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しばらくしてバトルトからの信号魔法を受けて阿保三人とライラ、リアは一か所に集まった。
「……なるほど、確かに手分けして魔物の捜索をした方が良いだろうな……」
「僕は探知魔法が使えますが……トーメル湖全域を僕の探知魔法一つで捜索するのには少し無理がありますね……」
全員が一か所に集まって行われたのはトーメル湖に来た目的でもあるアイヴァンの討伐を遂行するための作戦会議だった。ダイビング中にリアが居なくなった件についてはライラが全面的に悪いという事になった。
これはリアがライラのことがどうしても心配で戻ってしまった、と話したからだ。阿保三人は何の知らせもなしに単独行動を行ったリアに同じようなことをもうしない様に、と釘を刺すだけにとどまった。だが阿保三人は体調を崩し、リアに心配をかけたとしてライラの事を非難していた。リアがアイヴァンをどう討伐するのかを聞かなければライラは今でも阿保三人から罵詈雑言を浴びせられていただろう。
「じゃあそれぞれ散らばって魔物の捜索及び討伐に当たろう。危ない状況にあると感じたら信号魔法で自分の位置を伝え援護を求めることを忘れるな」
「了解」
「わかりました」
ライラから、ではなくライラを介してリアが阿保三人に手分けしてアイヴァンの捜索に当たるべきだ、と提案するとすんなりと受け入れられ、行動の方針も決められた。
「リアは安全な場所で待機していてくれ……お前はあっちを探しに行け」
「そうします」
戦闘能力のないリアはアイヴァンの捜索には加わらず安全な場所で待機、阿保三人から見ると危険分子である私は阿保三人にせかされるようにしてアイヴァンの捜索に向かう。
「……安全な場所ってどこなんですか……」
ライラが大人しくアイヴァンの捜索に向ったことを確認した阿保三人もアイヴァンの捜索のためリアから離れていき一人その場に残ったリアは、呟いた。
安全な場所で待機する、と言う案自体にリアは反対ではなかった。戦えない自分がいては足手まといになることが分かっていたからだ。
ただ阿保三人が言う安全な場所がどこなのかリアには分からなかった。
阿保三人の間では安全な場所、と言うのが分かっていたようで安全な場所でリアは待機することが決まった時に安全な場所がどこなのか、という質問は行われなかった。
「ソルテット様は、なんて言おうとしてたんだろう……」
安全な場所がどこかわからず、阿保三人にそれを聞くのもリアが躊躇っていた時にライラはリアに何かを話そうとしていたのだが阿保三人に妨害されて何も聞けなかったことを思い出したリアは、あたりを見渡した。
ライラも、阿保三人もまだ見える位置にいて追いかけようと思えば追いかけることが出来る距離だった。
「水面……私が行ってもも沈むだけ……」
アイヴァンの捜索に向かうライラと阿保三人は水属性水魔法『水歩行』と呼ばれる魔法を使って水面を歩いていた。この魔法が先日阿保三人が水面でサッカーの様な遊びをしていた時にも用いられていた一般的な魔法の一つだ。
リアは自分の腰辺りを見てからライラや阿保三人がいる場所に目を向ける。
「……今なら、まだギリギリ……」
早朝、魔力を含む光に惹かれて湖の中に入った時のことを思い出したリアは、水面と砂浜の境目に沿うようにして水の上を歩いているライラの位置がまだ足の届かないほど深い場所にまでは至っていないと考え、急いでライラの後を追った。
阿保三人は魔物の捜索に向った当初は定期的にリアの様子を伺うために振り返っていたが、捜索に向ってからしばらく時間が経つと阿保三人はリアの様子を伺うことはなくなった。だが不意に確認されてしまうかもしれないのでリアは阿保三には見つからない様に一度森の中に入って木々で姿を隠しながらライラの元へと向かった。
視界の端で阿保三人の事を捉えながらリアは森の中で出来るだけライラに近づいてから砂浜に移動し、まだ浅瀬と言える場所にいるライラの元に足を運ぼうと水の中に足をつけた。
水の中に足を入れたリアは水の抵抗を受けながらも一歩二歩と歩みを進めた。膝が水に浸かるか浸からないかぐらいの場所までリアが移動すると水を足でかき分ける音に、ライラ気が付いた。
「…………」
音のなる方を向き、リアが近づいてきていることを発見したライラは無言で阿保三人の動向を確認する。阿保三人はそれなりに距離が離れた場所まで歩いて行っているようで自分のいる場所を確認することはもうないだろうと判断しリアのもとに向った。
リアはリアでライラのもとに向っていたのだが水の抵抗を受けながら水の中を歩くリアよりも水の上を歩くライラの方が歩行スピードが速いのは当然の話で、リアの膝が水に浸かり切る前に、ライラはリアと合流した。
「なぜこちらに?」
「……ソルテット様の容態が心配だった、のもあります。でも、その……私の事、守ってくれるんです、よね?」
リアは水の中から、水の上に立つライラを見上げる。
「……ええ、それが命令ですからね……はぁ……それで、私の元に来たという事はあの三人が言う安全な場所がどこかわからなかった、という事でいいんですか?」
「……はい……」
水の上に立つライラはリアの事を見下ろしながら、問いかけた。私はこの見下ろし、見上げられる状況に妙な背徳感を覚えてしまう。
「あの三人が言う安全な場所はおそらく私たちがトーメル湖に訪れたアイヴァンの数を確認しに行った小屋のとこだと思います。あそこは観測装置が置かれている分、他より強固なつくりなっているはずですから」
推測を口にしながら、ライラはリアに手を伸ばした。
「貴方も水の上を歩けるようにします。手を掴んでください」
リアは何の躊躇もなくライラの手を取る。ライラは自分の手を掴んだリアの手を自分の背中に回し、距離を詰めて腰を抱く。
「あの……?」
「大人しくしていてください」
ライラは身体強化魔法を使い、身体能力を上昇させてからリアの事を抱き上げた。
「わ、わわ……」
急に抱き上げられ、バランスを崩しそうになっているリアの体を支えながらライラはリアに『水歩行』の魔法を付与してから水面にリアを下ろした。
「どうですか?」
「……私、浮いてます……」
水の上に立つ感覚にリアが慣れるまで少しの時間を有したが、その間隣にいてリアが転倒しない様に見守っていたライラはリアが水の上に安定して立つことが出来るようになったことを確認してから砂浜を目指して歩き始めた。
最初、リアは歩きづらそうにしていたが水の上に立つよりも早く歩くことに慣れてライラを追うようにして砂浜を目指した。
「……水の上って、変な感じがするんですね……」
砂浜を踏みしめるリアは水と砂の踏み心地の違いを感じていると、遠くに白い物体が一つあることに気が付いた。
「……あれは……! ソルテット様……!」
リアはライラにも分かるように、白い物体がある場所を指さした。ライラはリアの指をたどり、視界を空に向けた。
「……アイヴァン、ですかね?」
「恐らく。捜索に向かった三人の内の一人が魔物と遭遇、交戦した結果一匹を取り逃す……そんなところでしょう」
遠くに白い物体があることを認めたうえでアイヴァンが飛んでいる原因をライラは推察する。リア護衛用分身はゲームをしていた時には分からなかった阿保三人がどうしているのかを知ることが出来る。そのため今回も何があったのかを把握することが出来た。
遠くにある白い物体はアイヴァンに違いはなく、ラウラが推察した通りに阿保三人の内の一人、バトルトが三体のアイヴァンと交戦。二体のアイヴァンを討伐した物の最後の一匹には逃げられてしまっていた。




