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二人が睡眠をとってから五時間ほどたった頃。当たりはまだまだ暗くライラが明かりを確保するために放った火の玉以外の光源が無い状況で、リアは目を覚ました。
ライラが放った火の玉がある程度の明かりを確保しているため、トラウマが刺激されることもなかったリアは少しずつ意識を覚醒させていった。
「……今、何時だろ……」
ライラが明かりを確保するために放った火の玉以外の光源が無いため、正確な時間がリアには分からなかった。もう朝日が昇り始める時間に近くライラがまだ眠っているのならリアはライラの目を覚まさない様に椅子から降りるつもりだった。
「二度寝、しようかな……」
しかし正確な時間が分からなかったたリアには再び眠気が訪れていた。
「なんで、こんな眠いんだろ……」
リアには睡眠時間が不足しているような感覚はなかった。だというのに、何日も寝ることが出来なかった時の様な抗いきれない睡魔が、リアを襲っていた。
トク、トクとリズムよく自分のものではない心臓が鼓動している音が聞こえるからだろうか。それとも、自分のものではない柔らかな物が体を包んでいるからだろうか。
リアには分からなかった。だが、分かる必要はなかった。リアはそのまま抗うことなく微睡の中に落ちていった。
今まさに再び夢の世界に旅立ったリアも、いまだに夢の世界にいるライラも知らない、知ることが出来ないことだがデーモンコアを取り込む睡眠が必要のない体になった私には、今二人がどうなっているのかを把握することが出来た。
最初、二人は体を密着させていただけだったが時間が経つにつれてライラがリアの事を抱きしめリアもライラの事を抱きしめ返すようにして体が動いていったのだ。
リアの耳に届いた心臓の鼓動は間違いなくライラの物であり、リアの顔、耳はライラの心臓の鼓動が聞こえる位置に、ライラの胸の中に有ったのだ。
これは、ゲームでは知ることのできなかった、今の私だから気づくことが出来た、そんな場面だった。
それはそうとして、私は念には念をと付近の状況を確認することにした。湖の底やトーメル湖を囲む山々に住まう魔物を調査しなおし、脅威となる魔物が居ないかを確認する。
加えて少し遠出してアイヴァンが今どれぐらいの位置にいてあと何日でトーメル湖を訪れるのかも確認しておく。
調査の結果、周辺に脅威はなくアイヴァンがトーメル湖に到着するのは今日の午後一時ぐらいになることが分かった。
ついでに私はヘルトアブルト大迷宮で討伐した悪魔から取得したデーモンコアによって変質した自分の体について調べることにした。
うすうす感ずいては居たが、今の私は呼吸する必要が無いみたいだ。別にできないわけではないみたいだけれど、わざわざ呼吸を行う事で肺に空気を送らなくても魔力があれば問題なく活動できるようになっている。
三つもデーモンコアを取り込んだ私は人間が活動するうえで必要な空気、食料、水分、呼吸、睡眠、血液の内の三つ、食料、呼吸、睡眠を必要としていない。
ちょっとずつ人間ではなく魔法生物になっている証拠ともいえるだろう。しかし、なぜデーモンコアを体内に収めると人間からかけ離れた存在になっていくのかは、分からない。
ただ今の私はヘルトアブルト大迷宮で二体の悪魔を討伐した時から一睡もしていないし、何も口にしていないが何の問題もなく生きていられるし、確認のために私は湖の底に一時間近く居るのだけど、息苦しくなるような感覚は無い。
肺の中に有った空気は潜っている途中で排出済みだ。そのため私の肺の中は水で満たされているのだがやはり問題はなかった。
「う……うぅん……」
湖底で私自身の体の状態を確かめていると、リア護衛用分身がリアの目覚めを確認した。湖底に居れば私の体が確認されることもないだろうが念のために私はヘルトアブルト大迷宮の最下層に移動してライラとリア護衛用分身に意識を向ける。
ライラ、使い勝手が良かったので幻覚の森の試験からずっと消さずに存続させている私の分身は未だに睡眠の状態を保っているようだ。
そのため私はリア護衛用分身を介してリアの状態を確認する。
「……良く寝た、気がする……」
今は朝日が地平線から上ってくる、日の出の時間帯だ。ライラが出現させた火の玉が無くても明かりは十分に確保されている。
「……起こさないようにしないと……」
日の出の時間が近づくにつれて二人の距離は離れていったため二人の距離感は最初、ビーチチェアに寝転んだ時と大きく変わっていなかった。
そのためリアはまだ空が暗い時間にライラの胸の中にいたことを知ることはない。
リアはライラの事を起こさない様に、注意を引いてしまわない様にと慎重にビーチチェアから起き上がる。
「動くな」
だが気を張りながら眠りについたライラはわずかな衣擦れ音やリアの体が動いたことを察知した。その結果、寝起きで短剣を掴んだライラはリアの首元にナイフを押し付けることに成功した。
「ゆっくり、ゆっくりとこちらを振り返りなさい」
威圧的なライラの声を聴いたリアは涙目になりながらも指示通りにゆっくりと振り返り、ライラにその顔を見せる。
「……脅威は、無いようですね」
ゆっくりとリアが手に武器の類を所持していないことを確認したライラは首元に充てていた短剣を離した。
「おはようございます」
ライラはリアが涙目になっていることに気が付いているが、それに触れることはなく光源確保用の火の玉を消して持ち出した荷物を持って更衣室へと向かった。
「な、なんでなの……?」
短剣が首元から離れ、命の危機が去ったリアはその場にへたり込んでしまう。寝間着が砂にまみれることなど、気にもならなかった。
寝間着の裾を強く握りしるリアは、呆然とつぶやいた。
「なんで、こんな……なんで……」
首元に残る死の気配、充てられた短剣の感触がリアの首からは、消えていなかった。
「私、ただ、起こさない様にって、慎重に……なんで……」
へたり込むリアの目尻には、涙が浮かび上がるがそれを拭ってくれる相手など、この場にはいなかった。
虚しく、波の寄せる音がリアに耳に届くだけだった。




