 兄にここまで頼み事をされることがなかったヴィルヘルムは話は言った。


「だが、椿が少しでも恐怖を感じれば行かせるわけにはいかない」


 これだけは譲れないとヴィルヘルムは兄に伝えた。


 ◆◆◆


 ヴィルヘルムは自室で待機する椿に先程の話を伝えた。


「むしの良い話だよ」

 

 椿より先に不機嫌な声をあげたのはクラウディオだった。

 

「結婚相手と認めようとしない、相応しくないから別れるようにと圧力かけていたのに……椿を誘拐させようとして逆に誘拐されたマリアを助けてくれなんて。よく口にできたものだよ」

 

「マリアは兄上の大事な一人娘だ。かなりの難産であったというから、大事になされていたんだ」

 

「僕も何とかしたいという気持ちはあるが、でもあれは自業自得、自分から墓穴を掘ったんだよ」


 クラウディオとしても内心複雑だった。

 マリアのことは幼少時の頃から知っている。

 可愛い親戚の娘のように可愛がっていた。

 だが、彼女が椿を「奴隷」と蔑んだ言葉を聞いてからクラウディオはマリアを軽蔑し、椿を守る側へと移った。

 

「だからといって見捨てるわけにはいかないだろう」

 

「僕にとっては椿の方が大事だよ。君は?」

 

 突然このような言葉を言われヴィルヘルムは動揺した。

 このクラウディオがここまで言うのは珍しい。

 

「ヴィル様、私が行きます」

 

 椿は覚悟を決めた表情で言った。

 それにヴィルヘルムは慌てた。


「危険だ」


「ですが、マリア様は今心細くされています」


 2人に止められても行くと椿は言ってきかない。

 ここまで意思を曲げない椿は初めてだ。


「わかった」

 

 しばらくして折れたのはヴィルヘルムの方だった。


 ヴィルヘルムは諦めて椿をアルバートの部屋へと連れて行った。


 既に身代金の準備は終わっていた。

 アルバートは椿を見るや頭を下げた。

 

「マリアを助けたい。頼む」

 

「わかりました」

 

 椿はあっさりと引き受けた。

 相変わらず不機嫌なクラウディオは椿にこそっと耳打ちした。

 

「別に断ってもいいんだよ」

 

 それに椿は首を横に振った。

 

「私がそうしたいのです」

 

 そういうとクラウディオは苦笑いした。

 

 指定の時間まで十分余裕がある。

 それまで馬車の手配をさせた。


 馬車でぎりぎり近くまで椿を届けようというのだ。

 椿は紙の内容を確認して人さらいにわかりやすい特徴の衣装を着ることにした。

 一番近い色の衣装を借りて身に着ける。

 

 準備をしている間に部屋にヴィルヘルムが訪れた。

 ヴィルヘルムは椿の部屋の中、長椅子に腰をかけた。

 

「俺も近くまで一緒にいこう」

 

「ですが、館の者がいるとわかれば約束違反になるのでは」

 

 そうはいっても椿を一人きりで誘拐犯の元へ行かせるわけにはいかない。

 

「まぁまぁ、館の人間ではないなら大丈夫なのだろう?」

 

 クラウディオが手をあげて自分にまかせてくれと言った。

 

「お前も館の人間とみられる可能性がるが」

 

「そうさ。だから、僕の頼れる仲間に頼るのさ」

 

 クラウディオの言葉の後に、にゃーと猫の鳴き声がした。

 

 白い猫が迷い込んでとことことと椿の傍まで近づいた。

 あまりのかわいらしさに椿は思わず頬がゆるんでしまう。

 

「どこかでみたなと思ったら、あの時の……」

 

 椿は思い出しながら猫を抱きしめ頭を撫でた。

 

 「あの時」という言葉でヴィルヘルムは首を傾げた。

 

 しばらくして思い出した。

 椿とはじめて出会った頃に外に出てた椿の傍に寄り添っていた白猫だった。


「ああ、今頃気づいたんだ」


 クラウディオは呆れたように呟く。

 ヴィルヘルムはクラウディオを見つめた。

 

「この子は僕の大事な相棒だよ。君に何かあれば僕に知らせてくれる」

 

 猫であれば誘拐犯も気にしないだろう。

 

 椿は早速アルベルトに指示されるまま指定の衣装に着替えた。

 

 すぐに誘拐犯がわかるように指定の色合いの衣装である。

 白と赤を基調としたドレスを着た椿はアルベルトから金銭の入った鞄を受け取った。

 

「あなたに頼むのは心苦しいが……マリアの為に頼む」

 

「わかりました」


 アルバートは意を決して伝える。


「もし、マリアを助けられたら私は君を認めよう」


「結構です」


 予想外の返答にアルバートは目を見開いた。


「私はそんな打算で引き受けたと思われたくありません」


 椿はアルバートに背を向けて、馬車に乗った。

 馬車は言われるままの場所へと向かった。


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