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不老不死の魔女-Kamelie-  作者: ariya
危険な異端者

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2 おでかけ


 部屋で読書をしている椿の元にカティが現れた。

 もう仕事は終えたのだろうかと椿は彼女の方を見つめた。


「椿さまに少しご提案が」

 

「何かしら」


 自分にできる内容であろうか。

 

「今から少し遠出をいたしませんか?」

 

 突然の提案に椿は動揺した。

 

「え、でも……」

 

 ヴィルヘルムからは留守の間、館からでてはならないと言われている。

 

「大丈夫です。私とキリルさまも一緒です。あれは椿様だと絶対使用人に遠慮して一人ででかけるからという言いつけなのですよ」


「ですが」

 

 あまり心配かけるようなことはしたくない。

 困った表情の椿にカティは畳み掛けるように言った。


「ヴィルヘルムさまは椿さまとの約束を破りました。椿様は言いつけをしっかり守ったのに」


 ならばとカティは満面の笑みで付け加える。

 

「ちょっとおでかけするくらいで文句言われる筋合いはないと思いますよ」


「うーん」


 確かに少しくらいならとも思えるが引っかかる部分もある。

 なかなか返事しない椿にキリルは抱き着いた。


「いこうよ。椿。大丈夫だよ。この辺りに詳しいカティが一緒だし……ね?」


 少年の無垢な笑顔を向けられ、拒否できない。

 椿はこくりと頷いた。


「さぁ、では早速身支度しなければ。すぐに準備をしますからね」

 

 椿が何か言う間もなく衣装を取りそろえ、それに着替えさせられた。


「一体どうしたの? 突然」

 

 髪を揃えてくれるカティに椿は首を傾げた。

 

「椿様がせっかくランチにお誘いしてくださったのですから、おすすめの場所へご案内したいのです。とても見晴らしがよいのですよ」


「まあ、……」


 それを聞き椿は嬉しくなった。

 前へ向き、鏡をみる。カティは優しく椿の髪を編み込んでくれた。

 

「楽しみです」

 

「すでにお車の準備もしております」


 カティに案内されて外へ出ると、門の前に馬車が待っていた。


「おや、メイチュン」


 馬車に乗ろうとした瞬間、男に声をかけられた。

 先日、訪問した東海の品を置いている店の店主――シェートンだった。


「おでかけですか?」


「あら、あなたはシェートンさん」

 

 椿は振り返って、挨拶をした。


「ねぇ、はやくー」

 

 馬車の中から急かすキリルの声がした。


「少し待ってください」


 椿はキリルとカティにお願いして、彼の方へ駆け寄った。


「名を覚えていただき恐悦です」

 

「そんな大仰な……ところで『メイチュン』というのは」

 

「ああ、あなたの名前。椿というのでしょう。美しい椿と書いてメイチュンと呼ばせていただきました」


 さらりと恥ずかしいことを言われて、椿は顔を真っ赤にした。思わず両手で頬を抑える。

 

「わ、私……シェートンさんからみれば、生まれは田舎だし」


 椿は身を小さくして恐縮してしまった。シェートンは目を細めた。


「ところで私に用事というのは」


「ああ、少し良いものが見つかり、あなたに是非おすそ分けしたいと思いました」


 小さな紙袋を差し出し、椿に手渡す。

 その時に少し甘い良い香りがした。

 

「伽羅の香木です」

 

 音でわからなかったので手の平に漢字で記されたものをみて椿は目を丸くした。

 慌てて紙袋を返そうとする。


「そんな高価なものいただけません」


 海沿いの田舎豪族の娘では手に入らない代物である。

 

「ダメですよ。男の贈り物は喜んで受け取っていただかなければ」


「そ、そんな……それに見合うものを私は持っていません」


「構いません。お代は今度私の店でお茶をしにきてくだされば十分です」


「それだけというのも」


 さすがに価値が見合っているように思えない。

 

「受け取ってください。メイチュン……これからも私という縁を持ってもらうために」


 男の目は真摯に椿を見つめてきた。

 自分と同じ黒曜石の瞳に見つめられ椿は顔を赤くした。


 こんなに風に誰かに興味を持たれて、交流を求められることに慣れていなかった。


 だが、せっかくヴィルヘルムに出会い、色んなものを見て考えるようになったのだ。


 それに同じ東海の青年と、縁を持つのは嬉しい。

 椿はしばらくして、こくりと頷いた。

 ただし、まだ少しばかり遠慮の文字が顔に浮かぶ。


「ほ、本当にいただいていいのですか?」


 伽羅のかけらが包まれた紙は高価な宝石のように抱きしめる。


「ええ、それにそんな気負いなされないで。売り物にするのも悩む欠けた破片なのです」


 それでも熱すれば良い香りをくれるであろう。


「それよりどうしたのです。どこかへおでかけですか?」


「ええ、少し丘の方へ。見晴らしがよいとランチをしにいきます」


「そうですか。あまり遅くならないように。あそこは夜になると冷え込みますので」


「ありがとうございます」


 椿は頭を下げ、馬車へと乗り込んだ。


「例のお貴族さまはいないのですか」


 馬車に一緒に乗っているのは女の使用人と幼い少年のみ。

 三人で遠出するというのか。


「それにしても、なんて嫌な臭いか」


 車が去った後、シェートンの顔から笑顔は消えていた。


 深く嫌悪する、そんな顔であった。

 

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