9 危険なもの
ヴィルヘルムは施設内の確認をして仕事のスペースを作った。
密売品として捕らえられていた異端者の身柄を保護したあと彼らを人目につかない夜間に護送した。
いつまでも良い環境ともいえない倉庫に留まらせるわけにもいかない。
何人かの子供、何体の幼獣の中には怪我をしている者もいるし健康面のチェックもする必要があった。
彼らを護送した先はフローエ家が作った設備であった。
表向きは福祉施設としているが、組織の者が管理していた。
医療関係に精通しており戦闘面ではなく援護面で活動している人たちである。
異端者の健康管理の方法に関してもある程度学習しており、護送された順に簡単なチェックをしていった。
「酷い怪我を負っているが、元々頑丈なので命に別状がない。だいたいは簡単な傷の処置でよいだろう。ああ、それでも縫う必要のある者たちもいて、準備をしている」
施設の責任者である医師がヴィルヘルムに簡単に報告した。
「そうか。落ち着いたら各々の出自をまとめておきたい」
護送順に簡単な名簿を作らせていたのでヴィルヘルムはそれを受け取りひとりひとりの確認を行った。
「幸い彼らの中に凶悪な異端者はいなかったよ。こちらが危害を加えなければ大人しい連中だ。まだ警戒を解いていないが、ここが安全だと認識してくれた。傷の処置も大人しく協力してくれた」
長い監禁生活に疲弊しており、処置を施され食事を配られ食した後は落ち着いたのかほとんどが眠ってしまった。
「あとは頼む」
ヴィルは施設であてがわられた書斎で、名簿の確認を続けた。
簡単な経歴、出身土地、種族……
先程聞いた通り、ほとんどが何もしなければ大人しい連中ばかりであった。
幸いなことだ。
狂暴な者がいれば、どのような災いをもたらしていたか考えると頭が痛い。
過去には誘拐犯が滞在していただけで何も知らない村で疫病をばらまかれたり、惨殺された事件があった。
今回は、悲劇は起きずにすみそうだ。
ひっかかるものを覚えながらもひとつ安心したと息を吐いた。
こんこんとノックと共にクラウディオが書斎へ顔を出してきた。
「ねぇ、もう日も暮れてしまったし帰ろうよ。明日は椿とお出掛けでしょ?」
クラウディオの手には、見覚えのない書類はある。
「それは?」
「さっきの倉庫で見つけた名簿録だよ」
ヴィルヘルムはその名簿にも手を伸ばした。
途中で亡くなった者のデータも載っているかもしれない。
「ねぇ、それは他の人に任せればいいよ」
「せめてこれだけざっと目を通しておきたい」
指示系統を任されている身であり、情報は簡単でも早めに頭に叩き込んでおきたかった。
仕事になるとてこでも動かなくなるヴィルヘルムの性分に、クラウディオは深くため息をついた。
(こんなもの明後日まで見せなければよかった)
内心の声だと思っていたらしっかり声になっていたようだ。
ヴィルヘルムはしかめ面をした。
「そんなことしてみろ。減給にしてやる」
最後の一枚になる。
今のところ問題になるものは見つからない。
少し安堵したヴィルヘルムはクラウディオの視線に対して言った。
「大丈夫だ。朝まで帰れば十分間に合う」
明日は彼女を連れていきたい場所があった。
最後の一枚へ目を通し、ヴィルヘルムは目を大きく見開いた。
「どうしたの?」
ヴィルヘルムは険しい表情で呟いた。
「椿には悪いが明日はキャンセルだ」
「えー。なんでなんで」
突然の手のひら返しにクラウディオは不平を漏らした。
「お前、これをみてみろ」
示された書面をみてクラウディオは眉間をしかめた。
「あー……」
「あいつら。命知らずなことをしたものだ。このことは早めに公爵へ報告する必要がある」
ヴィルヘルムは立ち上がり、医療班へ声をかけた。
先程の被保護者たちを起こして、確認しなければならない。
せっかく安心して眠りについたという心苦しさはあるが、そんな悠長なことは言っていられなかった。
クラウディオは管理人を呼び早急に新しい仕事にとりかかった。




