3 招待状
挨拶もお喋りもこの辺で終了にして、客間にいる四人はソファに腰をかけ話に移った。
「私が来たのは他でもないわ……」
フローエ夫人が出したのは一枚の封筒。
手紙だ。
ヴィルヘルムがそれを受け取り、フローエ夫人に視線を送ると彼女は中を見るように頷いた。
許しを得て中のものをみる。
上品な筆跡で書かれたパーティーの招待状であった。
「……どこでもある貴族のパーティーの招待状だと思いますが」
「そうよ。ただのパーティーの招待状よ」
フローエ夫人はにっこりと言う。
「……これが一体何なんでしょう。パーティーの主催者のクルーケンベルグ家に何か問題でも?」
「クルーケンベルグ家は先日、事業に失敗して莫大な借金を背負っているわ。それなのに、こんな大きなパーティーを開く余裕があるかしら」
「再起の為の資金集めをするために呼び寄せているのではないのでしょうか」
それにフローエ夫人はこくりと頷いた。
「私も資金援助をお願いする為のパーティーだと思っていたわ。最近色んな貴族を招待してパーティーを何度も開いているらしいの。同じ貴族を何度も呼んだり……でも、うちではこの手紙が初めて」
フローエ夫人は意味深な顔でヴィルヘルムを見つめた。
ただのパーティーであればここには持ってこない。
「最近妙なことが起きているの」
「妙なこと……」
「最近貴族の娘が三人も消失したという話よ」
「……ええ、その話は俺の耳にも届いています」
フローエ夫人は失踪した三人の娘について語った。
貴族の娘が失踪……その過程はさまざまだ。
二人は昼間友人の家に遊びに行くといってそのまま帰ってこなかったり、一人はパーティーから帰る途中に行方不明になったという。馬車ごと不明となったのだ。
友人の家に遊びに行った娘の場合、友人の下に連絡を出したがそんな約束はしていないと言う返事が返ってきたという。
娘に同情する者もいれば、どこぞの男の元へ行ったっきり帰ってこないのだと娘を人騒がせなと非難する者もいた。
娘の親たちは困り果てて、捜索願いを出していた。
そして、かつて家庭教師をしたことがあったフローエ夫人にも協力を願い出ていた。
その為、フローエ夫人はある程度の情報を収集していた。
「その娘たちの共通点はクルーケンベルグ家のパーティーに参加したということ。それぞれ別々の日にだけど」
「クルーケンベルグ家が誘拐したと?」
「そこまでは言えないわ。まぁ、否定する情報もないけど」
フローエ夫人はしばらく目を閉ざし、気になることをヴィルヘルムに伝えた。
「……気になることは、そのパーティーにはフランケンシュタイン家の当主も来ているそうよ」
「フランケンシュタイン家?」
「あのフランケンシュタイン男爵の?」
今まで聞く側だったクラウディオは身を乗り出して質問した。
フローエ夫人はこくりと頷いた。
フランケンシュタイン男爵の話はヴィルヘルムも聞き及んでいた。
人間嫌いの科学者……毎日何を研究しているのやら城の奥に引き籠っていたと言う。
噂では墓を荒らして死体を使って実験しているという話もあった。
いわゆる変人である。
変人がいればそうした噂が勝手に流れるものだ。
実際、国からの調査が入られたという話もあるが、証拠が全く見つからず結局ただの噂だと片付けられたと言う。
「ええ、あ……でもその噂の男爵はつい先日亡くなられて息子が後を継いだそうよ。だから来るのはその息子。他の子はろくでもないわ」
家を出た息子たちは闇商売に手を染めているとか。
阿片の密売にも手を貸しているとか。
「今回来るのはずっとフランケンシュタイン男爵家に残っていた末っ子のハンスという男」
フローエ夫人は真剣な面持ちでヴィルヘルムに依頼した。
「ヴィル、椿と一緒にそのパーティーに参加しなさい。そしてハンスに近づいてある程度調べて欲しいの」
「その男が何です? 今聞いたところ問題があるのは家を出た兄たち。末弟殿には関係ないかと思いますが……」
ヴィルヘルムの言葉にフローエ夫人は口を閉ざした。
しばらくして重い口を開いた。
「……私の記憶違いじゃなければいいのだけど」
「?」
フローエ夫人はおそるおそる口にした。
「ハンス・フランケンシュタインはずっと昔に亡くなられていたと思うの」




