表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不老不死の魔女-Kamelie-  作者: ariya
海岸の商人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/72

4 約束


 夕食が終わった後、ダイニングルームで椿はクラウディオに文字の読み書きを習っていた。

 

「勉強も良いけど、もう少しゆっくり過ごせばいいじゃないか」

 

 そういうクラウディオに椿は首を横に振った。

 

「読みたい本があって……」

 

 ここ最近の彼女の日課は読書であった。

 

 この別宅にも図書があり多くの本が収納されていた。

 ヴィルヘルムの邸宅にはないものもあり椿はその中でいくつか厳選して滞在中に読んでしまおうと考えていた。

 

「ヴィルに言えば君用に揃えてくれると思うよ」

 

「そんなことできません」

 

 椿の中ではこういう書物は高価で手の届かないものという認識であった。

 確かに珍しいものもあり、間違えではなかった。

 

 ここで触らせてもらえるだけでもありがたいのだ。

 わざわざ自分用になどそろえる必要はないと椿は首を横に振った。


「真面目だなぁ」


 クラウディオは椿の頭を撫でた。

 綺麗にそろえられた黒髪はさらさらとして手にここちよい。

 

「ありがとうございました。またわからない部分があったとき教えてください」

 

「うん、いいよ」

 

 丁寧にお辞儀をする椿にクラウディオは穏やかにほほ笑んだ。

 

 椿が部屋へ戻ろうとすると、ヴィルヘルムと遭遇した。

 ヴィルヘルムは真剣な面持ちで椿に今後のことを話した。

 


「椿、明日は少し留守にする」

 

「……お仕事ですね」

 

「ああ、大したことではない。すぐに終わるものだ」

 

 それさえ終えれば、後は好きなだけ休暇を満喫してよいと言われている。

 

「しかし、明日は俺もクラウディオもいない。ここで留守番をしておいてほしい」

 

 供さえつければ町へ観光に出かけるのは良いが、椿の性格ではこの館の使用人にお願いなどしないだろう。

 

 縁の薄い土地でありあまり一人で出歩いてほしくなかった。

 

「わかりました。ヴィル様の留守をお守りします」

 

 仕事を与えられたのだと椿は解釈し任せてくださいと声を張り上げた。

 

 椿の表情に影が落とされヴィルヘルムはそっと彼女の頬に触れた。


「明後日、一緒に出掛けよう」


 そう囁き椿の頬に口づけした。

 瞬間、椿は顔を真っ赤にして後ずさった。


「なんだ、どうした?」


 今までにない反応にヴィルヘルムは少し驚いた。

 近しい者にする挨拶のつもりだったのだが。

 

「いえ、その」

 

「時々、クラウディオがしているだろう」

 

「そうですが……」

 

 はじめは動揺していたが、今はだいぶ慣れた方である。

 

 何度かクラウディオが椿の頬にキスをするのを確認していたので、問題ないだろうと思っていた。

 

「その、……恥ずかしくて」

 

 伏見がちに呟く少女にヴィルヘルムは呆れたように見つめた。

 

 このようにキスをする習慣は彼女の国にはない。

 

 時折する話から別れた夫とは彼女ずいぶんと距離をとっていたそうだ。

 

「驚かせてしまったな」

 

「いえ、その……お、おやすみなさい」

 

 まだ頬が真っ赤な彼女はそう挨拶をし、自分の部屋へと小走りで去ってしまった。


 ◆◆◆


 椿の姿を見送った後ヴィルヘルムはダイニングルームの入り口を見つめ顔を強張らせた。

 クラウディオの顔がそこからにょきっと出ていたのである。

 

「なんだ」

 

「いや、君もだいぶ椿に優しく接するようになったなぁと」

 

 その言葉にヴィルヘルムは怪訝に眉を潜めた。

 自分がいつ彼女に冷たくしていたというのだ。

 

「いや、はじめの頃は本当に怖い顔で椿をみてて結構はらはらしていたんだ」

 

「そんなに俺は怖い顔をしていたのか」

 

「前から言っていたけど君って目つき悪いから気を付けないとそう見えちゃうよ」

 

 それも素敵だと若い女性はときめいてくれているが。

 

 ヴィルヘルムは面倒くさげにクラウディオを引きずるように自室へと連れて行った。

 そこには使用人に用意してもらったワインが置かれている。

 

「おや、これは」

 

 栓が抜かれると同時に芳醇な香りにクラウディオは目をとろかせた。

 どこの国のものかわかるようだ。

 

「たまたま手に入ったものだ。懐かしいか」

 

 彼の母国ユリアン国の酒である。

 

「まぁね」

 

 グラスに注がれた赤い色にうっとりと見とれる。

 しばらく香りを楽しみ、ごくりと飲み干した。

 

「それで、【使い】が見つけたものは」

 

「うん、あったよ。密売の現場が」

 

 それを聞きヴィルヘルムは眉を潜めた。

 海外から法外のものが出入りするのは珍しくない。

 

 本来ならば外交や貿易に関係した者の仕事であるが、売買しているものの内容はヴィルヘルムの専門内のものであった。


 異端の者たち。


 玩具として使用するのか、それとも番犬代わりにするのかは不明であるが金持ちの間では密かに人気があり高値で売られる。

 最近のデータからは特に東海のものが人気なのだという。

 

 椿もその類で捕らえられていた。

 

 右も左もわからず、言葉もわからず与えられるのは苦痛のみの日々を強いられてきた。

 おまけに傷をすぐに治癒する能力を持つ魔女というだけで不老不死を求める者の餌食になっていただろう。

 

「今回は東海の者はいなかったよ。だいたいが北と南方のユリアン国よりずっと南の大陸がほとんどだ」

「どうせまたマジェリタ経由だろう」

 

 ヴィルヘルムは頭を抱えた。

 

「明日取り押さえる。すでにここの者にも伝えてある」

 

 フローエ夫人の館にも数名【狩人】が存在していた。

 彼らは普段は貴族の別邸の管理をしているが、異端関連の事件について調査していたのだ。

 

 元々密売の件に関してはすでにフローエ夫人に報告がいっている。

 本部の者を指揮官として派遣させる予定だったが、ヴィルヘルムが手を上げた。

 

 今回は、任務とついでの観光なのだ。

 

 任務を片付ければしばらくは好きなように滞在してよいと許可を得ている。

 しっかり休暇をとらせてもらう予定だ。

 

 

 椿と一緒に行く約束した場所もある。

 終わったら連れていきたい。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ