3 死んだ子供
ヴィルヘルムは即座に新たな題を出した。
「では本題に入らせてもらいましょう」
クルーケンベルグ男爵はヴィルヘルムの言葉に首を傾げた。
本題は例の三人の少女ではなかっただろうか。
顔に出ているが、口には出さない。
「男爵、あなたの父・クルーケンベルグ家先代当主についてです。彼はかつて……フランケンシュタイン家と共同研究を行っていたですね」
「……それが今回の件と何か関係が?」
さて、とヴィルヘルムは笑って誤魔化す。
「私も上からの指示で言われているので……」
クルーケンベルグ男爵は怪訝な面持ちで質問に応えた。
「確かに父はフランケンシュタイン男爵と共同研究をしており、その内容は公然とされませんでした。故に面白可笑しく噂を立てるものもいました」
その噂の内容はさまざまだ。
堕胎した女性や嬰児の死体などを使って実験を行っていた。
墓を掘り起こして死体を漁った。
売春婦や奴隷を国内外から買ってきて人体実験を行った。
「ええ、大変だったようですね」
「ええ、父の話によると二回ほど【銀十字】を名乗る者がやってきたらしいです。噂の真偽を確かめに……」
「噂の真偽はただの噂と片付けられていますね。証拠不十分ということで」
つっと口の端を持ち上げ最後の部分を強調して言う。
新しい話題を振られてクルーケンベルグは訝しんだ表情のままだ。
「何が仰りたいのです?」
ヴィルヘルムは笑って、クラウディオの方へ振り返った。
クラウディオは頷き即座に書類をクルーケンベルグ男爵の前に置いた。何枚も綴じられている冊子になっていた。
「これは」
「ここにいくつか私個人で調べたものがあります。どうぞ、目を通して下さい」
ヴィルヘルムは印がついていたページを開いた。
「……っ」
開かれた書類を見てクルーケンベルグ男爵は青ざめた。
その書類の上に一枚の写真が共に綴られていた。
ヴィルヘルムが出した書類の中に写真があった。
写真には一つの小さな墓石が写されていた。
墓石にはこう記されている――Hans Frankenstein。
ヴィルヘルムが手に入れた資料はフローエ夫人が以前語っていた情報だ。
ハンス・フランケンシュタインはとうの昔に亡くなったというものを証明する。
「ハンス・フランケンシュタインは生まれた時からとても病弱な子であったらしいですね。しかし、最後にできた子の為、フランケンシュタイン男爵はとても彼を愛していた」
ヴィルヘルムの綴る言葉にクルーケンベルグ男爵は何も言わず耳を傾けていた。
その表情はかなり焦燥としていて青ざめていた。
「そして、幼くして亡くなった。それはひどい嘆きようだったでしょう。何しろ彼の死を拒絶し、葬式も碌にしなかったようですから」
亡きフランケンシュタイン男爵は元から人付き合いがほとんどない気難しい性格だった。
その性格はさらに度を増し、息子たちでも手がつけられない。
彼は城から一歩も外へ出ることがなかったという。
「そこに仕えていた使用人の話によると研究室にずっと籠りっぱなしだったらしいですね。その中には死んでしまったハンスの遺体がずっと安置されていたらしいです」
そして、フランケンシュタイン家に仕える使用人たちの間で密かに語れる話題があった。
死んだハンスを科学の力で蘇らせようとしているのだと。
「時折、あなたの父君も参加していたらしいですね」
「ふっ……あなたはサイエンスファンタジーがお好きなようですね。それはあくまで噂……ファンタジーとリアルの区別くらいわかるでしょう」
クルーケンベルグ男爵は向き直り、彼の提示した事実を認めた。
「ええ、勿論、あなたの言う通りです。ハンス・フランケンシュタインは三十年前に亡くなっています」
それにフローエ夫人がじっと写真を見つめて呟いた。
「では、今のハンス・フランケンシュタインは……研究により蘇ったということですか」
「おやおやフローエ夫人ともあろう方までファンタジーとリアルの区別がつかないのですか?」
まだ肩を揺らしながら、男爵は冷笑した。
「そんなことはありえません。実のところハンスはフランケン男爵に同情した父が一時の慰みに連れてきた女性が生んだ子です」
子が生まれ、フランケンシュタイン男爵は歓喜した。
新たな子にハンスの名前をつけ、ようやく葬儀を拒絶していたハンスの遺体を埋葬したのだ。
「ああ、ですがこの件はどうか内密に」
クルーケンベルグ男爵は人差し指をたてて内緒のポーズをとった。
「ハンスはもうすぐ男爵につく。売春婦の子供だという噂をたてられては困るのですよ」
ヴィルヘルムは彼の様子をじっと観察して何も言わない。
ただ少し首を縦に揺らした程度であった。




