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不老不死の魔女-Kamelie-  作者: ariya
銀十字の研究室

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5 科学者


 

 記録を終えると、検査室の一室へと移動する。

 

 検査室にはまだ作業をしているスタッフが数人おり、彼らはプレパラートに日中採取した血を固定していた。

 さまざまな溶液で染色したものを整理していた。

 

 染色の液体は鉱石や動物の血から作ったものが多い。

 中には異端者の血を元に精製したものもあった。

 

 これにより採取した検体にどのような反応が起きているか確認をするのだ。

 

「今二十枚程仕上がりました」

 

 ボードに並べたガラスの板をみてマルクは肩を竦めた。

 

 今から何百ものプレパラートが完成し確認しなければならない。

 顕微鏡という小さなものを拡大する器具を使用して……これがかなりの労作業で目と肩が疲れてしまう。

 

 だが、3日で仕上げなければならない。

 

 まだ不可能な期間ではない。

 

 別部署からは1日で仕上げろといわれることはよくある。

 中には半日でしろという鬼までいるのだ。

 

 さすがに半日は人材不足なので無理だとつっぱねるが。

 

「あ、そっちはもう確認したよ。各血球の数は問題なかった。形も色も悪くない」

 

 奥ですでに顕微鏡で作業している男の声にマルクはため息をついた。

 示されたボードをみてそれを自分の作業場に置く。

 自分の顕微鏡ですでに確認済みだといったガラスの板を確認していた。

 

「信用されてないなぁ」

 

「二重確認はしておいた方がいい」

 

 それもそうだと男は笑った。

 

「不思議だよねぇ。こうしてみると普通のサンプルなのに。あの驚異的な治癒能力のメカニズムはどうなっているんだろう」

 

 続く軽口にマルクはほぼ反応せずもくもくとプレパラートを流す。

 色合い、形状、数をチェックしては別のプレパラートへうつす作業である。

 

「折角の入所なんだからもう少し採血して調べてみたらどうかな」


 男の提案にマルクはそっけなく返す。

 

「彼女の同意が得られればな。が、今日の検査の最中でもかなりの緊張状態だった。無理強いはよくないだろう」


 男は思わず笑みをこぼした。その時、金属のこすれる音がした。

 

 

「真面目だなぁ。マルクは」

 

「お前はもう少し真面目にしてはどうだ。ハンス」

 

 ようやく名前を呼ばれハンスはにこりと笑った。

 

 美しい外見と柔らかい物腰で検査室の中にすぐに溶け込んだ適応能力はかなりのものだ。

 

 この検査室に預けられてから1か月もたっていないというのにすでに検査室の仕組みを理解し、メインの検査をこなすことができるようになっていた。


 つい気を許しそうになるが、断じて許してはならない。


 マルクは頭の中で警鐘を鳴らしながら目の前の男を睨みつけていた。

 

 この男はすでに何人もの若い女性を殺した狂人なのだ。

 

 いや、人というカテゴリーにあてはめてよいか疑問が残る。


 ハンス・フランケンシュタイン。――先日の貴族令嬢失踪事件の犯人であり、少なくとも三人殺している。


 手法は鉄の処女という拷問器に令嬢を放り込むこと。その後はぼろぼろになった肉体を別の肉片で繋ぎ合わせたり、非人道な実験に使用していた。


 動機は自分の伴侶に相応しい肉体かどうか、という。

 

 マルクからしてみれば理解できない。

 そんなことで三人も殺すのかと。

 

 彼が捕縛された後、連れてこられたのは観察室の奥にある隔離施設である。

 そこで彼は数週間幽閉された。

 

 マルクは彼の診察を行い、血を採取してそれを研究材料にすることであった。

 彼の肉体について調べていくうちに彼がいろいろと自分のことを話すようになった。

 

 寂しがり屋なのか、マルクがくると嬉しそうに話してくる。

 自分の作り方についても断片的であるが、覚えている範囲のことを教えてくれた。

 気づけばマルクの指示にはある程度聞くようになってしまっていた。

 

 そこで、彼の処遇について公命が下った。

 

 ハンスを研究の助手として働かせると同時に監視し人の世界に適するように指導を行うようにと。

 

 【銀十字】の研究分野は進んでいる方であったが、研究議題は年々増えていく一方で人手が足りなくなっていった。


 そこでハンスという人材が目をつけられることになった。

 異端者への研究能力は群を抜いていた。


 

 ハンスの教育係を任されてしまいマルクは頭を抱えた。

 実際は助手が欲しいとこぼしていた時期もあった。

 論文を集めて整理してくれたり、研究の下地を手伝ってくれたりしてくれる存在が欲しいと思っていた。


 しかし、まさかこの狂人を与えられるとは思わなかった。


 実際、ハンスはかなり優秀な部下で、助かっているのだが。


 もちろん、殺人を犯した狂人である。

 彼の手首には拘束具が装着されており、【白魔女】から譲られた呪文を唱えると身動きがとれなくなる。そればかりか研究室には2名、研究員に扮した【狩人】が紛れ込んでいた。


 かくゆうマルクも【狩人】に至らずとも【狩人】見習いでもあった。


 静かに時間は流れていく。


 気づけば検査室にはマルクとハンスの二人だけになっていた。

 すでにほとんどの技師や研究員は自分の仕事を終え、検査室を後にしてしまったのだ。


 もっとも、隣室には【狩人】が控えているのだが。

 

「それにしてもこの量を3日で仕上げるなんてもう少し余裕もった期間設けてもよかったんじゃない?」

 

「3日が条件で彼女を観察室に入れたんだ」

 

 3日の間に採取した血液を調べぬく。

 それで問題なければ、彼女は解放される。


 マルクとしても外見上、十五の娘が外界から隔離されているのはあまり面白くないものであった。


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