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不老不死の魔女-Kamelie-  作者: ariya
不老不死の魔女

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6 新しい生活


 椿が来てからというものクラウディオが上機嫌であった。

 普段は書庫に篭って、そこに常備してあるソファを寝床にしているのに。


 ヴィルヘルムには聞いていないのに椿についてのことをあれこれと話してきた。


 椿の国のこと、

 住んでいた庵のこと、

 海が近くて磯の香りがしたこと、

 そして日々の生活についてを。


「椿はずっと村の人から敬遠されていたんだって。老いないのは人を襲って生き血を啜っているんじゃないかって影で言われたこともあったんだって」


 確かに無理もない話である。


 【不老不死の魔女】が村の近くに住まれて、気味悪がる人は何人かいただろう。

 今まで出会った異端の者もそうであった。


 影で叩かれるくらいはまだましな方だ。

 何か災害が起きたり、不吉なことがあれば異端者の仕業と言われ、そのうさはらしの標的にされていた。

 なるべく人と関わらないように過ごす者は大勢いた。


 椿もそのうちの一人だったのだろう。



「だからずっと一人で庵の中で過ごしていたんだって。食べ物は裏の山でとれる山菜を食べていたって」

「クラウディオ、俺は今仕事中だけど」



 【銀十字】と官僚の仕事を同時並行で行なっている。

 決して暇ではない。

 なぜ自分は居候の世間話にまで耳を傾ける必要があるのだろうか。


 クラウディオはじとっとヴィルヘルムを睨んだ。


「もうちょっと彼女に興味を持ってもいいんじゃない? 一緒に住んでいるんだよ。家族のようなものじゃない」


「公爵から預かった大事な客人だ。それ以上も以下もない。それよりも椿の言葉の勉強をみるんじゃなかったのか?」


 クラウディオは呆れて答えた。


「椿は今ヨーゼフにテーブルマナーを教わっているの。ここの礼儀作法を覚えるのも必要なことだし」


 通訳がなくてもある程度の意志疎通ができるようになったらしい。

 だから椿が別の用事をしている時は、クラウディオはヴィルヘルムの書斎へやってきていた。


「失礼します」


 こんこんとノックをして、椿が書斎に入ってきた。

 表情が少し柔らかくなったように見える。

 顔色がだいぶいいなとヴィルヘルムは内心呟いた。

 

 彼女の手にはお茶とお菓子を乗せたお盆を持っている。


「お茶とお菓子をお持ちしました」

 

「わー、ありがとう」


 クラウディオは嬉しそうに椿の傍に寄った。


「お作法の勉強は終わり?」


「はい。ヨーゼフさんにお茶とお菓子をいただいたので一緒に食べる為に持ってきました」


 椿の言葉を聞きヴィルヘルムは感心した。

 確かにまだぎこちないが、はじめて会った時よりも喋れるようになっている。


「あの、ヴィル様もどうでしょう」


 椿はちらりとヴィルヘルムの様子を伺った。


「必要ない。丁度いい。そこの馬鹿を連れて行ってくれ」


 そう言いヴィルヘルムは書類の方へ視線を移した。


「もう、こんな男は放っておいて向こうへ行こう」


 クラウディオは椿から盆をとって椿の手を掴んで書斎を出た。

 書斎を出た後、椿は困ったように呟いた。


「お忙しい方なのですね」

 

「そんなことないよ。あいつが無愛想なのはいつものことだよ」


 クラウディオは椿に気にしないように言った。


  ◆◆◆


 まだ片づけないといけない書類はあるが、その日にすべきことは終わった。

 ヴィルヘルムはようやく大きく背伸びをした。


 そういえば小腹が減っているのに気がついてヴィルヘルムは書斎を後にした。

 ヨーゼフが起きているはずだと思い、彼のいるであろう場所へと向かった。厨房であった。


「何かつまめるものはないか」

 

「はい、ただいま用意いたしましょう」


 ヨーゼフはすぐにあり合わせのものでサンドイッチと紅茶を用意した。


 食卓へと運ばれるのを眺めて声をかける。

 

「……椿の様子はどうだ?」


「どうだ、と申しますと」


 何を答えるのが良いのかヨーゼフは思案した。


「最近お前からマナーを教わっていると聞いている。ちゃんと会話とかできているか?」


「はい。初めて来たときは大分困惑しておいででしたが、今ではしっかりとお話なされます」


 ヨーゼフとも問題なくコミュニケーションができているようだ。

 ヨーゼフはマナーについて報告した。


「まだナイフとフォークには慣れていませんが、一生懸命練習なさっています」


「そうか」


 どうやらうまくいっているようなのでとりあえず安心した。


「それと……」


 そう言いかけてヨーゼフは言うのをやめた。


「どうした?」


「いえ、大したことではありません」


 ヨーゼフはこほんと咳払いして、報告を続けた。


「椿様はヴィルヘルム様のことを心配しておりました。朝から晩まで、城へ向かわれて、帰宅後も書斎に篭り、身体に障らないかと」



 ヴィルヘルムは微妙な表情を浮かべた。

 慣れない生活で、まだ自分のことで手一杯なはずが、そんなことを考えていたとは思わなかった。


 ヨーゼフは申し訳なさげに伝える。


「あまりに心配されるので、私は椿様にお茶とお菓子を持っていかれてはと提案しました」


 そこまで聞いて、ヴィルヘルムは納得した。

 今日の椿の行動が、少し唐突に感じたからだ。


 書斎へ来るまで、どんな気持ちだったのだろうか。


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