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「……手負いの可能性があります。近寄らないでおきましょう」

「手負い、なのにですか?」

「ええ。アイヴァンが好戦的ではありませんが、戦えないわけではないんです。『氷の鋼羽』が、やはり厄介です。緊張状態のアイヴァンは躊躇もなく『氷の鋼羽』を使用してきます。こちらに気づき次第『氷の鋼羽』を使用してくる可能性もあるので、近寄らない方が良いでしょう。特に、空中に居る時はアイヴァンの様子を確認することが出来ないのでこちらの存在に気が付いているのかいないのかを判別することが難しいので」

 ライラはアイヴァンがどの方向に進んでいるのかを確認するために目を凝らす。

「……こちらに近づいてきています、ね……移動しましょう」

「わかりました」

 確認の結果、遠くにある白い物体が少しづつ大きくなっていることに気が付いたライラはリアを連れて移動を開始した。

 移動先である観測室は昨日ライラ達が睡眠をとった場所を通過する必要がある。そこは休憩エリアとして扱われていてライラ以外にもパラソルやビーチチェアを用意している人がかなりの数いる。そのためパラソルなどが砂浜の至る所に設置されている。

「……ソルテット様……あれ……」

 そんな様々な設置物があるエリアに足を踏み入れたリア達は近くの水辺で優雅に泳いでいるアイヴァンに遭遇してしまった。

「……一体だけ……」

 ライラは用心して辺りを見渡してみるが他の魔物の姿は見えなかった。

「後ろから攻撃される可能性も、在りますから……できれば討伐しておきたいですね」

「……大丈夫、ですか?」

「大、ごほ……丈夫です……」

 少し前までは何とか我慢出来ていたが、ここまで移動してくる間に我慢が聞かなくなってきたライラは時々ではあるがせき込んでいた。高熱を出している訳では無いが、熱はあるし体は気だるげだ。リアが心配するぐらに顔色も悪い。

「ここで、待っていてください」

 ライラは安全のためリアに待機するように言ってからアイヴァンにゆっくりと近づいていくが後ろから足音が聞こえてくる。

「……待っていてください……そう、言ったはずですが……」

「で、でも……その……」

「……わかりました」

 森の中に隠れていた時とは違い、確実にこちらの存在に気が付いていないとは言い切れない状況で戦えないリアをアイヴァンに近づけるのは危険だがリアは大人しくライラの言う事を聞く様子はなかった。そのためライラはリアを連れてアイヴァンに接近していく。

 アイヴァンはトーメル湖の中心に体を向けていて、振り返る様子もない。そのためライラ達はアイヴァンの視界に映らない様に真後ろからアイヴァンに近づいていく。

 現時点でもライラの魔法はアイヴァンに届くだろうが、理想は一撃でアイヴァンを討伐し『氷の鋼羽』を使用させないことだ。今の距離で確実にアイヴァンを討伐することが出来るとは言えないためライラはさらに距離を詰めていく。

 あと少し距離を詰めれば確実にアイヴァンを討伐することが出来る、そんな状況の中でライラ達は自分の耳を疑う様な状況に陥った。

「GYUA――」

 自分たちの真後ろから、アイヴァンの鳴き声が聞こえてきたのだ。

「どういう――!」

 ライラは慌てて振り向き、アイヴァンに攻撃を仕掛けようと杖を構えるが視界の中にアイヴァンの姿は確認できなかった。

「どこに……!」

 ライラはアイヴァンの姿を確認できなかったがライラの少し後ろにいたリアには見えていた。

「そ、ソルテット様……パラソルの、上……です」

 戦々恐々とした様子で、リアはライラにアイヴァンの居場所を伝える。ライラはパラソルの上を探すが今の居場所からではやはりアイヴァンの姿が確認できないためライラはリアの隣に立った。

「……顔に、焼け跡が……」

 リアの隣に立ちアイヴァンの姿を確認したライラは、呆然とつぶやく。

「あ、あの魔物……もしかしてさっき仕留めきれなかった奴なんじゃ……」

 確実にリア達の事を見つめているアイヴァンを前に、リアは声を震わせていた。

「……おそらく、同じ個体でしょう……気を――」

「GYUA――」

 気を付けて、と言おうとしたライラを遮るようにしてまたしても背後からアイヴァンの鳴き声が聞こえてくる。

「まさか……!」

 自分たちの後ろから聞こえて来た鳴き声に、リアは反射的に振り返った。

「……ソルテット、様……湖にいたアイヴァンが、私達の事を見てます……それに、湖にいるアイヴァンにも焼け跡が、在ります」

 パラソルの上にいるアイヴァンを監視するためにも後ろを振り向かなかったライラにも分かるようにリアが情報を伝えるが、情報が伝えられたライラは楽観視できない状況に表情が強張っていく。

「……攻撃してきそうな様子は、在りますか」

「……い、え……どういう訳が、じっとこっちを見ているだけ、です」

 ただひたすらアイヴァンに見つめられているという状況で、ライラは構えた杖を下ろすことなくアイヴァンに向け続けている。

「……私達が攻撃するのを、待っているのかもしれません……先ほど奇襲した時に私が魔法を発動するまでに必要な時間はわかっているはず……何をしてくるのか分からない状況で攻撃を仕掛けるのではなくて、魔法を使うと分かっている状況で仕掛けるつもりなのかもしれません……」

「せ、先制を取れるなら、勝機はあるんじゃないです、か?」

「……私たちが魔法を使う場合、杖に魔力を流し魔法陣を展開し、魔法陣に魔力を流すことで魔法を発現させるのですが、魔物は魔法陣を展開することなく魔法を使うことが出来ます……私が魔法陣を展開した時点で魔物が魔法を使用すればそれだけで私は魔物に先制を奪い返されます……一方的な勝機と言うのは存在しません……」

 魔法陣を経由するが故の弱点が原因で動けないライラは、調子のよくない体に鞭を打ってどう行動すればリアが傷を負わないでこの場を切り抜けることが出来るのかを考えているがいい案は浮かばない。

「ど、どうすれば……」

 戦う力を持たないリアは湖にいるアイヴァンが攻撃を仕掛けてこないかを見張ることしかできない状況だ。

「怪我の一つや二つは、覚悟しなければいけないようですね……私の方から仕掛けます。湖にいるアイヴァンに動きがあれば、教えてください」

「……わ、わかりました」

 無傷で状況を打破できる可能性を求めるのを諦めたライラは怪我を負うことを前提で攻撃を仕掛ける。

 杖に魔力を流し、魔法陣を展開する。そのまま魔法陣に魔力を流し魔法を発動しようとするが、ライラの予想通りアイヴァンは魔法を発動した。

 魔法陣を展開しないがゆえにライラよりも早くアイヴァンは魔法を発動させる。アイヴァンは魔法を使用することによって先端が鋭くとがった氷の礫をいくつか生成し、ライラ達に向けて射出した。

「ソルテット様! アイヴァンが……!」

 湖にいるアイヴァンに動きがあったことをリアから知らされつつも、ライラはパラソルの上にいるアイヴァンの討伐を優先する。今後ろを振り向いたところで魔物を倒す順番が変わるだけで魔物がこれからとるであろう行動を阻害できる訳では無いからだ。

 ライラは射出された氷の礫を短剣で叩き落そうとする。何個かの氷の礫を叩き落とすことには成功したがすべての攻撃を無力化できたわけではなかった。

「うぐっ!」

 ライラはアイヴァンの攻撃を体に受けるが、パラソルの上にいるアイヴァンが狙ったのはライラだけで、リアには何の影響もない。

 短剣でアイヴァンの攻撃を無力化しながらも魔法陣に魔力を流していたライラはやっとの思いで魔法を発動させる。アイヴァンはライラの魔法を迎撃しようと再び魔法を発動しようとしているが、ライラの魔法はすでに発動できる状態にある。この状況からアイヴァンよりも攻撃が遅れるという事はなく、アイヴァンよりも早く魔法を発動したライラはアイヴァンの頭部を焼き貫いた。


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