4 おでかけ
週末――椿は首を傾げた。
海霧みたいな青灰色に白い刺繍がほどこされたドレス、ベルトで腰回りを高めに引き締めてある。
清楚なスカートがゆるやかに椿の足元へ流れていた。
髪はゆるく三つ編みにして、青いリボンを編み込んでいる。
「……少し派手では」
改めて本日のコーディネートをみて椿はクラウディオに聞いた。
「いや、これでもかなり抑えたよ!」
クラウディオははっきりと言う。
ドレスのチョイスはクラウディオである。
椿がそれを着たら、髪を仕上げてくれた。
「もう少し動きやすい方が良かったのでは……」
鏡の前で椿は呟いた。
「だから、これがいいって! ヴィルは椿が可愛い格好をしていた方が喜ぶよ」
「よくわかりませんが、この姿なら役に立てる……のですね」
椿の問いにクラウディオはこくこくと頷いた。
「楽しんで行っておいで」
クラウディオはひらひらと椿を見送った。
◆◆◆
玄関でヴィルヘルムは既に待っていた。
「お待たせしました」
椿はヴィルヘルムの姿を見て、一瞬見惚れてしまった。
彼は銀色の髪に映える濃紺をベースにした薄手の外套を羽織っているが、下にはシンプルなジャケットを身につけていた。
靴は革靴であるが、いつでも乗馬対応できそうなもので椿は内心動揺した。
椿は急いで部屋に戻って、服を選び直したい気持ちであった。
「それじゃあ、行くぞ」
ヴィルヘルムは特に気にしていない様子で、ヨーゼフが扉を開くのを示した。
「あの、……私、考えなしで衣装を選んでしまいました。これで、良かったのでしょうか」
ほんの少しの間で、ヴィルヘルムは黙った。
ヨーゼフは口を開きかけるが、すぐに向こう側から様子を窺っているクラウディオをみて黙り込んだ。
ちらりとヴィルヘルムの方をみる。
彼は相変わらず険しい表情を浮かべている。
何をどうすればいいのか、必死に考えているようだ。
ようやく答えが出たようでヴィルヘルムは声を出した。
「ああ、よく似合っている」
シンプルな発言と共に椿へ手を差し伸べた。
椿はおそるおそる彼の手をとると引き寄せられる。
ヴィルヘルムは自分の腕に絡みつくように誘導して、椿は困惑した。
「今日は俺のパートナーだからな」
ヴィルヘルムはそう言って、椿はこくりと頷いた。
「行っていらっしゃいませ」
ヴィルヘルムは小さく頷いて館を後にした。彼の腕に掴まった椿は緊張しつつ彼の歩調に合わせて歩いていく。
実際は、ヴィルヘルムが椿の様子を確認しながら彼女のペースで歩いているのだが。
「はぁ、成長はしているけど……心配だなぁ」
玄関に近づいたクラウディオは呟いた。
おもむろに懐中時計を取り出す。
開くと、ふわっと白い猫が現れて可愛らしく鳴いた。
「ビアンカ、ばれないようについていくんだぞ」
にゃー……
わかっているのか不明だが、ビアンカは快く鳴いて館を飛び出した。
「心配だなぁ……俺も行った方がいいかな」
子供をはじめての学校へ通わせる親の気持ちというのはこういうものなのかもしれない。
実際、ヴィルヘルムは学校で問題を起こして退学になったのを思い出した。
結局、ヴィルヘルムはクラウディオとフローエ夫人に一般教養と学問を教わり、個別で試験を受けて官僚の資格を得た。
あの時はたいへんだったなぁとクラウディオはしみじみと思い出した。
「大丈夫ですよ」
ヨーゼフはおだやかに声をかけた。
「ヴィルヘルム様は椿様のことであれば、驚くほどの成長を見せております」
彼もヴィルヘルムの成長過程で頭を悩ませていた人間であった。
ここ数ヶ月の間にヴィルヘルムの変化を見るのが心の底から楽しいと感じていた。
今日はヴィルヘルムからアプローチした椿とのデートである。
それならば見守りは最低限がよい。
何かあればクラウディオの使い魔で対処すればいいのだ。
「そうだね」
クラウディオはうーんと背伸びをした。
「クラウディオ様、今日はお食事はどうします?」
「適当でいいよ。久々に執筆に集中したいし……」
クラウディオは髪をぽりぽりとかきながら呟いた。
「かしこまりました。時間になったら軽食を用意いたしましょう」
「うん、よろしく」
そう言いながら、クラウディオは手をひらひらとさせて書庫の方へと消えていった。




