5 悩み
じぃとこちらを見つけてくるクラウディオの視線に気が付いた。
「なんだ。仕事の話は修了したから好きにしていいぞ」
「ねぇ、ヴィル。君は椿をどう思っている?」
「どうとは……」
「いやね。最近思うんだ。あの子の今後について」
それを聞きヴィルヘルムは嫌な気分になった。
帰ろうと思っても彼女の母国は門戸を閉じてしまい、入ることは困難になっている。
だが、一生帰れないというわけではない。
無理だったとしても比較的に自分と同じ髪の色、肌の色をした国で静かに過ごすという選択肢もある。
「あの子は頑張り屋だよ。この短期間で十分会話が可能なくらい語学を身に着けている。客人という立場だけど、家のことも手伝おうとしてくれる」
一銭も持たない身でできることはその程度なのだと椿は笑っていたような気がする。
「生きた年月の割にあどけなく幼い部分もあるけど、あれは本当に外界との接触を遮断していた影響だろう」
何百と生きる【不老不死の魔女】であるが、外見は十五の少女のものだ。内面もそれに近いものであった。
外見よりも幼く思える。
「そのうち熟していき良い貴婦人になるよ」
外の世界に触れて少しずつ成長していく様をクラウディオは間近でみてきた。
元々身分ある令嬢であったという。
時折見せる彼女の立ち居振る舞い、柔和な笑みに目を奪われることがあった。
それはヴィルヘルムも同様であった。
「そうだな」
「君、椿を娶りたいと思わないかい?」
ぶはっと飲みかけていたワインを吹き出してしまった。
汚いとクラウディオは眉をしかめた。
「なんで、そういう話になるんだ」
「んー。このままっていうのもね。今は公爵があの子の身を保障してくれているけど、いつまでも客人扱いのままなのはどうかなと」
そこでクラウディオは考えていた。
「この国の貴族の君が彼女と結婚すれば彼女の身は安泰じゃないかな。貴族の一員になれば」
「貴族の一員になるのがどれだけ大変だとおもっているんだ」
過去に平民から貴族の妻になった女性がいたが、精神を病んだという。
それだけ心労が強い。平民から貴族になるというのは。
「良い案だと思うけど……故郷にいる兄上が反対しそうなら公爵とフローエ夫人に任せればいいし」
「椿の想いはどうするんだ」
「お、ということは君は別に娶ってもよいということだね」
にまにまと笑顔で尋ねてくる青年に、ヴィルヘルムは眉をぴくぴくと動かした。
「もう仕事の話は終わりだろう。今日は休むから出て行ってくれないか」
そう締めくくられクラウディオはやれやれと部屋を出ようとする。
「確かに色々苦難はあるだろうけど、俺としては結構良案だと思う」
「だからそれは」
「もし、君にそのつもりがないなら、俺が彼女をもらっちゃおうかな」
それでも別に構わない。
普段の生活通りしていればいいので、ヴィルヘルムがいう苦難はだいぶ軽減されるだろう。
「……」
ヴィルヘルムは何も答えずに、クラウディオを見つめていた。
その表情には先ほどまでのあきれ顔は認められなかった。
「じゃ、おやすみ」
クラウディオは手をひらひらさせて去った。
顔はにやにやとしていた。
「……」
部屋で一人となったヴィルヘルムは、就寝する気も起きずに椅子にすわりぼんやりと考えていた。
椿を娶る。
先ほどのクラウディオの最後の言葉が頭の中で反芻する。
選択のひとつとして今まで考えていなかった。
だが、ひとつの形として提示されると何度も脳内に現れてヴィルヘルムは答えに困っていた。
君は椿を娶る気はないのかい?
すぐに否定できればいいのだが、それができずにいる。
それにしばらくヴィルヘルムは困窮していた。
椿は東海の人間だ。
いつか帰らせたい。
いや、帰らせたくない。
なぜだ。俺は椿を――。
答えが出かかったところで瞼が重たくなり、ヴィルヘルムはそのまま眠りについた。




