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 ライラが見えなくなる位置まで移動したガルド達阿保三人はようやくリアの事を砂浜に下ろした。

「……なんで……」

 ここで抵抗してもまた連れ戻されるだけで意味がない事を察したリアは、項垂れる落ち込む様子を見せるが阿保三人は落ち込むリアを見ても自身の行動を改めようとしない。

 しかし、空回りしていたり自分勝手だったりするが確かにリアの事を大切に思っている阿保三人の行動を責めることはできない。なぜならバトルトの『ソルテット伯爵が平民をさらい人体実験に使用した』と言う言葉に嘘はないからだ。

 人体実験をしていると気が付いたのは阿保三人とリアが同じパーティーであるにも関わらず予定を一切伝えずにトーメル湖に向う準備をしていた時だった。

 その時、リアは阿保三人が用意した水着の中からどれかを選ばなければならない状況にあった。どれも布面積が少なかったため一番肌が隠れる物、一番着ていて恥ずかしくないものを消去法で選んでいたのだがそれには時間がかかった。

 阿保三人は待っている間、水着を販売していた店の周りをウロチョロしていたのだが阿保三人の内の一人、ガルドが裏路地から漂ってくる腐敗臭に気が付いた。

 憲兵等に通報することも案の一つとして挙がったが最終的には自分たちで見に行こうという事になり、阿保三人達は警戒しながらも匂いの漂う方向へと足を進めていた。

 そして匂いの先にあったのは見るに堪えない凄惨なランロクの実験場だったのだ。

 天井からはいくつかの手足が垂らされ、棚には男女別々に分けられた胴体が収納されていた。腐敗処理をしていないこれらの肉塊はあっという間に腐りガルドが気づけるぐらい強烈な匂いを発していたのだ。

 阿保三人がランロクの実験場を見て絶句していた時に、後ろからランロク本人が現れていったのだ。

「私の実験場にようこそ……何か、気になる物はあるか? 興味があるのなら、私が今何をしているのか教えてもいいし、実験に参加しても構わない」

 この時、ランロクは目隠しや耳栓、猿轡をされた上に拘束され自由に動くこともできない状況にある女児を小脇に抱えていた。

 阿保三人の視線が自然と小脇に抱えられている女児に向く。女児に視線が向いていることに気が付いたランロクは意気揚々と説明してみせた。

「最近、興味深い素材を発見してね。それを利用した新種のポーションを制作しているのだが……副作用があるかも分からない物を製品として世に出すわけにはいんだ……だからこうしてモルモットを用意して服用させ人体にどのような効果があるのか、試しているんだ……」

 この時のランロクは余所行きの朗らかな表情で、優しい声で阿保三人に話しかけていた。魔法が無い世界ではゆるされない暴力行為も、魔法がある世界では簡単に許される行為になることがあるが殺人は魔法が無い世界でも魔法がある世界でも認識は変わらず許されない行為だ。

 許されない行為をしている人物が朗らかな表情で、優しい声で声を掛けてきた時の阿保三人は一体どういう感情を抱いたのかは分からない。

「そうなのですね、私達は用がありますから、この辺りで失礼させていただきます」

 分からないが少なくとも一刻も早くその場から離れないと思っていたことは間違いないだろう。阿保三人はランロクとまともな会話もせずにランロクの元を去ったのだから。

 私は一連の出来事をリア護衛用分身が使用していた探知魔法から知ることが出来た。しかしあくまでもリアとして主観でゲームをプレイしていた私はこのことを知らなかった。ゲームプレイ中に水着を選び終えたリアの前に現れた阿保三人の顔色が悪い事には気が付いていたのだが……まさか裏でこんなことが起きていたとは思わなかった。

 ゲームをプレイしていた時はライラの元から強引に引きはがそうとする阿保三人に怒りを抱いていたのだが、今となっては同情してしまう。もし私が同じ立場にいたとしたら同じような決断をするだろうから……それはそうと、ランロクは何をしていたのだろうか? 調査しようとは思ったのだがリアが水着を調達してすぐに阿保三人はトーメル湖に向おうとしていたせいでライラの分身を操作する必要が生まれてしまい、何の調査もできなかった。

「ほら、リア。気分転換でもしよう。昨日聞いたんだが、トーメル湖は生態系が豊からしいんだ……潜ってみないか?」

 落ち込むリアを励ます様にバトルトは声を掛けるが、リアは黙ったまま何も言わなかった。

「とりあえず言ってみようぜ。途中で気が変わるかもしれないからな」

「そうですね、一度向かってみるのも悪くないかもしれませんね」

 ガルドとエメルはトーメル湖に潜る気があるようだが、ダイビングを行うのならそれ用の装備が必要だ。阿保三人は初日から湖の中に潜るつもりだったようで、阿保三人のロッカーの中にはダイビング用の装備が四人分用意されていた。

 当然のようにライラの分は無い。

 ただロッカーのある更衣室に向かうためにはライラがいた場所の近くを通らなければならなかった。そのため少し遠回りしながら阿保三人は無抵抗なリアを連れて更衣室まで向かい、ダイビング用の装備を持ち出し水辺へと向かった。

「よし、全員準備良いな」

 装備を着用したバトルトが先頭に立ち、後ろにいる他の三人に声を掛ける。

「大丈夫だぜ」

「私も、大丈夫です……リアも、大丈夫みたいですよ」

 病人を放置して遊ぶことに後ろめたさを感じているリアの表情は浮かないが、阿保三人に言われた通りに装備を着用していた。

 今回阿保三人が用意したのはトーメル湖が露店などの無法地帯ではなくちゃんと管理している店舗が販売している正規品である。阿保三人が用意したダイビング用の装備は魔法が無い世界でダイビングする際に用いられていた装備とそこまで差はない。酸素ボンベにゴーグル、体に巻き付ける重りや足ひれ、ダイビングスーツなどだ。

 ただこの世界は日本ほど技術が発展している訳では無いため、所々に魔法が使用されている。

「じゃあ、行くか」

 バトルトが先導するような形で阿保三人とリアは水中へと潜っていく。最初は足の着くほどの浅瀬だが時間がたてばたつほど水深が深くなっていく。

 水深が深くなればなるほど砂しか見えなかった湖底には少しづつ岩石などの岩肌が見え始める。

 そんな砂と岩が入り混じる湖底には浅瀬では確認できなかった水中の生態系が見えてくる。湖ではあるのだが日本では海洋に生息するようなサンゴ礁やタコの様な生き物がちらほらと姿を見せ始める。その他にも自生する多種多様な水中植物の姿を確認することが出来る……のだがそれらを目にすることが出来たのは阿保三人だけだった。

「……何なんですか、本当に……」

 水辺から上がり、装備を脱ぎ捨てたリアは失望した様子を隠すことなくその場に力なく座り込み項垂れる。

 こうなった理由は単純で阿保三人の泳ぐスピードは速くリアは阿保三人に付いて行くことが出来なかったのだ。

 リアは岩肌が見えてくる前に阿保三人の姿を見失ってしまったのだがコンパスを所持していたのはバトルトのみで、リアはコンパスを持っていなかった。加えて何も教えられていないためリアには阿保三人がどこに向おうとしていたのかも分からないため、追跡のしようが無かった。

 当てずっぽうな方向に泳ぎ阿保三人を探すにはトーメル湖は広すぎる。確実に迷子になると踏んだリアは来た道を引き返してきて、今に至る。

「……疲れた……」

 一人でぼやくリアは脱ぎ捨てた装備をそのままにして更衣室に向い、体から水気を拭い取りシトラル教育機関の制服に着替えなおした。

「……ソルテット様、体調はいかがですか……?」

「……だいぶ、マシになりました……」

 制服に着替えなおしたリアが向かう先はずっと気になっていた熱を出したライラの元だった。


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