1 ダンスパーティー
経済的に芳しくないと噂されるクルーケンベルグ家――そのホールはそうとは思えないほどきらびやかで華やかであった。
ヴィルヘルムたち一行が入場した際、貴族たちはそれに注目した。
特に若い貴族の娘たちが歓声をあげた。
「まぁ、エーデルシュタイン家のヴィルヘルム様よ。最近お忙しかったのか、パーティーでお見かけしたのは本当に久しぶりだわ」
「フローエ夫人がヴィルヘルム様を引っ張ってきてくださったのよ」
「クラウディオ様もご一緒よ。珍しいわね」
「夫人には感謝しないとっ!」
娘たちは密かに憧れているヴィルヘルムに、そしてクラウディオにきゃきゃっと声をあげていた。
そんな中ふと一人が見かけない少女・椿を見て少女たちは首を傾げた。
「……あら、あの娘はどなたかしら?」
「え……さぁ」
見ない顔だわね、と娘たちは首を傾げた。
「……ねぇ、あの娘の肌の色」
椿はさきほどから感じる視線に困惑し、尋ねてみた。
「あの……大丈夫でしょうか?」
「? 可愛いよ」
クラウディオは優しく微笑み返した。
ヴィルヘルムは視線の理由をぶっきらぼうに説明した。とても面白くなさげであった。
「椿が珍しいんだよ。その肌や髪・目の色はこの辺ではあまり見ないから」
確かに椿の肌の色は西海ではあまり見ないものであった。
大眞国との交流を持たなければ見ない肌の色であっただろう。
ヴィルヘルムの不機嫌さの原因が自分にあると椿は感じ取り申し訳なさげに俯いた。
「ヴィル」
その様子にクラウディオは舌打ちした。
言うにしてももう少し優しく安心させるように言えないのか。
クラウディオは瞳で訴えるがヴィルヘルムは無視した。
ヴィルヘルムは周囲に内心不満そうに視線を配った。
椿に向ける稀有な物を見るような視線にいらいらしていた。
(あまりじろじろと見るな)
椿を異国から取り寄せた動物のように撫でまわすように見る者たちに嫌悪感すら覚えた。
ここで椿から目を放し、一人にさせてはどうなるかと思うと安心できない。
ヴィルヘルムは貴族の良さも悪さも知っているため油断ができなかった。
「あまり、俺とクラウディオの傍を離れるなよ」
「あ……はい」
椿は一応気にかけてくれていると感じ取り、ほほ笑んだ。
「……」
相変わらず不機嫌そうな顔のままのヴィルヘルムで、椿はやはり不安を抱いた。
それに、クラウディオは気にするなと囁いた。
「ヴィル!」
貴婦人が親しげにヴィルヘルムの方へ駆け寄ってくる。
上品な青のドレスに身を包んだフローエ夫人であった。
「どうも」
ヴィルヘルムが挨拶し、椿もそれに倣い挨拶をする。
それを見てフローエ夫人は満足げに笑った。
「椿さん、とてもよくお似合いよ。やはり、私の目に狂いはなかったわね」
自分のコーディネートを自負した。
「ええ、夫人のセンスはさすがです」
そう言いクラウディオが彼女を称賛した。
「それで叔母上、例の男は?」
「あちらよ」
そう言いフローエ夫人は扇子である青年を示した。
金髪の美しい青年がそこで女性と楽しげに歓談していた。
年の頃はヴィルヘルムとあまり変わらなそうである。
外見は女を夢中にさせるほどの端麗な顔であった。
クラウディオと良い勝負だなとヴィルヘルムは感じた。
「行ってくる」
そう言いヴィルヘルムはフローエ夫人に目配せした。
「では、椿さん。向こうでお喋りをしましょう。私の友人もあなたに興味を抱いておいでなのよ」
フローエ夫人は椿の手をとり、三人の貴婦人の方へと連れて行った。
「俺も行こうかな」
クラウディオはそう言いながら二人の後を追った。
ちらりとヴィルヘルムの方へ視線を移す。
ヴィルヘルムの表情にわずかに心配している感情がみえた。
その視線の先は言うまでもなく、赤いドレスを着た大事な少女である。
それにクラウディオは「任せてよ」と口を動かせてみせる。
伝わったのだろうか。
ヴィルヘルムは安心したのか例の男の方へと近づいていった。




