2 同年代
「フランケンシュタイン男爵」
呼ばれた青年は首を傾げヴィルヘルムの方へ視線を移した。
間近でみれば本当に美しい青年であった。
「あなたは?」
「私はヴィルヘルム・エーデルシュタインと申します。私も会話に混ぜて欲しいのですが、よろしいですか?」
そういうと一緒に話している女性が勿論と応えた。
「ロートバッハ領の伯爵家の御子息ですよ」
女性はハンスにそうヴィルヘルムの説明をした。
それにハンスは「ああ」と頷いた。
「では、いずれは伯爵になられる方ですか」
「いえ、伯爵家を継ぐのは兄です。私は傍系なので大したものではありません」
「ですが、ベルンハルト公爵の部下として優秀だという噂を聞いています」
ハンスはヴィルヘルムのことはある程度のことは知っているようであった。
ヴィルヘルムは苦笑いして言った。
「それは公爵の指導がよいからです」
「ご謙遜を……僕はこの年になってもまだ立ち居振る舞いがよくわかっていなくてね。君のような同年代の人に出会えて嬉しいよ。できたら色々教えて欲しいな」
ハンスの要望にヴィルヘルムは勿論と応えた。
しばらくいろいろと二人は話しあった。
ハンスはかなり陽気な性格で時折冗談を言っては同席している女性の笑いを誘った。
「いやぁ、ここであなたと出会えて良かったよ。クルーケンベルグ男爵に感謝しないと」
「ところでクルーケンベルグ男爵とはどのような付き合いで?」
ようやくヴィルヘルムは本題に乗り出した。
今回ハンスに接近したのは彼の人柄とクルーケンベル男爵との関係を確認するためであった。
「昔、父が研究で助けていただいたのです。僕が幼い頃から彼の父親とも面識がありますよ」
「ほう」
ヴィルヘルムは興味深げに声をあげた。
記憶を辿ればかつてはクルーケンベルグ家もかつては科学者を多く輩出する学者の家系だったという。
ヴィルヘルムが昔使っていた教材にもその名が刻まれていたことがあった。
「昔から病弱でろくに外に出られなかった若い僕を心配して下さって。他の貴族たちと少しでも馴染めるようにとパーティーへ招待してくれました」
「そうですか」
しばらく聞く側に回っていた女性がヴィルヘルムに質問してきた。
「そういえばヴィルヘルム様もパーティーに来られるのは久々ですね」
「ええ、いつも館に閉じこもって書類とにらめっこの私を叔母が引っ張り出したのです」
ヴィルヘルムはにこりと微笑んで返した。
「まぁ、フローエ夫人とは仲がよろしいのですね」
「ええ、母を幼い頃になくした私にとって母のような存在であり、教師でありますので……尊敬しております」
最後に一言深く呟いた。
それは上辺の言葉ではなく本心であった。
「夫人に感謝しなければ、久々にヴィルヘルム様とクラウディオ様にお会いできて……目の保養になりました」
ヴィルヘルムは少し間を開けた。
ようやく口に開いたのはクラウディオから何度も教え込まれた定型文だった。
「……それは私もです。お美しいお嬢さんに会えて嬉しく思います」
その言葉に若い娘はぽっと頬を朱に染めた。
彼女は扇子をいじりながら、ヴィルヘルムにお願いをしてみる。
「でしたら、私の家でのパーティーにも是非参加してください。もうすぐ私の誕生日がありまして……」
「ええ、勿論。是非お呼び下さい」
ヴィルヘルムは目を細めた。
内心、「すっごく面倒くさいな」と思っているが、なるべく口に出さないように必死であった。
それに気づかない娘は、上機嫌でハンスの方にも振り向く。
「ハンス様も是非」
娘がハンスに声をかけると、ハンスはにっこり笑って返した。
「……」
内心ヴィルヘルムはもやもやした気分であった。
本来自分はこんな社交辞令を使う性格ではない。
いつもぶっきらぼうで女性にも思い遣りの言葉が欠けていた。
「ヴィル、あなたはもう少し言葉を選んでちょうだい」
心配したフローエ夫人がクラウディオに頼み込んだ。
この数年、訓練を繰り返して、社交辞令をようやく「振り」だけでもできるようになった具合だ。
「こんなことをして何になる」
ヴィルヘルムははじめは嫌がっていたが、情報が得やすいと知ってからクラウディオの助言は聞くようになった。
しかし、いつもだと疲れるのであまり前向きにパーティーに参加する気力が起きない。
今回もそうだ。
――だが……。
ヴィルヘルムは視線を下の階へと移す。
視線の端に存在する赤いドレスがとても眩くみえる。
パーティーの料理に目を輝かせて、美味しそうに食べる椿をみると少しばかり苛立ちが和らぐ。
すぐに目で終える色合いのドレスを選んでくれた叔母に感謝をした。




