2 夕食会
しばらく何も語らないアルベルトはようやく口を開いた。
「お茶でも飲もうか」
アルベルトは執事に命じてお茶の準備をさせた。
執務室には客人を座らせる為の間があり、そこに長椅子やテーブルが置かれている。
そこでお茶の準備をさせた。
ほんのりと甘い香りのクッキーとともに出されたお茶にヴィルヘルム、椿、クラウディオ、アルベルトは一服した。
「彼女を認めていただきたいのですが」
話の続きをとヴィルヘルムは前に出る程の勢いで言ってきた。
「当主が認めなければ俺は、……エーデルシュタイン家を出ます」
その言葉に椿はさっと青ざめた。
家は大事なもので繋がりであるべきなのだ。
途絶えてしまった家がどういうものか。
椿はその繋がりの大事さを知っていた。
「彼女はそれを望んでいないようだね」
椿の内面を見透かしたようにアルベルトは口の端を釣り上げた。
緊迫とした中、椿はどうしていいかわからず視線を下へ落とした。
そんな時、大きな足音が聞こえる。
「お父様!」
扉が盛大に開かれて、少女が部屋に飛び込んできた。
アルベルトと同じ金髪のふわふわした髪の少女だ。
彼女は部屋の中をみてははしゃいで小犬のようにぱたぱたと足音をたて、ヴィルヘルムの方へ近づいた。
「お帰りなさいませ。ヴィルお兄様」
はにかんだ笑顔にヴィルヘルムは少しばかり眉間の皺を緩めて笑った。
「マリア、客人を前に失礼でしょう」
窘めるアルベルトの言葉にマリアと呼ばれた少女はこほんと咳払いして後ろへ下がりスカートの裾をつまんでお辞儀をした。
「ようこそ。ヴィルヘルム様」
淑女の振る舞いにアルベルトは頷いた。
「ヴィルとの会話は食事の時にゆっくりすればいい。今はダンスのお稽古の時間だろう」
「はあい」
マリアは頷いて部屋を飛び出した。
「失礼したね」
アルベルトは話をもとに戻すと言った。
「とにかく結婚に関してはもう少し考えてから発言してもらおう」
結局認められないまま話はいったん中止となってしまった。
ヴィルヘルムはひどく不機嫌であり、椿はどうすればいいか悩んだ。
「前途多難だね。俺が助けようか?」
クラウディオは家のことであり見守りの姿勢であった。さすがにみかねて声をかける。
ヴィルヘルムは首を横に振った。
「まぁ、これくらい自力で何とかしないと椿を安心して任せられないか」
クラウディオは再度見守りの姿勢に戻った。
◆◆◆
夕食の席へと案内された。
主人の席にはアルベルト、妻はおらず二人の子供がいるので序列の席に彼らが座っていた。
ヴィルヘルムは次の席に客人のクラウディオ、椿も案内されるまま席についていた。
「ちょっとあなた」
怒った表情でマリアは椿を睨みつけた。
「あなたは何故そこの席についているの?」
まるでつくべきではない、つくのは悪いことだと言われているようで椿は動揺した。
「あなたはメイドでしょう。ならば主人と同じ食卓につくのはおかしいわ。いくらヴィルお兄様が優しいとしても分別は持ちなさい!」
マリアから非難の声があがった。
「マリア、彼女は私の許嫁であり大事な女性だ」
「まぁ」
マリアは予想していないヴィルヘルムの答えに驚いた。
「お兄様、本気でそれを言っているの? 東海の者よ。奴隷だった者たちよ」
それに侮蔑の感情が見えた。
椿はぐっと唇を噛んだ。
かつての自分はそのつもりで売買されようとしていたのだ。
マリアの発言にヴィルヘルムは声を失った。
まさか、姪がこんなことをいうなど……
信じられない表情だった。
「わかった」
クラウディオは穏やかに笑い、立ち上がった。
「エーデルシュタイン家の食卓だ。元々外の者である僕と椿は別の部屋で食事をとるとしよう」
クラウディオは椿の両肩にポンと手を置いた。
「それならば文句はないだろう」
笑うクラウディオにマリアは困った。
「別にクラウディオ様までは……」
「椿は僕の大事な友人だ。奴隷などと蔑む者と一緒にはできないな」
クラウディオの目は笑っておらず、マリアは口をつぐんだ。
「いこう」
クラウディオは椿を連れて食卓の席を後にした。
「別に……私はクラウディオ様まで追い出すつもりはなかったのよ。ねぇ、ヴィルお兄様!」
頬を膨らませて食事を口に運ぶマリアにヴィルヘルムは何も言わない。
彼は眉間に皺をよせており、怒りが感じ取れていた。
マリアが相手でなければ、とっくに怒鳴りつけていただろう。
こんなに怖いヴィルヘルムははじめての様子で、マリアは困惑した。




