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不老不死の魔女-Kamelie-  作者: ariya
危険な異端者

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3 吸血鬼


 福祉施設【ブラウの家】でヴィルヘルムは頭を抱えた。

 捕らえた密売人たちから聴取した内容を確認してからこの調子であった。


「よりによって逃げ出したのが……」


 ぶつぶつとヴィルヘルムは呟きながら1匹の白い猫を睨みつけた。



「クラウディオ、使い魔はまだ見つけられていないのか」



 白猫はふーっと鳴き自身を膨張して威嚇してきた。

 

「よしよし、お前はよくやってくれているよ」


 クラウディオは白猫を撫でて労うが、白猫はなかなか膨張を解かない。

 失礼な発言をしたヴィルヘルムに厳しく言った。

 


「怒りっぽいのは君の悪い癖だ。少し落ち着きなよ」


 

「これが落ち着いてられるかっ。今このあたりには厄介な者が徘徊しているのだぞ」

 


 相変わらず楽観的な態度で宥めてくるクラウディオにヴィルヘルムはますます苛立った。

 何度目かわからない事の重大さを改めて口にした。


「アルブシルヴィルス山脈の【吸血鬼】、お前もこれの凶悪さは知っているだろう」


 クラウディオの表情がすっと真顔になる。

 勿論知らないわけがない。

 

 昔からその異端者に関して良い話は聞かない。


 アルブシルヴィルス山脈は人が住むことができない高山連なる場所である。

 しかし、どういけばよいかは不明であるが彼らの集落が山間にあった。


 実際見たものはいない。

 

 行った人間がいたとしても無事に帰って来れる者はいない。

 そこにいるのは異端者の中でも凶悪と呼ばれる【吸血鬼】が住んでいた。


 【吸血鬼】――血を糧に生きる者たち。

 彼らはいつからそこに棲みついているのかは不明である。


 古い時代、西海の諸国、至る場で彼らの存在は確認された。

 ふらりと村にやってきては美しい姿で人を魅了し警戒心を解く。

 彼らが現れた村や町では異状死が続出し、彼が去った後は死体が夜な夜な徘徊していた。厄介なことに、生きている者の血をむさぼって、【銀十字】が派遣されるの繰り返しであった。


 どちらが先かは不明だが、北の国にも彼ら似ている異端者はいる。


 【人狼】と呼ばれる者たちである。


 【吸血鬼】から派生したか、それとも祖を辿ると同じなのか犠牲内容は類似していた。


 異状死があまりに多く目に見えない者に怯え、【銀十字】がなかった昔は教会が作った【異端審問会】が事件解決にあたっていた。


 しかし、当時は異端者の知識は不明な点が多く、異端者を見分ける方法などなかった。


 方法は単純なものだった。

 怪しいものを捕らえて尋問し自白させるという手段であった。


 中には本物もいただろうが、多くは冤罪だったといわれている。

 

 数百年前は、異端者からの被害よりも冤罪による処刑の方が大きかったのではといわれている。


 この経緯から、【銀十字】が発祥したとも言われる。

 

 【銀十字】の研究が進み、異端者の解明は進んで行った。

 

 それでも【吸血鬼】に関する知識は謎に包まれたままだ。


 その【吸血鬼】の原型ともいわれる者を捕縛した猛者がいるとは思いもよらなかった。

 

 調書によれば、山のふもと付近で遊んでいるところを捕らえたという。

 

 ――子供の姿をしているので調教を重ねれば言うことを聞くだろう。

 

 そんな楽観的な考えであの倉庫に閉じ込めていた。

 

 そして隙をつかれて逃げられるという。


 何とも間抜けな話だ。

 

 ヴィルヘルムとしてはこれから起きるかもしれない惨劇に頭を抱えた。

 

 尋問で情報によると、【吸血鬼】はかなり衰弱してたとある。

 

 それが気がかりだった。

 彼らは通常の人の食事を必要としない。


 彼らが必要とするのは生命の塊――血だ。



 【吸血鬼】に血を求める。

 怪我をしているのであればなおさらだ。


 

 治癒のために人間を襲っているかもしれない。

 現在、今のところ被害の報告はない。

 

 見つかっていないだけだろう。


「最悪だ……」


 ヴィルヘルムは髪をかきあげて、町と周辺の地図を見つめた。

 

 のんきにピクニックをしている暇などなかった。

 

「椿には悪いが遠出はまたの機会にしよう」

 

 【吸血鬼】がどこに潜んでいるかわからない。

 彼女のために外出は控えさせた方がよいだろう。

 

「あれ」

 

 クラウディオは思い出したように声をあげた。

 

 なんだ、とクラウディオを見つめると彼は困ったように笑った。

 

「今、館にいるのは椿とカティの二人だっけ」

 

 それを聞きヴィルヘルムは館の現状を再確認した。

 

 確か、フローエ夫人の館には魔除けの仕掛けを行っている。

 

 しかし、アルブシルヴィウス山脈の【吸血鬼】に効果はあるだろうか。

 

 今館にいるのは椿と女使用人だけである。

 

 女使用人は組織の人間ではない。

 ふつうの村娘だ。

 

 戦闘要員がいない状況であり、むしろこの施設で過ごさせた方が安全なのではなかろうか。

 

「……」

 

 ヴィルヘルムはおもむろに立ち上がり、館に戻ると告げた。

 

「椿をここへ連れてくる」

 

 今更ながら気づく内容に呆れながらクラウディオはこくりと頷いた。

 

「ああ、それがいいかもね」

 

 ――そして館に戻ると椿の姿も使用人の姿もおらずヴィルヘルムは動揺を隠しきれなくなった。


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