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不老不死の魔女-Kamelie-  作者: ariya
銀十字の研究室

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7 面会時間


 椿が観察室に入って2日目であるが、特に窮屈とは感じられなかった。


 外界への出入り口は限られたが圧迫感はあまり感じなかった。


 入浴時間もほぼ通常通りの時間帯を指定してくれており、ときどきお茶とお菓子を届けてくれていた。

 

 彼らなりの配慮を感じ取れていた。


「おはよう、フロイライン」

 

 担当者マルクは眠たげに挨拶をしてきた。

 3日の間に自分の血を調べ廻ってくれているという。

 

 ほぼ目と手を使った作業であり、大変そうだ。

 

「あの、無理なさらないでください。多少日数が過ぎても大丈夫ですので」

 

「そうはいかないよ。私もこのように若い女性を陰気な部屋に閉じ込めるのは良心が痛む。気にしないでほしい」


「でも」


 心配そうな表情の椿にマルクは笑った。


「……そうだね。もし、間に合わなかったらヘル・エーデルシュタインへの謝罪の場で庇ってくれると助かる」

 

 そんな軽い口調で言われ椿はこくりと頷いた。

 他に応えるものが見当たらなかった。


 ゆるやかな時間が流れていく。


 昼食が終わった頃にヴィルヘルムとクラウディオが訪室してくれた。

 

「つばきー! ああ、可哀想に。こんなにやつれちゃって」


 顔を合わすなりクラウディオが椿にハグをした。


 別れてまだそれほど日は経過していないというのに椿は思わず頬を緩ませる。

 

「思いのほか快適でしたし、よく配慮してくださります」

 

 不満などなかった。

 

「そうか。何かあれば遠慮せずにいうように」

 

 押しに弱い性格であると知っている故の言葉であった。

 

「あと、これを」

 

 ヴィルヘルムは赤い表紙の本を一冊椿に渡してくれた。

 

 約束していた物語であった。

 そして一本の薔薇が添えられていた。

 

 ここに入る前に言われた約束を守ってくれたのだ。

 赤い色の薔薇をみて椿は嬉しそうに笑った。

 

「どこでこれを」

 

「庭のものを摘もうと思ったが、渡す直前に手折るのがよいとこの【銀十字】の庭に咲いているのを一輪いただいた」


 ここを訪ねる直前に庭の方へ行き、庭に咲く薔薇一輪を庭師にお願いしていただいたという。

 

「わざわざありがとうございます」

 

 椿は薔薇を胸にあてた。

 

 嬉しかった。

 約束を守ってくれて。

 

 こうして彼自ら選んだ花がとても愛しい。

 

「気に入ってくれてよかった。後1日で出られるように頼み込んでいるから」

 

「あの、私は大丈夫です。皆さまの仕事に支障をきたすのに比べれば少し日がたとうと構いません」

 

 それを聞きヴィルヘルムは苦笑いした。

 

「気にしなくていい」

 

 そういい椿の髪をなでる仕草はとても優しいものであった。


 ◆◆◆


 部屋を立ち去った後、ヴィルヘルムは検査室へと入った。


「ヘル、こちらの方へ」

 

 入り口の方でスタッフに呼び止められ、別の部屋へ案内された。

 

 しばらく待っているとマルクが部屋へ入ってきた。昨日ろくに眠っていないようで気だるげにしている。

 

「今のところどうだ」

 

「異常と思われる個所は見当たりません。【吸血鬼】になったものの血を元に作った試薬でも反応は認めませんでした。念の為、1日以上の時間変化もみておきたいですし、それで何もなければ検査は終了です」

 

 彼女が【吸血鬼】になった可能性は低いと考えてよい。

 

 その検査の作業が終わり、その間に椿の身に異変が起きていなければ問題ないと判断できる。

 

「そうか。すまないな」

 

「いいえ……その代わり、時間外手当を請求したいので、印をいただけますか?」


「無論だ」


 ヴィルヘルムは頷いた。

 

「しかし、不思議ですね。本当にごくふつうの人の血と変わりません」

 

 マルクは感心したように椿の血を固定化したプレパラートに光を中ててみた。

 

「血球の形、色合い……健常な人そのものでした」

 

「……よいことではないか」

 

「【不老不死の魔女】というから少し知的好奇心が沸き上がってきていたんですが……」

 

 一瞬ヴィルヘルムは不快そうに表情を曇らせた。

 

「あ、申し訳ありません。ですが、研究員としてはどうしてもそのね」

 

 異端者と呼ばれる者の生態を研究しているマルクには椿はさぞかし素敵なサンプルにみえただろう。

 そう思うと面白い気がしない。

 

「本当に彼女のことを大事に想っているんですね」

 

「ああ、求婚相手だからな」

 

 その言葉にマルクは飛び跳ねた。

 

「そんな驚くことか」

 

「驚きますよ。いや、あなたがまさか女性にそのように……」


 仕事人間のヴィルヘルムの噂はマルクの元にも届いている。貴族の役目も担っているというのに、未だに誰とも婚約せず、女の気配が見当たらない。

 

「勿論、まだ公にはしていない。遠い国から無理やり連れ出された女性だからな……素性が曖昧になっている。その辺をきちんとしなければ」

 

 そのための根回しをしている最中だとヴィルヘルムは言った。

 

「いいか。くれぐれも他言するなよ」

 

 そんな大事な内容をよく一研究員にいえたものだとマルクは思った。

 

「ええ、私はプライバシーには気を遣う方なのでご安心ください」

 

 そういうとヴィルヘルムは静かに部屋を後にした。


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