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不老不死の魔女-Kamelie-(2026年9月21日完結予定)  作者: ariya
迷える2人

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2 男爵家の客人



 学園都市フリードに、学者貴族の家が立ち並ぶ通りがある。

 その一角、フローエ男爵家には東海からの客人が来ていた。


 日中は庭園の世話の手伝いをして、隙間時間には学園図書館を出入りする。


 学生たちははじめはもの珍しく見ていたが、次第に彼女の存在は溶け込んでいった。


「おはようございます」


 朝の庭いじりから戻った椿は薔薇の花を一輪を大事に持っていた。

 庭の手伝いの報酬として、庭師が摘んでくれたものだ。


「おはよう、可愛い薔薇ね」


 フローエ夫人は笑顔で食卓に迎えいれる。


 淡いピンク色の、小さな薔薇。――屋敷を囲う塀に絡みついた飾りのようなものだ。

 もっと綺麗な大輪の薔薇を提案されたが、椿はこの薔薇を気に入っていた。


「はい、後で瓶をいただけないでしょうか?」


「なら、午後にお出かけをしましょう。若い娘に人気の、お店へ買い物しましょう!」


「いえ、お屋敷にあるもので……」


 椿は断ろうとしたが、フローエ夫人は聞かない。


「若い娘のお店へ入るなんてなかなかしないから楽しみだわ」


 執事に時間指定で馬車の準備を依頼する。


「近くの会場に大眞国の芸人団が来ていたな。招待チケットがあるし、ついでに行ったらどうだ?」

 

 朝の様子を眺めていたフローエ男爵は思い出したように言った。


「あら、そうね」


 フローエ夫人は目を輝かせた。


「いえ、ご夫婦で行かれてください」


 椿は、招待チケットが2枚なのを知り首を横に振った。


「大丈夫よ。この人とは、別のオペラへ行く予定だし」


 椿は萎縮してしまった。


 良い部屋も与えられて、白猫ビアンカの滞在も許してくれた。

 気づけば足元にふわとした感触がする。


 エーデルシュタイン邸から、フローエ男爵家へ移動する際荷物に紛れ込んでいた。


 急いでクラウディオに送り届けようとしたが、フローエ夫人は笑ってこたえた。


「ベルモンドがあなたの為に寄越した護衛でしょう。大丈夫よ。必要あれば、自分でベルモンドの方へ行くから」


 後日、クラウディオからの手紙もその通りのものが記載されていた。


 こうして白猫の使い魔ビアンカは椿の側にいる。

 姿を消すこともあれば、椿の足元にこするつけてくる。

 使用人に懐くことはないが、良いお肉を出されたら機嫌良く現れる気まぐれさは猫そのものだ。


「ところで翻訳は進んでいるかしら?」


 フローエ夫人の質問に椿は曖昧に答える。

 まだ、数ページしか進んでいなかった。


「またわからないことがあれば言ってね」


 フローエ夫人から提案されてはじめたのは絵本の翻訳だった。


 絵本を、故郷の言葉に翻訳する作業である。


 椿はこの国に滞在して、独特な学問の数々に圧倒された。

 理解するだけの能力はないが、いつかは国に渡る可能性がある。その助けになればと、翻訳を始めた。


 学問の本ではなく、子供向けの絵本ではあるが単語や文章のニュアンスを知るにはちょうど良い。

 これが、学問を知る助けになればと椿は白紙の記帳をもらい翻訳を開始した。


「もう少し頑張ってみたいです。もしかすると私の翻訳が、母国の学者の役に立つかもしれませんし」


 それがなくても何とかなるかもしれない。

 

「いいと思わ。あの絵本は、ユリアン国の古典を童話に編集したものだから……ひいてはユリアンの文芸にも触れやすくなるかもしれない」


「いえ、そこまでは……文法やニュアンスが違ってくるかもしれませんし」


「あら、話の流れを大まかに知られればそれだけで翻訳の助けになるわよ」


 フローエ夫人はふと思い出したように夫の方へ振り返った。


「今度のオペラはジョルジョ・フィアンマの代表作だったはず……あなた、どうせならもう1枚チケットを手に入れてくださる」


 ジョルジョ・フィアンマ――マリアが教えてくれたユリアン国の古典、劇作品だ。

 椿が翻訳をしている絵本も彼の作品がベースになっている。


「そこまでお気遣いいただかなくても」


「ダメよ。折角なんだからうんとこの街を楽しみましょう」


 フローエ夫人はスケジュールをぎゅうぎゅうに詰めかねない勢いであった。


 それは先日椿が相談した内容もある。――


 今外国に滞在しているシェートンが戻ってきたら相談をしたい。


「シェートン様に、東金へ帰る方法を聞きたいです」


 いつまでもここで厄介になる訳にもいかず、椿は自分のいた場所に戻ることも考えていた。

 それはいつになるかわからない。


 だから、フローエ夫人は椿に色々と経験させたかった。


 彼女の好意は重いが、椿としてはありがたかった。

 色んなところへ連れまわされて、経験すると少しでも気持ちが紛れる。


 今も真夜中に、ふとした時に、ヴィルヘルムに会いたくなる。


 日中も彼の姿を探す自分がいて、苦しくなった。


 

 

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