4 観察室
ヴィルヘルムの執務室に、お迎えが来た。
椿は検査室のスタッフに案内され観察室が並ぶ棟へと入った。
窓をみると厳重に柵がはめ込まれている。
閉鎖的な空間に息苦しさを覚えたが、耐えられると思った。
(あの船の中よりも、ずっと平気……)
案内された部屋は思ったより広い。
中央にはベッドが置かれている。
部屋の壁には窓が見当たらなかった。
椿はくるりと見渡し、上の方をみるとようやく小さな窓があるのを見つけた。
他にあるのは出入り口の扉のみである。
「飲み物や食べ物はここから提供いたします」
スタッフが観察室のことについて説明をし始めた。
扉の方を示すと下の方に小さな窓がありそこが開け閉めできるようになっていた。
だが、開けられるのは外からのみである。
「欲しいものがあればこの紐で鈴を鳴らしてください。すぐに対応できるようにいたします」
ベッド脇に紐がぶらさがっており、先の方をみると天井へ向かっていた。
鈴というものは見当たらない。
椿が首を傾げ紐を見つめていると、スタッフがそれを何度も引っ張り出した。
別の場所からからんからんと音がなった。
紐で連携された他室にある鈴がなるような仕組みのようである。
「あとは入浴時間があります。あなたは午後の6時頃とさせていただきます。それでよいでしょうか」
「入浴させてくださるんですか?」
意外だと椿は驚いた。
お風呂はないものだと諦めていた。
「ええ、その間だけ部屋から出ることが許可されます。ただし、三人程見張りをつけさせていただきます」
一瞬、椿は表情をこわばらせた。
何を心配しているか察したスタッフは付け加えて説明した。
「見張りは女性スタッフにするように配慮しております」
それを聞いて椿は胸を撫で下ろした。
異端者になったかもしれない者であっても、ある程度の配慮は受けられるようにしているようであった。
「あなたは好きで疑われるような状況を作ったわけではありません。当然の権利です」
検査室のスタッフの声は優しいものだった。
もっとぎちぎちに幽閉されるのかと思ったので椿は安心した。
3日の辛抱だ。耐えられる。
「あと、これを」
スタッフは椿に一冊の本を差し出した。
「物語に興味があるとのことで……私物ですがお貸しいたします」
「よろしいのですか?」
「はい」
椿はおそるおそると本に触れた。
開くとい多くのイラストがちりばめられていた。
「翻訳ものですので、少しわかりにくい部分もあるかもしれません。ですが、絵がたくさんありますのでそれで楽しめるかと思います」
「ありがとうございます」
椿は頭を下げて礼を述べた。
「ところであなたの名前は」
椿は改めてスタッフの名前を尋ねた。
「ああ、申し遅れておりました。マルク・ヘッセといいます」
スタッフのマルクは丁寧に自己紹介をした。
「いろいろありがとうございます。マルクさん」
「いえ、ヘル・エーデルシュタインからあなたのことを重々頼まれておりますので」
「ヴィル様に?」
椿は首を傾げた。
「はい、先ほどこの部屋をみてはあちこち触れていろいろ質問責めされました。あなたのことをとても大事にされているようで」
「……」
椿はぎゅっと本を握りしめた。
自分が苦痛に感じるかどうか、観察室を何度も確認してくれたのだ。
「しばらくは窮屈かと思いますが、検査の結果がでるまでの辛抱です」
「色々配慮していただいて……それに組織内の決まりなら仕方ありません」
椿は検査や観察室でのことに関しては協力的であった。
ここまで配慮されている上に3日間の制限をつけてもらっているのだ。
ある程度の協力はしておかなければと感じていた。
◆◆◆
観察室の壁には通常の高さに窓は設置されていない。
高い場所に小さな小窓があるが、それは日を差し込む目的のものではなかった。
観察室のある棟の上の階に観察室の中を観察するための部屋がおかれていた。
そこに窓がとりつけられており、開けると部屋の中を見下ろすことができる。
あくまで観察するために設置された小窓であった。
検査室のスタッフのマルクはそのひとつを開け、今入所している少女の様子を伺った。
すでにベッドの中にくるまり静かに寝息をたてている。
あどけない表情でとても800年以上を生きた女性とは思えなかった。
日中の検査のときも慣れておらず不安そうにあたりを見る姿は迷子の少女のようにみえた。
しばらく姿を観察し、マルクは記録に記載をする。特に異常行動は認められないと。




