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不老不死の魔女-Kamelie-  作者: ariya
銀十字の研究室

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3 欲しいもの


「遅いよ。まさか検査が終わっても、君の仕事が終わっていないなんて思わなかった」

 

 部屋にはいるとクラウディオが開口一番に文句をつけてきた。

 その言葉にヴィルヘルムは若干の苛立ちを覚えながらも、奥の長椅子で横になっている椿を見つめた。

 

 医療班たちの各専門家の診察と検査の連続で疲れている様子であった。

 

 彼女の傍まで近づき、ヴィルヘルムは床に膝をたてて彼女の顔を覗き込んだ。

 無防備に眠る姿は少女のものと変わらない。

 これが魔女というのだから不思議なものである。

 

「椿」

 

 揺すり動かすと重い瞼を開け椿はぼんやりとヴィルヘルムを見つめた。

 瞳を蕩かせほほ笑む姿は愛らしくヴィルヘルムは彼女の頬に触れた。

 その感触で椿ははっと我に返った。

 

「お、おかえりなさいませ」

 

 主人の帰りに慌てて身を整え起き上がる子犬のようだった。

 思わず笑いが込み上げる。

 

「いい。疲れただろう」

 

「い、いえ……ヴィル様の方がずっとお疲れでしょうし」

 

 まだ混乱しているようで声がひきつっている。

 

「じゃ、早く帰ろうか。帰る途中に美味しいご飯食べて」

 

 明るい調子のクラウディオにヴィルヘルムは首を横に振った。

 

「椿には三日間奥の施設に入ってもらう」

 

「は?」

 

 クラウディオはやや不機嫌そうに眉を潜めた。

 

「まさか椿をあんな独房に入れるつもりかい?」

 

「観察室だ」

 

「同じだよ」

 

 不機嫌に鼻を鳴らす彼の様子から相当嫌っているようだ。

 それにヴィルヘルムはため息をついた。

 

 俺もあまり好きではない。

 だが仕方ない。

 決まりなのだから。

 

「あの、……3日間そこで過ごせば戻れるのですね」

 

 異端者――椿の場合は、【吸血鬼】になった可能性のある者は観察室へ入る必要があった。

 

 検査・診察だけではなく日中の様子を観察するのも大事なチェックなのだ。

 

「ああ、3日にするように頼んでおいた」

 

 状況によっては1週間以上観察されることも珍しくない。

 ヴィルヘルムはせめて血液の解析を早めてもらうように頼み込んだ。

 検査室のスタッフで最短3日で解析を終了できる。

 それが終了して問題なければ観察室から解放することを条件に椿を入所させることになったのだ。

 

 これでも検査室のスタッフからの最大の譲歩だというのは椿でも理解できた。

 

「わかりました」

 

「椿」

 

 心配そうにのぞき込むクラウディオに椿はにこりと微笑んだ。

 

「大丈夫です。3日の辛抱だといいますし。それに決まりなら仕方ありません」

 

 自分だけヴィルヘルムのおかげで免除されるというわけにはいかない。

 

 それで規則が崩れるおそれがある。

 今回は何がどうなるというわけではないが、ここで前例を作ってしまえば後々の例で問題が起きる可能性もある。

 

 そこでヴィルヘルムの立場が危うくなる方が椿としては嫌だった。

 

「終わりがあるのです。平気です」

 

 椿の笑顔にクラウディオは何も言えなくなった。

 

「わかった。毎日様子をみにいくよ。嫌なことがあればすぐに言うんだよ」

 

「そんな大げさな」

 

 過保護なまで椿に甘いクラウディオに椿は苦笑いした。

 しかし、大事にしてもらえていることに感謝していた。

 

「着替えや食事、必要なものはだいたいスタッフが整えてくれている。他に欲しいものがあれば届けよう。何がいい?」


 ヴィルヘルムの質問に、椿は遠慮すると手を振った。

 

「それだけあれば十分です」

 

「観察室には娯楽的なものは何もない。何か気の紛れるものがあった方がいいだろう。本とかどうだ? お前なら1日2,3冊は読めるだろう」


 椿は苦笑いした。

 

「さすがにそこまで読むのは早くありませんよ」

 

 まだ慣れない言葉や文法があり、時間がかかっているのだ。

 

「毎日様子を見に来るから好きなものを持ってくる」

 

「ヴィル様の申し出は嬉しいのですが、お忙しい身で私に時間を割くのは」

 

「俺の不注意でこういうことになったんだ。これくらいはどうということはない」

 

 椿はしばらく考えたようにあたりを見渡した。

 ヴィルヘルムの方へ振り返り要望を述べる。

 

「では、花を」


 少し照れながら口にした。

 

「花? どんなのが良い」

 

「何でも……ヴィル様が届けてくださるなら何でも良いです」

 

「わかった。考えておこう」


 たったそれだけなのに、椿は嬉しそうに笑った。

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